九話 手の届く範囲
残酷描写ありにはしてますけど、流石に残酷すぎますかね……?
「……――うっ!」
「……」
律が吐きそうになり屈み込み、五十鈴が絶句する。この世のものとは思えない光景を見た。普通なら絶対に見ることのない、光景を見た。なぜか自分には吐き気がない、気分も悪くないのだ。血の匂いに臓物の、鼻を曲げるような悪臭。馬車から上がる火が、人を焼き、二度と嗅ぎたくない匂いを放つ。でも、葛葉に吐き気はなかった。
「……うっ、うぅーママぁ! どこにいるのー?」
とそんな時、ワイバーンの足元で泣きながら歩いている少女にワイバーンの目が向けられる。少女は気付いておらず、ワイバーンがゆっくりと脚を上げる。
「ま、不味いィ‼︎」
声上げたのは、葛葉達以外の冒険者パーティーだった。リーダー格であると思われる男が、剣を鞘から抜き助けに行こうと脚を踏み出そうとして、ピタッと止まった。頬を伝う汗が地面へ滴り落ち、男の足が震えて居た。
……誰だって怖いのだ。自分が死ぬことが。死ぬと分かって居るのに、喜んで死に行く馬鹿がどこに居るだろうか。——違う。そうじゃ無い。
駄目だ、助けなきゃ……。行かないと、助けに行かないと……。私が、助けに行かないと、あの子が死んでしまう。
早く、
「『助けに行かないと――っ‼︎』」
声が重なった気がした。
知らない誰かの声と、知らない誰かの思いと。地面を蹴り、猛スピードで幼女の下へ飛んでいく。あとちょっと、あとちょっとで幼女に手が届く。助けられる――……‼︎
――グシャ。
「――……ぁ」
葛葉の頬に真紅の液体が付着し、服には多量に付着していた。地面には血の海が現れており、内臓が潰れてワイバーンの脚からはみ出していた。割れた頭蓋に、竜の馬鹿力によって飛んだ目玉が転がって居る。腕はありえない方向に曲がっており、指はそれぞれ明後日の方向を向いて居る。
「……あぁ」
伸ばした手を、少女の尊い命を掴めなかった無力な手を力無く下ろす。
目の前で死んだ。何人死んだ? 四人か……。四人も死んだ。手の届く範囲で、自分が動けば助けられたかも知れないのに。死んだ。
読んで頂き、ありがとうございます‼︎
自分で書いていても流石に残酷過ぎるな〜と思いましたね。