二話 英雄の居ない世界
本当に序盤で戦う敵じゃ無いですよね。
スタスタと早足で廊下を歩く緋月。その表情は暗かった。朝感じた圧に嫌な予感、科学的根拠は無いが曇天の空。フラグが立ちまくりだ。特に明け方に感じた圧が1番気がかりだった。早足で歩く事数十秒後、ギルド長室の前に着いた緋月は、両手で部屋の扉を開けた。
「……緋月」
「………その感じは、葉加瀬も感じた?」
「……感じたよ」
葉加瀬も緋月同様暗い表情で、ソワソワしないのか腕組みしながら右往左往していた。ローテーブルの上には山積みの資料にノートパソコンが置いてあった。
「今日、何かあるかもね」
「……うん、嫌な予感がまだしてるよ」
ひしひしと感じる予感。緋月の予感は大抵当たる。それも嫌な予感のがよく当たるのだ。
「……ギルド本部に行って、念の為の応援要請は……」
「無理だろうね」
顎に手を当て数秒思考した緋月が口にしたのは、増援。この嫌な予感が最悪な形で実現するならば、間違いなくこの街が滅ぶ。冒険者の数も質も高く無い、始まりの街なのだから。
「……」
「いざとなったら、私達だけでやるしか無いか」
この街で強いのは緋月、葉加瀬の二人のみ。後はギルド職員が五十名、大半はLv.3以上か未満。これだけでも大国一つを潰せるのだが……。最悪の予感の相手が相手だ。
「防衛戦は即突破されるだろうし、攻めても蹴散らされる……流石は巫女だね」
失笑しか出ない。とばかりに葉加瀬はため息を吐く。鬼族の巫女『鬼丸』改めてその強さに驚愕する。絶滅戦争時代、鬼丸が全盛期の時には魔王軍の第一歩兵大隊や調教魔獣大隊に第一第二第三魔術師団も、鬼丸たった一人な上に五分で潰されたのだから。魔王軍は鬼族と戦う際には、必ず大敗を喫していた。
「……とりあえず、いつでも街の人々を避難できるようにしておこうか」
「なら、偵察も必要だね。市壁の上に待機させるとしよう」
二人が沈黙してから、一から二分くらい経った頃、二人はそれぞれの意見を言い、即行動に移した。
カチャカチャと食器の音がして、葛葉は体を伸ばしながら欠伸をしていた。
「葛葉様。片付けが終わるまでに、着替えを済ましておいて下さい」
「うぃ〜」
五十鈴がお盆を持ちながら部屋の扉のドアノブに手を掛けながら、欠伸をしていた葛葉へ声を掛ける。それに葛葉は力無く返事を返し、五十鈴が部屋から退室するのを眺める。ガチャンと扉が閉まり、部屋の外から五十鈴の歩く足音が聞こえ十分に離れた頃に、
「…………なんか、お母さん味が増してきたなぁ」
そう呟きながら葛葉は椅子から立ち上がった。と同時に、本に腕が当たりボトッと本が落ち、とあるページが開かれた。
そのページには、
『この世界にもう英雄は居ない。だが、まだこの世界は英雄を欲して居る』
そう書かれていた――。
読んで頂き、ありがとうございます‼︎
敵強く無い? と自分でもそう思ってしまいますね。
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