受賞したのでサイゼに行った~懐かしの小エビのカクテルサラダは、今ではもうカクテル抜きになっているらしい~
本日、6月4日の昼過ぎ。
日差しが強い中、私はあくせく歩いていた。目的地までは、最寄駅から一駅分ほど歩く。
空は雲一つない蒼天……と言えば、聞こえはいいが普通に暑い。死ぬほど暑い。台風が去ったばかりのせいか。まだ6月であるというのにじっと汗ばむような昼間である。
本質的に引きこもり……ではなく、生粋のインドア派、全日本インドア派選手権というものが仮に存在したら、東京予選でも勝ち抜けるレベルのインドア派の私がなぜ、こんな暑い中を歩いているかというと――
『サイゼリヤ』という名のファミレスを目指しているからである。
そもそも、なぜ私がサイゼリヤに行くことにしたのか。
それは、ふとした拍子に賞を頂いたからである。
『カクヨムコン』。
いま投稿している『小説家になろう』とは別サイトだが、ネット上で著名な賞を受賞した。
しかも私の場合、普段書いていた異世界恋愛なるジャンルではなく、男性主人公の異世界ファンタジーもので賞を頂いた。
初めて書いた畑違いのジャンルで賞をもらえるなんて、この人はめちゃくちゃ才能があって、現実世界でもイケイケなのかも……とお思いになる読者の方もいるかもしれないが、実情はだいぶ違う。
カクヨム、というサイトはどちらかと言えば、男性向けっぽいジャンルが主流である。異世界ファンタジーに、現代ファンタジー。ラブコメとか。
一方、なろうと同じく、異世界恋愛というジャンルもあるにはあるのだが、すでになろうなどで書籍化した有名な方ばかりがバンバンランキングに載っており、私は「あっ……ここヤバいわ」と直感的に理解した。
まあ要するに、生来、逃げ足の速さにだけは定評のある私は、異世界恋愛を主軸としていたのにもかかわらず、そんな激戦区である異世界恋愛からのこのこ逃げ、異世界ファンタジーものを書くことになったのである。
幼少のころから、
「アバタローさんは悪くない子なんですけど、ちょっと面倒くさいことがあると逃げようとしますよね」と担任の先生に成績表に一言、書かれた人間は伊達ではない。
とはいえ、私の挑戦は艱難辛苦というほかなかった。
初めて書くジャンル。しかもろくなプロットもなく、ノリで走り出したせいで、ちょっと人気になった時、何も考えてなさ過ぎて途方に暮れた。
具体的には、当該作品のために、今年の正月はずっと苦しんでいたといっても過言ではない。
もし何十年後か、自分の人生の年表というものを思い出したとしたら、2023年の正月休みはずっと死んだ目をしてパソコンに向かっていたな……と数秒で思い出せるレベルである。
その追い込まれっぷりは、恐ろしいものであった。
なんなら、私は初詣すら行っていない。もはや、日本人としてあるまじきレベルだ。
しかも、正月中は、「初詣に行かないのか?」と問う家族に対し、「まあ、神頼みじゃなくて実力でつかみ取ってこそのクリエイターだよね」などと心の中で戯言を言っていたから更に救えない。
ハッキリ言ってバカである。
しかし、流石に途中から、
「今年、もしすべてが上手く行かず、昨年に引き続き、恋人いない歴を更新し続けてしまったらどうしよう」と恐怖に包まれ始めたので、2月になり、周囲がバレンタインデーの雰囲気になってから、1人でこそこそ初詣をするという情けない有様であった。
で、その正月休みのすべてを犠牲にした作品の発表が今週にあり、Twitterで感謝を申し上げたりして、何やかんやで一息ついた時。
私は唐突に、こう思った。
「なんかお祝いしたいな」と。
もちろん私はビビりなので、ドヤ顔で勝利宣言できるほどの肝っ玉はない。けれど、なんかこう……ちょっとは頑張ったので、己を褒めてあげてもいいのでは?と思ったのである。
そしてそんな時、ふと思い出したのが、サイゼリヤ、通称サイゼであった。
そう。
本当に、ふとなんとなく。高校時代、試験が終わるたびに友人と『お疲れ様会』と称し、サイゼで延々と管を巻いていたのを思い出したのである。
そうこうしているうちに、駅チカのすぐそこに、特徴的な緑色の看板が見えた。
地上から階段を上がり、2階へ。やはり人がかなりいる。けれども台風のすぐ後だからか、それほど待つ人はいなさそうだ。
名前を記入。
少し待ち、仰ぎながら息を整える。
そうして10分ほど待っていると、ティロンという呼び鈴が鳴り、「アバタローさま」と席に呼ばれた(もちろん記入は本名にした。私は小心者であり、ネット上のペンネームを堂々と見ず知らずの店員さんに告げるほどの胆力は持ち合わせていない)
店員さんの案内に従って、席に座る。
運がいいことに、四人席に案内して頂けた。
さて。
これで準備万端。あとは楽しく食事をするだけだ。
けれど、ここに来て問題が発生してしまう。
深呼吸をして、いそいそとタブレットを広げる。
そう。
このエッセイは企画参加作品。そして、この『ぺこりんグルメ祭』においては、みなさんが「美味しそうなお料理」に加えイラストを投稿したりしているのである。
人様の企画に参加させていただいている身としては、全力を出さねばなるまい。
が、しかし。
私は――何を隠そう。
絵 が ド 下 手 な の で あ る 。
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そもそも、私は生来の祭り好きだ。
