三話 苦肉の策
遅くなりました。
――翌日――
あの後、葛葉達は転移魔法でオリアの街へ帰って来た。転移直後は、緋月が自身の財布を開き、「ぼ、ボクのお金がぁ……」と呻きながらすっからかんになってしまった財布に涙を溢していた。転移の魔法はかなり貴重な上に、世界中でも習得できるのはごく一部。緋月や葉加瀬ですら習得していないだとか。なので五人分の転移に掛かるお金も当然莫大な物になるのだった。
とそんな事は置いといて、
「はい、熱いから気を付けなー!」
「あーむっ! ふふぁ〜! 美味ひいです!」
葛葉達は今、ギルドで昼食をとっていた。
右手が不自由な律は食事するのが難しいので、律の怪我が治るまでは律と五十鈴が世話をする事になったのだ。朝からずっとこの調子なのだった。
朝食もギルドで食べたのだが、その時はずっとギルドの関係者以外立ち入り禁止の札が掛けられた扉から、恨みがましい視線を感じた。今はそうでもないが。
「……ズルい」
「五十鈴、なんか言った?」
律にご飯を食べさせていた葛葉が、五十鈴の呟きに気付き声をかける。
「いえ、別に……」
五十鈴は内心、律だけズルイと緋月みたいなことを思っていたのだ。下心こそないが、五十鈴的には尊敬する葛葉から食べさせてもらえるのは、嬉しい限りなのだ。だからして貰っている律に嫉妬してしまっている。この事に葛葉は気付いていない。
「にしても、これからどうしようかなぁ」
葛葉はスプーンを食器に置き、椅子の背もたれに全体重をかけ伸びながら呟く。律が大怪我をしてしまったのだ、クエストには勿論行けるわけがない。だが別に二人でも言っていいが、その間律の世話を誰がするのか。葉加瀬さんは忙しいに決まってるだろうし、緋月もきっとメイビー極小の確率で忙しい筈。てな訳で、葛葉達はクエストに行けないのだ。
「……ん、また律は!」
「あうぅ……す、すいません……」
目線を前に戻すと罰が悪そうにモジモジして居た律。そんな律に葛葉はキッと目を鋭くさせる。あからさまに呟いた葛葉も大概だが、律のこの悪癖も大概だ。
「んー……三人で街でも回ろっか?」
「私は構いません」
「わ、私も賛成です!」
この世界には娯楽がほとんど存在しない。葛葉にとっての娯楽もほぼ無いので、やる事はクエストか読書しか無いのだ。だが読書する物も今ないのだ。(この街にある本は全て読破している)
だからこの街の観光案は、葛葉にとっての苦肉の策なのだった。律の食事を済ませ、葛葉達は、がらんどうなギルドを後にするのだった。
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急に翌日になってしまいすいません!
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