十二話 戻って来た葛葉
ちゃんと女の子っぽいですかね?
何も見えない――。
何も聞こえない――。
ここは……何処?
「――よっ」
「……ここって」
「元々お前がいた場所」
「……あ、そうでしたね」
真っ暗な暗闇が晴れ、純白の世界で仰向けになりながら『葛葉』は覚醒した。一面白の世界。果てしなく続く大地。そして、視界のど真ん中に堂々と映る、自分が囚われていた大樹がある。天にも届きそうな大きさ、空を覆うかの如く生い茂る純白の葉。人が生命が自然が、どうこうしようとも倒せないであろう太過ぎる幹。なぜか、『葛葉』は故郷に帰ってきたかのような安心感に包まれる。
「……元気そうですね」
「あぁ、ここでじっとしてるだけだぜ? 逆に元気なくなるわ」
「でもまだまだですね。魂の傷は完全に治癒出来るまで、かなり掛かりますから」
「う〜わ」
ニッと笑顔な葛葉へ、『葛葉』は安堵と共に心配しながら問うが、葛葉はそれを軽口で返すほどには回復していた。
『葛葉』は知っている、この世界で千年という時を、この大樹から伸びている鎖に手首を繋がれ、ただじっとしていた。その時が来るまで。
「……どうだった? 向こうの世界は
「はい……! 凄く、楽しかったです」
孤独だった、寂しかった、会いたかった。皆んなに、会えなくなってしまった皆んなに――。満面の笑みで、目端に涙を溜めながら、『葛葉』は返事を返した。
「……そうか、良かったな」
葛葉もつられるように笑い、『葛葉』へ手を差し伸べる。葛葉は、この世界で彼女の――否、自分の過去を知った。数多ある、無限に広がっていく世界線の中で、自分がどんな生き方をし、どんな死に方をしたか。
「ありがとうございますっ!」
「……にしても、本当に【葛葉】っていう人間が元は男だったっていう記憶が無いんだな」
「……そう、です。記憶改竄能力が働いているんです。私も、あなたの記憶はあの世界では無くなってしまいます」
葛葉の胸はモヤモヤで、酷く辛い痛みがしている。これがこの、目の前の『葛葉』の心境なのだ。この世界に集まる魂は、幾多の世界で志半ばで息絶えた自分だ。別人のようで別人じゃない、別人の自分。
「そうか……。まぁでも、男に拘ってる訳じゃねぇしな。別に前世の性別が……自分の性別なんてどうでもいいしな」
「悲しく無いんですか?」
「あぁ、一ミリもな」
葛葉という男は、いつだって自分の事はどうでも良いのだ。最悪自分の存在が消えてなくなっても、泣くことは無いだろう。そうやって、葛葉はいつも我慢をする。
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これってTS化なの……?