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3,社交界へ出陣

ノエル様と出会って、そしてよく遊びに行くようになってから半年ほど経った。

今日からまた社交界シーズンが始まり、舞踏会やお茶会などに出席する日々が続いていく。


ノエル様は今まで通り行かないと言い張っていたのだけれど、せっかく自信がついたのだから一回出席してみるべきだと言ったら、舞踏会に行くと言ってくれた。


もしかしたら、「私がノエル様の舞踏会でのかっこいい姿を拝みたいんです!」と言ったからなのかもしれないけれど……さすがにそれはないか。


今夜は社交界シーズン最初の舞踏会なだけあって、かなりの人数の貴族が参加していた。

しがない子爵令嬢が参加できる数少ない舞踏会だ。

新生ノエル様の舞踏会デビューをこの目で直接見ることができてうれしい限りである。


「イリス様、今夜もお美しいですね」


会場に着いて、いつものようにイリス様を探し、声をかける。


「あら、今日はちゃんと余裕を持ってきたのね。ドレスもちゃんと私のおさがりを着ているから、見苦しくない服装になっているわ。えぇ、これなら60点って感じ」


60点という数字を他の人が聞けば、けなされているように感じるかもしれないけれど、ツンデレなイリス様は、最高でも70点くらいしか出さないのだ。

だから、60点はかなりの高評価である。


「……お褒めの言葉、ありがとうございます」


「べ、別に褒めてなんかいないわ。もっと精進しなさい!」


「わかりました」


そこまで話したところで、イリス様が私の背後を凝視する。

そして、私と私の背後の間へ視線を行き来させると、何か納得したように頷いた。


「ソフィア、今日は何も言わないから自由に会場を回ってきなさい」


「え……でも、暇なので何かお手伝い致しますよ」


「私、ダンスの申し込みを受けているからもう行くわ。ソフィア、今日はその無駄なお人好しを発揮しないで、自分に時間を使いなさいね」


それだけ言い残して、イリス様はさっさと行ってしまった。


「私が邪魔だったのかな……?」


「ソフィア嬢、こんばんは」


私の背後から聞きなれた声が聞こえる。

振り返ると案の定、ノエル様がいたのだが……


「……どうしたんですか? どこか具合が悪いとか……休憩室へ移動しましょうか?」


「だ、大丈夫です。ちょっとかっこいいが渋滞しすぎて、ノエル様を直視できません……」


「相変わらずな感じなんですね」


この半年で、ノエル様は私からの「かっこいい」の言葉に対してかなり耐性が付いたように思う。

それでも彼の耳が赤くなってしまっているのが可愛いのだ。


「ソフィア嬢、僕と最初のダンスを踊っていただけますか」


「え……」


会場中が謎の白髪長髪イケメンに注目している中、私にダンスを申し込んできた。

もしかしたら一緒にダンスを踊れるかもしれない……踊れたらいいなとは思っていたが、こんな風に誘われるとは思っていなかった。


「私でいいのですか?」


「えぇ、是非よろしくお願いします」


こうしてダンスを踊って楽しい舞踏会の時間を過ごしていたのだけれど……


「ねぇノエル様?」


「なんですか? ソフィア嬢」


「その、少し私と一緒に居すぎでは?」


「そうでしょうか?」


しれっとそんな言葉を返す彼も気づいてはいるはずだ。

婚約者でもないのにこんなに一緒に居るのはおかしいことに。


「あの、私に懐いているのはわかりますが、他の人とも交流を持ちましょう?」


「僕はソフィア嬢と話すことができればそれだけでかまいません」


「そういうことじゃないんですよ!」


「……僕が離れたら、誰かほかの男性とソフィア嬢が話すようになるのが嫌なんですけど……」


「何か言いましたか?」


「いえ、……何でもないです」


これは言い聞かせてもずっと私の後についてくるだけだ。

私と彼とじゃ身分や才能の差があり過ぎて婚約者としても釣り合わない。

ここは私が彼から離れるしかないと思って、一気に会場を駆け出した。


そのまま速足で歩き続け、なんとかノエル様を巻くことに成功する。

そして一階の会場を見渡せる二階の通路まで足を進め、少し休んだ。


私だって、ノエル様と一緒に居たい。

何と言ったって相手は私の好みの白髪長髪イケメンだし、それにこの半年、努力家で優しいことを知って好きになった。

でも私では彼と身分もスペックも釣り合わない、ノエル様は別世界の人間なのだ。


二階から一階の様子を見ると、ノエル様はたくさんの令嬢に囲まれていた。

なかでも目を引いたのは、あのエリザ様が彼の隣を陣取って、腕を絡ませながら話しかけている姿だった。

ノエル様もまんざらでもなさそうな顔をしているようにみえる。


好きになっちゃいけない人だったんだ。

そのことを改めて実感して、湧き出す嫉妬の心を止めようとした。


つーっと涙が頬を伝うのがわかり、慌ててハンカチで目元を抑える。


「泣いているのかい? こんなに可愛らしい人を泣かせるなんて義弟も罪だなぁ」


横から聞いたことのある声がしたので顔を向けると、そこには前回の舞踏会でノエル様を散々ののしっていた第一王子であり王太子のユージン様がいた。


「ユージン様、こんばんは」


急いで距離を取り、カーテシーをする。

そんな私を見て彼は機嫌がよさそうに笑った。


「俺の名前を覚えていたのか、いい心がけじゃないか」


「ありがとうございます」


この人が何を考えているのか全く分からない。

私とユージン様の初対面は相当悪いものであったはず。

だからこそ、なぜこんなにも上機嫌なのかがわからない……


「そんなに泣くくらいなら、あいつはやめて俺にしたらどう? まぁ婚約者はいるけど、側室にはおいてやるよ。……子爵令嬢には身に余るくらいの提案じゃないか?」


「え……少し私には考えにくい提案であるというか……失礼ですがお断りさせていただきます」


「即答過ぎない? 傷つくな、もう少し考えてよ」


そう言いながら距離を詰めて、なんと私を抱きしめようとしてきた。


「ちょ、ちょっとやめてください!」


「そんなことを言って、実はうれしいんでしょう?」


やめてと言ったらそのままやめてという意味だ!

