十八話 目覚め
今日は遅くなりました。
「……ちゃん‼︎」
意識が混濁し、断片的に誰かの声を拾う。モヤモヤと視界の端を覆う黒い霧、嫌な汗が出てしまう。腕には小さな手で握られており、誰かに抱きつかれて居る感覚もある。きっと、緋月がいつも見たいに抱きついて居るのだろう。今直ぐ起き上がって、怒ってやろうと思ったが、身体が全く言うことを聞いてくれなかった。
「……の仕業……。絶……て……せる」
あぁ聞こえない。あぁ見えない。あぁ感じない。誰か……助けて――。
『――わぁーかっこいい〜』
「凄いでしょー‼︎」
『そうだね。くーちゃんは凄いなぁ〜‼︎』
「そうだもん!」
『じゃあね……お母さんに、カッコいいところを見せてくれるかな?』
「……うんっ‼︎ 絶対見せてあげるからっ――‼︎」
「――っ‼︎」
混濁していた意識から目を覚まして、葛葉はベッドの上でキョロキョロと周りを見回す。先までの草原ではなく、病院を彷彿させる部屋で葛葉は目を覚したのだった。風が吹きカーテンが靡き、切り花が花瓶に挿してありカーテンと共に揺れる。
「……ここ、どこ?」
今まで見覚えのない部屋。ギルドにある葛葉の借りて居る部屋では無いのは勿論のこと、ギルドに備え付けられて居る病床でも無い。全く知らない部屋だ。葛葉は、混乱しながらも冷静にベッドから降りて周囲の確認でもしようかと、掛け布団を退かそうとして、気付いた。
「……律?」
「……すぅ……すぅ……すぅ……」
と寝息を立てながら、葛葉の身体に抱きついている律。律もかなりの重傷だったはずで、実際に包帯でぐるぐる巻きにされた律の右腕が三角布で吊るされており、律は左手で抱きついていたのだ。脚も包帯で巻かれており、葛葉の寝かされて居いたベッドに松葉杖が寄り掛けられていた。
「律……頑張ったね」
葛葉が頭を撫でてやると、アホ毛がヒョコヒョコ動き、律が破顔する。内心猫か、とツッコミながらも律を褒めるのだった。と暫くそうして居ると、ガラガラと扉の開く音と共に人が入ってきた。
「……葛葉、様……?」
毛布を持ちながら部屋に入ってきた人物は五十鈴だった。目をまん丸にし、十秒以上動きを止めていた五十鈴は、思い出したように動き出した。
「・・・――っ‼︎」
「……ちょ、五十鈴も⁉︎ もぉ〜二人ともどうし……」
抱きついて来た五十鈴にびっくりしながら、葛葉は五十鈴の顔を見て言葉を詰まらせた。
「よかった……! 生きていてくれて……よかった……‼︎」
涙を流しながら葛葉を強く抱きしめて、顔を埋めてくる五十鈴は、まるで甘えんぼの子供のようだ。
「……ごめんね、心配かけちゃって……」
五十鈴の頭を優しく抱きしめて、葛葉は五十鈴の頭を撫でながら語りかける。
「大丈夫だよ……。私はここに居るから」
いつか、自分も五十鈴にしたように……。今度は葛葉が五十鈴にしてやる番だ。
葛葉は五十鈴が落ち着くまで、何度も囁き、何度も頭を撫で続けるのだった――。
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百合ですね……。
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