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序章 ここから始まる物語

はじめまして、青二歳よりも下のガキです。

この度は、この小説を読もうと思っていただきありがとうございます!

誤字とか何だこれ? と思ったことは遠慮なく言ってください!

 ―――それはとても分厚い古本。

 年季が入った、その本をゆっくりと優しく手に取った。少しずっしりとくる本の表紙を指で触れてなぞった。表紙には日本語とは異なった文字でこう書かれていた。

【英雄王の軌跡】と。

 表紙を開き一ページ一ページ、そっと捲くっていく。


 【これは、一人のTS化転生っ娘が英雄王へと成り上がる、そんな物語である】。


 ―――サイレンの音が、ザァザァ降りの雨音の中からうっすらと聞こえてきていた。

 男が重い瞼をゆっくりと開けると霞む視界に、曇天の空から降ってくる雨粒に赤色灯が反射している、一面真っ赤な光景が飛び込んできた。

 揺れている視界と掛けられてくる男性の声や、布に包み込まれるような感覚から、男は“自分が担架に乗せられ運ばれている“と察した。男は、全身からくる激痛に起き上がろうとか声を出そう等、そうは思わなかった。

 再び瞼が重くなってきた男はゆっくり瞑ろうとして、ハッと目を見開いた。そして痛む身体に鞭を打ち、声を掛けてきていた男性、救急隊の人に声を掛けた。


「あのっ……! 女の、子は!?」


 言葉を詰まらせながらも救急隊の人に尋ねると救急隊の人同士で顔を見合わせ、すぐに男の質問に答えた。


「はい、怪我もなく無事ですよ! ですからあなたもきっと助かりますよ!」


 笑みを作り男が不安を感じさせないように配慮の言葉を吐いたのだった。

 実は男は意識を無くす前、赤信号無視の暴走車から女の子を助けようとし跳ね飛ばされてしまったのだ。身体を何度もアスファルトにぶつけ、擦り、後頭部を強打した男はそのまま意識を無くしてしまったのだ。

 女の子の無事を知った男はホッと安堵すると、また瞼が重くなってきてしまうのだった。

 もういいかと男が瞼を瞑ろうとして、ふとあることに気が付いた。自分の目尻から涙が零れていることに。雨かと疑ったが、気が付けば男はすでに救急車の中に運び込まれていて、雨とは考えにくかったのだ。不思議に思っていると脳裏に大切な、たった一人の家族の顔が浮かび上がった。

 たった一人の家族、妹の顔が。


(あぁ、そうか。ごめん……こんな、約束も守れない兄貴で……ッ!)


 そうして男は二十三年の生に幕を降ろすのだった。




「———っ、眩っ」


 目を瞑っていても眩しいと感じた男が、声を漏らしつつ瞼を開くと、そこには、


「は? 森……?」


 新緑の万葉に、都会ではそうそう聞くことのない環境音が男の殆どの感覚を占めていた。小鳥の囀りと川のせせらぎが耳を愛撫し、木漏れ日が色白の肌を優しく焼く。状況が飲み込めないまま男が歩き出そうとして、ドサッと顔から倒れそうになった。

 が既のところで、サッと両手を前に突き出してそれを回避した。


「あっぶな……ん? ……へぁ?」


 地面につく自身の色白の柔肌、サラサラと地面に垂れる―――シャンプーのCMのような髪の毛、そして先ほどから聞こえてくる女の子の声。

 男はまさかと思いつつ、ゆっくりと立ち上がって聴こえてくる川の音の方へ、転ばないよう早歩きで向かっていった。

 そして辿り着いた川の水は、このまま飲めるのでは? と思えるほどの清水だった。

 恐る恐る川の水面に映るはずの自分を見た。


「———っ!?」


 水面に映るは男の顔ではなく、老若男女全ての人間が見惚れるだろう、十億年に一人の絶世の美少女だった。

 膝裏までの紺色の長髪に同色の眉とまつ毛、目の色は紺色寄りの黒で、細い四肢に色白の肌と、自分自身でありながら見惚れるほどだった。


「嘘ぉ……」


 ペタペタと自分の顔を両手で触りまくり、あり得ない目の前の現実確かめようとするが、やはりどうしても受け入れ難かった。男から超絶美少女になったと頭の中で想い起してみると、ハッと大事なことをやり忘れていたことに気が付いた。


「…………ゴクッ」


 美少女は固唾を飲み込んで、自分の身体に目を向けた。そこには本来ないはずの双丘が胸部にあった。

 身体を揺らすと同様に揺れる丘。プルプルと震える手でTシャツの中に手を突っ込むと指がマシュマロに触れた。

 そしてガシッと手全体でマシュマロorプリンを掴んではモミモミと感触を噛み締めるように揉んだ。


「———」


 つーっと自然と涙が目尻から零れ頬を伝い地面へと滴り落ちた。その間もモミモミとマシュマロ———おっぱいを揉んでいた。

 美少女になった元男の名は———鬼代葛葉。享年二十三の彼女いない歴=年齢の童貞であり、親しい異性の友達以外には「あ、はい」としか言えない元男だった。

 涙を流しつつ葛葉はモミモミと胸を揉み、エロゲや高い観察眼、ものすごく懐いていた妹のおかげで、女体となった自分の胸の大きさが解ってしまった。


「あぁ……D、か」


 涙を流し自身の胸を揉みながら、自身の胸の大きさを口にする超絶美少女。傍から見ればただの不審者又は痴女又はド変態だ。

 だがそれは致し方ないことだ。23年間に何度も胸を触れるような機会はないのだから。


「―――あぁそっか、死んだのか……」


 流れる涙は好きな時に好きなように胸を揉めるからと、あともう一つの意味があった。

 それは葛葉が死んでしまったことだった。

 やりたいこと、したかったこと、残してしまったこと、叶えられなかったこと、沢山のことができずに死んでしまった。葛葉はそれが死ぬほど悲しいのだ。


「死んで、目が覚める……ならここは———」


 何度も見た展開、テンプレすぎる展開。だから容易に葛葉は状況を把握することができた。死んで知らない土地で目を覚ます……そう、異世界転生。

 赤子からでないのが不思議だが。


「どしよ……」


 周りを一周見回してボソッと声が漏れた。

 右左も何もかも知らない土地で、葛葉は第二の人生を歩みだすのだった。

 だが幸先はどうやら悪いらしい。

 立っている葛葉の背後にある茂みがガサゴソと不気味に蠢くのだった———。

読んでいただきありがとうございます‼︎

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