ノリがいい……と言えば聞こえはいいが、実体は、「単に何の準備もしていないのに、やたら首をツッコみたがる」というはた迷惑な人種なのである。
前述の「カクヨムコン」の件だってそうだ。本来なら2023年の始まりは、友人と、富士山や外で素敵な朝日を見て、心身ともに清々しい気持ちの中迎えようとしていた。
が、まさか紅白も見れずに、とっちらかった机で、白い眼でブツブツ呟きながら執筆をしているとは夢にも思っていなかったのである。
今回の企画だって、主催者様は優しくて素敵そうだし、私のTwitterでのお友達はかなり参加されているし……ということで企画最終日にもかかわらず、書く気満々でサイゼに来てしまった。
しかも、今回のイラストの『ぺこりんグルメ祭』に関しては、絵が上手い人が多すぎる。皆さんそろいもそろって、「プロか!?プロなのか!?」と思うほどの腕前なのだ。
小中高と美術の成績が2から3を行ったり来たりしていた自分とは大違いである。
そんなことを考えつつ、席を立つ。
サイゼは、水がセルフサービスになっているので、コップごと水を席に持ち帰る。
そうして、精神を集中。
昼間のファミレスで、タブレットを片手にこんなことに集中しているのは自分だけだろう。
願わくば、私の横のテーブルが中々埋まらないのは、私のせいでないことを祈りたい。お店の人が私のことを、「タブレットを持ち、水を前にして難しい顔をしている不審者」だと思っている気もしなくもないが、落ち着いて描き始める。
そんな私の、記念すべき一発目のイラストがこれである。
いかがだろうか。
流石に何も書いていないと見るに堪えないので、なんか一口コメントみたいな感じでごまかしたが、それにしたって微妙である。
「あんなに美麗なイラストがある中で、こんな代物を皆様にお見せするのか……」などと思うが、そもそもこのエッセイだって、もう書き始めているのだから仕方ない。
まあ、世の中には、「へたうま」とか「ぶさかわ」なるジャンルもあると聞いた。皆様もきっと笑って許してくれるはずである。
そんなよこしまな思いを抱えつつ、水をスケッチし終わった私はメニューを持ち、呼び鈴を鳴らした。
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それから少しして、前菜がでてきた。
小エビのサラダ。
お箸でつまみ、口入れる。
――たまらない。
さっぱりとしたドレッシングに、これまたさっぱりしたトマトが絡み、本当にいいアクセントになっている。蒸し蒸しした外の暑い感じが吹っ飛ぶような気がする。
ついでに、小エビをパクリ。
しっとりとした触感の小エビがいい動きをしている。ついつい手が伸びてしまうから不思議である。
そんなこんなですぐに平らげてしまった。
ちなみに、メニューで名前を確認したところ、名前が「小エビのサラダ」になっていた。昔は「小エビのカクテルサラダ」だったような気がするのだが……。
カクテルが無くなっている。
なぜなのか。
高校時代に友人と「カクテルって何の意味だろう?」と4時間議論した私としては、「カクテル」の意味が分からないまま、メニュー名から無くなってしまったのが残念でたまらない。
まあそもそも、もっとまともなことに時間を使えよ、と言いたくなってしまうが、そもそも学生時代なんてのは9割9分が無駄な時間である。
次に来たのは、皆さんご存知の「ミラノ風ドリア」だ。
器から立ち昇る湯気。
熱い。ともかく熱い。
けれどそれがいい。
夢中で熱々のドリアを掘り起こし、混ぜる。
ちょっと下品だ、と言われそうな気もするが、どうも、このミラノ風ドリアに関しては適度に混ぜて冷まさないと、まともに食べれないような気がする。
ふうふうと息で冷まし、一気に口に入れる。
熱い。
………熱いのだけど、それ以上に美味しさが味覚に来る。
ボロネーゼソースの肉感もたまらないし、それを支えるホワイトソースのまろやかな感じもたまらない。
――まさに、メインヒロインとヒーローのごとし。
異世界恋愛あるあるのベストカップルのようである。
そして。
「てぃろん」と、思わず私は呼び鈴を押していた。
正直、最初はここで終わりかなと思っていたのだが、ミラノ風ドリアを食べて完全に私はスイッチが入ってしまっていた。
「すみません――」
***************
この世には、うら若き時には味わえなかった大人の世界というものが存在する。
私の目の前には、2品。
ずばり。
『オリーブアンチョビのマルゲリータピザ』と『赤ワインのデカンタ』である。
ごくり、と喉が鳴った。
色々な思いが私の中を駆け巡る。
そもそも、糖質オフダイエット中だろとか、昼間から酒飲んだら日曜ダラダラコースじゃない??とか。
でも、止められない。
私は慎重にピザを切り分け、口に運んだ。
「…………ッ!!!」
最高。それに尽きる。
正直、高校時代には絶対に頼みはしないであろうメニューだ。
オリーブにアンチョビ。どちらもクセが強い。
が、今食べてみて思う。
こんなに美味しいものはない、と。
オリーブとアンチョビの癖のある旨味が見事チーズに包まれている。
美味しいオリーブに、美味しいアンチョビに、美味しいチーズ。
それぞれの旨味が、調和し合っている。文句のつけようのない最高のトリオである。
しかも高校時代とは違い、大人になった今、私には更なる秘策があった。
その勢いのままに赤ワインを飲む。
(ヤヴァイ………!!!)
