十九話 懺悔
今日は早く投稿できてよかったです!
――暫くして、五十鈴が落ち着いた頃に、また扉が開く音がしたのだ。
「――緋月さんに葉加瀬さんも……」
テクテクと入って来た緋月に続き、葉加瀬が扉を閉めて遅れてやって来た。葉加瀬はいつも通りの優しい表情で、緋月はどこか暗い表情だった。
「すまないね……邪魔をしてしまったかな?」
「いえ、大丈夫です」
葛葉にまだ抱き着き、膝を床につけている五十鈴を一瞥して、葉加瀬は重々しく言う。
「なら良かった……。律はかなり酷かったが、五十鈴は全く問題なか……」
葉加瀬が最後まで言う前に、緋月はのそりのそりとゆっくりと葛葉へ向かって歩いてくる。暗い表情の緋月のそんな行動に、葉加瀬がため息を吐き、葛葉がビクッ! と肩を跳ね上がらせる。
「…………すまない」
「……――えっ?」
ぎゅっと葛葉の手を強く握り、暫く沈黙して居た緋月が重々しく呟いた。そんな緋月の言葉に、葛葉は拍子抜けし頭に疑問詞が浮かび上がった。
「ボクの落ち度だ……。君達には辛い思いをさせてしまった……」
葛葉の手を握る緋月の力が強まった。葛葉は困惑しながらも、説明を求めるように葉加瀬へ目を向けると、葉加瀬がはぁとまたため息を吐く。
「全く……説明不足にも程がある。……葛葉ちゃん達は緋月頼まれて護衛の任務を受けたんだよね」
「は、はい……」
「緋月はね、それのこと言ってるんだ」
と葉加瀬はそう言うとクイッと顎で、懺悔するような姿の緋月を指した。葛葉はそんな事……と思ったが口には出さないで、緋月に顔を向き直す。
「……許してくれとは言わないよ。君が見たく無いものも見せてしまった……心の傷はボクにはどうすることもできない。だから、ボクのことを――……ぁ……っ?」
と緋月が言う前に、葛葉が言葉を遮りさせる。葛葉は緋月を抱きしたのだった。
「言わないで……下さい」
今も浮かび上がるあの光景。助けを懇願する声に、痛みに泣き叫ぶ声。人の骨が折れる音、人の肉が削がれる音、人の潰れる音。自分が経験したような痛みを、更なる痛みが誰かに向けられる。そう思っただけでも、心が締め付けられる。辛いのは当たり前だ……でも、それでもやっぱり、
「緋月さんのことを恨むなんて出来ませんよ……」
それは自分の至らなさが招いた原因。いや、どうしようもない仕方の無いことなのだから。それを緋月が悪いと思うことが許されるだろうか? いやあってはならない。
「……緋月さんが自分を許せないと言うのなら、私を強くしてください」
「……そんなのじゃ」
「そうですね……。あの人たちにしたら、そんな事に何の意味があると、そう思われそうですね」
葛葉は緋月が言おうとした事を、心を見透かしたかのように先に言い、緋月が話そうとするいとまも与えない。
「……でも、私への罪滅ぼしはそれで良いじゃ無いですか。あの人達の罪滅ぼしは緋月さんが、これからして行けば良いんですから」
「——…………あぁ、そうだ。ボクは何をして居るんだか……」
呆れと哀れみが混じったような、自分の浅はかさに恨みがましく、緋月は呟く。そして緋月を抱く葛葉の手を解いて俯むいた。
「……葛っちゃんの言う通りだね。……はは、これでギルド長だなんて……」
「緋月さん……」
「あー、そうだよ。ボクは何してるんだ……自棄になってどうするんだか」
はははと空笑いと共に、緋月が自分の頬を思いっきり――葛葉も葉加瀬も五十鈴もドン引く程に――ぶん殴ったのだ。寝て居るはずの律もが唸るような殴りだった。
「……葛っちゃん……目が覚めたよ、ありがとう」
赤く腫れた頬には気にも止めず、緋月は葛葉へ微笑みながら感謝の意を示す。いつもと違った緋月だったが、何かが吹っ切れたのか憑き物が落ちたのか、いつもの緋月に戻ったのだ。
「はい、良かったです」
葛葉も緋月へ微笑みと一緒に言葉を返すのだった。
澄んだ空、澄んだ空気、気持ちの良い日。
「魔獣の数も集まってきの〜」
木の下にウジャウジャと居る魔獣を一瞥し、鬼丸はニヤリと口角を上げドラゴンのような目を細め、オリアの街に目線を向ける。
「じゃが今は奴が帰ってきて無いからの。帰って来たらするとしようかのー」
そう呟き、へたりと木の枝に自分の体を寝かせて、二秒ほどで寝息を立てるのだった。
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これにて第二部三章は終わりになります!
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