二話 決意はより固く強固に。
次からは気を付けます……。
自分のことは自分が一番分かってるように、この気持ちは気の所為ではないのだ。
「なら、断片的な事も思い出せないのかい?」
「断片的な……? ……あっ!」
緋月の問い掛けに、葛葉は記憶という名のタンスを破壊するように引き出しを開け、記憶を思い起こしていく。
「男の人と話して居た気が……」
「男の人?」
葛葉には見覚えがない男。親しい人物でもなければ、知り合いでもない。でも、どうしてか他人とは思えないのだ。それどころか、自分自身のような、鏡に映る自分を見ているような感覚だった。
「どう言う内容?」
「……あーそれが――」
と思い出せない事を言おうとした時、ふと頭に直接声を掛けられるような感覚がした。
『私じゃ律達を、皆んなを……あなたを幸せな未来には導けないっ‼︎ あなたじゃないと、何もかもが無くなってしまうんです!』
直ぐに、葛葉自身の声と思われる声が、頭の中で響き、言葉を放ち始めた。その声は、酷く苦しそうで悲しそうで、震えている。
自分に待っているであろう未来を知ってるかのように、自分に失望した声で訴えるように……。
「……――っ」
「く、葛っちゃん?」
目を見張り、何かにものすごく驚いている葛葉。そんな葛葉訝しんだのか、緋月が声をかけようとした時、同時に再び目から涙が流れた。
「今……のは?」
また悲しい気持ちになり、胸がすごく痛く、辛いのだ。何をすればいいか、今自分は理解した。あの日、約一ヶ月前に決意したように、葛葉はまた決意する。
「……葛っちゃん?」
戸惑い、困惑顔の緋月が真っ直ぐ遠くを見ている、葛葉の視界に入る。
「緋月さん……強くなるって何ですか……?」
「きゅ、急にどうしたんだい? さっきからボクが驚いてしまう程、君の行動は奇抜だけど……」
「すっごく失礼なこと言いますね……」
きっと、言われたくない人物ナンバーワンな緋月には、決して言われたくない事を言われた。まぁだが、側から見れば十分変な人と見られるだろう。
「……それで、強くなるとは……ね」
寄りかかって居た手すりから離れ、顎に手を当ててうーんと唸りながら緋月は目を瞑った。緋月の強さの根源は何なのか、葛葉がどうして強さを欲するのか、第一強さとは。
次第に哲学味を出してきてしまい、ブンブンと頭を振って一度考えをリセットし、また考え込む。それから暫くして。
「……分かんない」
てへっ! と舌をちょっとだけ出し、どこかの飴玉のキャラのような顔をする緋月。
「……そうですか」
「そんな顔をしないでおくれよ。ボクも気付いたらこんなに強くなってたなんては言わないからね」
拳を握り、唇を噛み締め、俯いてしまう葛葉の手を、緋月は手に取り顔を上げさせる。
「……ボクが強くなった原因は……まぁ色々あったのさ。その時、ボクはこんなに強く無かった。ボクはボクを恨んだよ……自分の怠慢が、大切な人を死なせたって」
「大切な人をですか……」
「あぁ、ボクにとって変え難い……大切な人だよ」
思い出を話すような口調で、緋月は様々な感情が入り混じった声で語り出す。万感といってもいいくらい、感情が込められて居た。
その感情とは、恨みや妬み、殺意や怨嗟。ありとあらゆる負の感情だ。
「ボクは自分を殺したくて、あんな事をしてしまったのだろう……。今思えば、地雷系の女の子と何ら変わりはなかったね」
「……緋月さんが地雷? 想像つかないですね」
「想像せんでいい」
葛葉の発言に珍しくツッコミを入れる緋月。
きっと緋月にとっては黒歴史なのだろう。いや、常日頃黒歴史を作ってるのだから別に変わらんか。
「そこからは、まぁどうにかこうにか強くなっていったんだよ」
「アドバイスにしてはあやふやじゃありません?」
「……とにかく!」
アドバイス前提で話し始めたであろう緋月のあやふやさに、葛葉が言及すると、緋月は声を大きくし、話を逸らす。そんな緋月に「あ、逸らした」と小声で葛葉は呟いた。
「考えて居ても仕方がない……強くなるんだろう? なら、行動あるのみだよ」
「でも、何をすれば……」
「何でも良いんだよ。思い至ったなら、即それを行動に移す。いつまでもモジモジして何もしないのは悪手だよ」
緋月の経験則からのアドバイス。これほど信頼に足るアドバイスは他にはないだろう。緋月の過去に何があったのか、少々気になるところもあるが、今はただ――強くなろう。
「……緋月さん」
「……何だい?」
「Lvを上げるには、自分よりも強い敵を倒さなくちゃなんですよね」
「あぁそうだよ。言葉を借りて言うなら、冒険をすると言う事だよ」
「……それって、ダンまちですか?」
「そうだよー」
葛葉には【憧憬一途】は無い。神様も居ない。ヘスティアナイフもない。だからベルのように物凄いスピードでレベルアップは成し遂げれない。
なら、自分に持たされたスキルを駆使して、アニメの主人公のように強くなろう。
――幸せな未来を迎えれるために。
「消えたかい、雑念は」
「はい、綺麗さっぱり」
阿吽の呼吸のように、葛葉と緋月――オタク同士のアニメ台詞の掛け合いをし、二人は空を見上げた――。
読んで頂き、ありがとうございます‼︎
本当にすみません。以後気をつけますので、これからもどうか、至らぬ自分の物語を読んで頂けると嬉しいです。