ワインの渋みがピザとぶつかり合い、更に旨味を加速させる。
冷たいワインとあっつあつのピザの温度差もたまらない。
それに加え、ワインのおかげで口もリセットされるのである。
――何口でもいけてしまう、恐ろしい組み合わせ。
もはや私の頭の中からは糖質オフダイエットなどという戯言は完全に過ぎ去っていた。
そして、ラスト。
懐かしい。
デザートを頼んだ私は、改めて出てきたイタリアンプリンとティラミスを眺めていた。
書いたイラストはお酒のせいか、それとももともとの実力のせいか、最初の時よりもド下手になっている気がする。
我ながら、その辺の小学生以下だなと思う。
残念ながら、高校の美術の授業で、あまりの個性的絵柄がゆえに、同級生のYちゃんから、『画伯』というあだ名を頂戴した私はやはり、何年経っても画伯らしい。
が、もはやそんなことは気にならない。
まずは、とろっとろのイタリアンプリンを豪華にスプーンに乗せて頂く。
甘い。優しいくちどけ。
こってりとした先ほどのアンチョビとオリーブが塗り替えられ、スイートな世界が出現する。
次はティラミス。
もちろん、甘いのだけど、それだけじゃない。上にかかったココアパウダーの甘さと、下のマスカルポーネの爽やかな酸味がマッチしている。
かちゃり、とスプーンを置く。
満足だ。
タブレットをしまい、一息つく。
のんびり腰を鎮めると、涼しげな風が入り込んできた。
何気なく外を見ると、太陽に照らされた人たちが暑そうに歩いている。
サイゼの涼し気な店内は、まるで外から隔絶されたようだった。
クーラーの冷房が涼し気に中の人間の肌をなでる。
帰ろうか、と思い、席を立ちあがる。
すると、ちょうど席の後ろの方から声が聞こえてきた。
私服――でも、高校生くらいだろうか。
楽しそうな声が聞こえた。
ふと自分もあんな感じだったなと不思議な気分になった。
あの頃の自分。
高校3年生の夏。
周囲もそろそろまともに将来を考え始めている時期に、馬鹿な私は、将来は何になりたいの?と問われるたびに、
「私は天才だから何とかなるよ」などとアホな回答を連発していた。
黒歴史を思い出してしまい、自分のアホさに穴があったら入りたい気分になりながらも会計をする。
出口の扉に手を掛けると、がやがやと入れ替わりで、男女混合の高校生らしきグループが入ってきた。
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外にでる。
正直、あの頃抱いていた全能感はあんまりない。実際、私は天才などではなかったし、現実には一般企業でひいひい言っている毎日である。
けれど。
そう言う意味では、若いころの無鉄砲さ、あの頃の全能感というものを、もっと思い出してもいいのかもしれない。
小説だってそうだ。
何がどうなるかわからないけど、楽しんでみるべきである。
――さて。
「頑張りますか」
家に向かって歩き出す。
少し温度の下がり優しくなった晴天が、私を祝福しているような気がした。
――が、ところがどっこい。
まあ当人のやる気が出たので、サイゼリヤ訪問、というのは結構よかったのだが、人体はやる気だけで何とかなるものではない。
やる気だけでダイエットができるなら、誰も苦労していないし、この世からダイエット本は消え去っているはずである。
そう。
結局、その日は昼からワインを楽しく飲んだせいで何も手が付かず。
さらに一度破ってしまった糖質オフダイエットの代償は重く、創作活動にやる気を出した私は、すっかりダイエット活動には見向きもせず、お菓子をつまみながらパソコンに向かうのであった――
fin
本日サイゼに行き、午後に書く、という超強行日程エッセイです。
初エッセイなので、ご感想や↓の☆☆☆☆☆評価もお待ちしています。
お読みいただきありがとうございました!!