三話 過激な特訓!
遅くなりました!
「「はぁあああああああああああ‼︎」」
二人の気合いの籠った声が重なり合い、二振りの木剣が突っ立って居る緋月に振り下ろされる。緋月はなんて事もないと言う表情で、二人の合わせ技を防ぎ弾く。
「――っ!」
弾く力も二人にとっては倍の力だ。木剣を弾かれ、タタラを踏んでいた律に緋月が迫る。木剣の振り下ろしを、律は自身の木剣で防ぐが、そのまま押し切りられ地面に倒される。律の救援に一歩遅れた葛葉が、緋月を背後から音も無く強襲した。
「よっ!」
が、緋月は葛葉の攻撃を華麗に避け、持っていた木剣すらも投げ捨てた。この特訓には毎度恒例のとあるものが見れるのだ。それは、緋月の十八番である合気道の技が炸裂すると言うもの。そして……。
「……今日は縞パンか」
「可愛いですね」
戦闘服がスカートな葛葉のパンツが大公開されると言う、毎度恒例の行事があるのだ。そしてそれを縁側で眺める葉加瀬と五十鈴。
「――いっ!」
クルリと身体を宙で回され尻餅をつく葛葉。痛みに硬直する時間も与えられずに、緋月の追撃が迫ってくる。ほぼ脊髄反射で避け、手放して落とした木剣を手に取る。この間僅か五秒であった。
(……間違い無い。葛っちゃん……強くなってる)
顔にこそ出さないが、緋月はかなり心の中で驚いていた。今までなら最後の追撃は交わせず、そこで特訓が終わるはずだった。だが今回はきちんと反応し、避ける動作中に剣を拾い無駄のない動きで立ち上がったのだ。
「……はぁ……はぁ」
だとしても、葛葉にとってはかなりハードな特訓だ。早めに特訓を終わらせた方が良いだろう。ここからは少し本気で行く。
「は――っ!?」
またしても脊髄反射で、緋月の攻撃を防いだ。だが、防いだ木剣が悲鳴を上げ、腕もプルプルと震え出した頃、身体が軽くなった。――と同時に、ドォン‼︎ という轟音が葛葉の背中の方から聞こえてきたのだ。
「がっ――……」
視界がチカチカし、手足に力が入らず、ただただ歩み寄ってくる足音を聞きながら葛葉は気絶しそうになった。だがグッと拳を握り、手に光を収束させた。
「……――っ‼︎」
形を帯びてきた光が、木剣となり光が霧散していく。葛葉の全力を振り絞った振りは、緋月の顔のスレスレを空振った。次の瞬間、葛葉は力無く崩れ落ちた。自分でも何が起こったのか理解出来ておらず、ふと腹部に視線を向ければ木剣の切先がめり込んでいた。
「……ぁ」
「あ、危なかった……」
込み上げる吐き気を堪えながら、緋月の顔を伺うと冷や汗をかき、少々焦った表情だった。
「葛っちゃん強くなってない?」
「……こ、これで強くなってるって言うんですか……?」
蹲っている葛葉が緋月の言葉に疑問を抱く。確かに強くなっては居なさそうだ。なぜなら強くなってる者が、腹を抱えて蹲っている訳がないからだ。
「ま、強くなってる事は確実さ。はい、ホイミ!」
「この世界の回復魔法ホイミじゃ無いでしょ!」
徐々に安らいでいく痛みに、ホイミという名の魔法もあるのかと疑ってしまう。腹部にあったジンジンとする痛みも無くなり、腕にあった鋭い痛みも無くなる。腕の方はどうやら折れていたみたいだ。
「……緋月様は何でも出来ますね」
「いや、緋月は何でも出来ないのさ」
「……それはどう言う」
「出来ないではなく出来なかった、のが正しいか」
近接戦闘に回復による支援も可能、まさにオールランダーだ。更にレベルは9と言う……。葉加瀬と五十鈴が、ふと疑問符を浮かべて二人してゆっくりと、ある方向に目を向ける。そこには、ふにゅ〜っとまだ地面に倒れて突っ伏して居る律が居て、二人はすぐに目を背けた。
(何だか今、視線を二つ感じたのですが、きっと気のせいですよね……? 直ぐに逸らされたんですけども……きっと気のせいですよね!)
目尻に涙を溜め、穏やかな表情で察しがついて居る律は、自分に気のせいだと自己暗示し始める。
「……律ちゃんはいつも通りかな」
「律って直ぐにネガティブになっちゃいますから」
そんな律を、遠くから眺めていた緋月と葛葉は苦笑しながら呟くのだった。
読んで頂き、ありがとうございます‼︎
毎回恒例のポロリ……良いですね!
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