十八話 英雄奮起
厨二っぽくて恥ずかしいですね! でも、これが自分が書きたかった物です!
白銀に輝く金属光沢、騎士の名に相応しい防具。腰に携える両刃剣は、勇者の剣のようにも思えた。
この力は、借り物の力。偽りだ。
だとしても、【英雄】に憧れ【英雄】へと成り上がった少女の力は、借り物の力であっても誰にでも力を与えてくれる。世界一強く、世界一優しい【英雄】の少女の力。
「……やっと、主人公っぽいことができるな」
強く拳を握り葛葉は呟き、靄一つない晴れた瞳で前を向く。
「まさか、二度も戦う羽目になるなんてな……。でも、所詮は出来損ない……一瞬で蹴りをつけてやる」
「……言ったろ? この世界じゃあ、俺のスキルが強化されてるってよ」
帯状となった影が元の場所に戻り、次には仮面の人物を覆った。うねうねと蠢き、次第に影は小さくなっていき仮面の人物の足に、黒色の靴と黒色の膝まである靴下を装着させていた。
「本物と偽物……どちらが強いか、試してやる」
「……来いよ、ぶっ飛ばしてやっ――」
準備ができ終わった仮面の人物が、含み笑いをしながら殺意の籠った目を向けてきたが、葛葉は少し怯みながらも挑発をした。
その瞬間だった。
地面を何度も、転がりながら跳ねては転がり元居た位置からは、かなり離れたところで地面に転がりながら倒れた。
「――ぐ……な、何が」
体の節々が痛む中、瞬きの間に自分が吹っ飛ばされたとは気付いて居ない葛葉が、両手を地面につけ起き上がり、困惑が混じった声で呟く。
「……はぁ〜この程度か、遅い、脆い、弱い……。結局、雑魚は雑魚だ。出直して来い」
「……ぐっ‼︎」
葛葉の挑発の仕返しとばかりに、見下しながら大仰に歩いてくる仮面の人物に、鞘に収められている剣の柄を握りしめて、起き上がりながら斬り掛かった。だが、葛葉の剣は空を斬り、次には視界が空を向いて居た。背中からは痛みが走り、自分が転がされたことを理解するのに、葛葉は数秒掛かった。
「本物はその程度ではないぞー」
「――っ!」
起き上がりまた斬り掛かる。が、既で交わされ、剣は空を斬る。仮面の下の顔がどうなっているか、葛葉には想象付かないが、きっと嘲笑しているのだろう。
「遅いな」
「……――がはっ‼︎ ……うぅ〜!」
剣を乱雑に振っても当たらず、葛葉は一瞬にして懐に潜り込まられ、強烈なパンチをモロに喰らい一瞬白目を剥き、気絶しそうになった。余りの激痛に、その場に蹲り腹を抑え悶絶しながら、地面を転がりまわる。
「本来その力は、その程度の攻撃は無傷にする。やはり模倣した程度の能力で、覚醒した主人公みたいに敵を圧倒できる訳が無い」
的確に、この力の弱いところを仮面の人物は見抜いて居た。この力は、記憶で見たあの『葛葉』の能力を想像して、自分でも使えるようにしたもの。この力で『葛葉』は何度も苦難を乗り越えた。だが、葛葉はこれを模倣しただけの、ただの汚らしい盗人だ。
「ぐっ……うぅ……違げぇだろ。あいつは……そんな事、言わねぇだろ」
震える体を、震える足を、震える腕を、震える意志を、不甲斐ない自分を鼓舞する。あの子はきっと言わない、心優しいあの子が言うはずないんだ。
根拠の無い言い訳? 違うだろ……あの子は俺だ。俺はあの子だ。同じ葛葉なんだ。
奥歯を噛み締め、拳を握る。奥歯が砕けそうになり悲鳴を上げるが、知ったこっちゃ無い。掌に爪が刺さり流血しジンジンとした痛みを感じ顔を歪めるが、知ったこっちゃ無い。【英雄】は立ち上がる。何度だって、挫けても転けても心が折れても、【英雄】は何度だって立ち上がった。
――英雄は奮起する――
読んで頂き、ありがとうございます‼︎
男葛葉が主人公らしくなって……うぅ、作者としては嬉しい限りです!