そんな曲解した考え方はイリス様にしか通用しない!


「離れてくれますか?」


「どうしようかなぁ」


相手は王太子。

子爵令嬢の私がこれ以上拒否するのは難しい。


「ユージン義兄さん。ソフィア嬢は嫌がっているのでは?」


心の奥底で待ち望んでいた声。

ユージン様を義兄さんと呼ぶ彼は、勿論ノエル様だ。


「……」


ユージン様は無言になった後舌打ちをして、私のそばから離れていく。

私は安心してその場にへたり込んだ。


「……すみません、もしかして邪魔をしてしまいましたか?」


彼は座り込む私に手を差し伸べながらそう言った。


「いえ、助かりました。本当に困っていて……来てくれてありがとうございます」


「ふふっ、それならよかったです。実はイリス嬢が、あなたがここで困っているということを伝えてくれたんですよ。後ほどお礼を言いに行かなければなりませんね。」


イリス様……やっぱり彼女は私を気遣ってくれている。

それに、花が咲いたように笑うノエル様はやっぱりかっこいい。

見た目だけじゃなくて、性格もかっこいいのだから惚れてしまうのもしょうがないじゃないか。


「あんまり人目のつかないところに一人で行かないでほしいです。……義兄さんはどうやらソフィア嬢に興味があるみたいなので、何があるかわかりません。全く、エリザ嬢がいるというのに、義兄さんは何をしているんだか……」


エリザ様の名前を聞いて、忘れていた嫉妬の心が再び湧き上がってくる。


「そうだ、エリザ様は? 仲良さそうにしていたじゃないですか。私のところに来ている場合じゃないですよね。早く戻ってあげてください」


「特に大事な話はしていないので大丈夫です」


さあ行こうかといった感じで私の手を取り下の階へ行こうとした段階で、ノエル様は少しためらうようなしぐさをした。


「……僕と一緒にいるのはいやですか?」


「どうしてですか?」


彼は口を一度閉じた後、再び話し出す。


「僕のこと避けているみたいなので……こんなこと考えたくないんですけれど、やはりみなの前で僕と一緒にいるのが嫌なのかと……」


「そんなわけないじゃないですか! 私は本当にノエル様に独り立ちしてほしかっただけです。それに……」


「それに?」


「今日のノエル様、かっこよすぎて直視できないんです……」


今までのかっこいいとは違う、本気の言葉を口に出してしまったことで、私は顔に熱が集まるのがわかる。

ノエル様の顔も赤く見えるような気がする。


「もう行きましょう」


その後はまたダンスをしたり、甘いものを食べたり、いろいろな人に挨拶をしたりした。

イリス様にお礼を言いに行くと、


「別に特別なことは何もしていなくってよ」


と相変わらずの可愛らしい反応をされた。


この舞踏会を機に、第二王子は更生したという噂が社交界では飛び交うようになる。

しかも、今一番仲が良いのは貧乏子爵令嬢であることで、それ以上の身分を持つ貴族令嬢からの縁談がひっきりなしに舞い込んでくるようだ。


それと同時に子爵令嬢ごときが第二王子に手を出すなんて許せないと、社交の場では私に対する嫌がらせが始まるようになってしまった。

招待を受けたのに席がないのは日常茶飯事、席があってもカトラリーがない、服を汚されるなど地味に心にくるような嫌がらせを受ける。


また、なぜかユージン様から毎日のように私を口説く手紙が送られてくるようになった。

多分ノエル様からエリザ様を奪った時と同じように、私を奪おうという魂胆なのだろう。

まぁ、私には奪うだけの価値はないように思うけれども。

ノエル様はきっと私を親のように思っているだけで、そこに恋愛感情はなさそうだ。

それをユージン様はよくわかっていないのだろう。


頻繁に社交の場に呼ばれているノエル様と、嫌がらせを受けるためひきこもりがちになった私は、あまり会うことがなくなった。


◇◇◇


「ソフィアー! 今日の新聞を取ってきてくれる?」


「わかりました!」


お母様に言われて、寝起きの頭で玄関へ向かい新聞をポストから引き抜く。

普段はあまり見ることはないけれど、ふと一面の大きな文字が目に入る。


『王太子カップル破局!? 第二王子の影響か』


その文字列を見た瞬間私は一気に目が覚める。


『王太子ユージン・シェードとその婚約者であったエリザ・フランソワ公爵令嬢が、昨夜婚約破棄をするとの発表をした』


『エリザ・フランソワ公爵令嬢はもともと第二王子であるノエル・シェードの婚約者であった。元さやに納まるか?』


ユージン様とエリザ様が婚約破棄……?

それだけエリザ様はノエル様に本気なのだろうか。

こんなの、私が勝てるわけないじゃないか。


「やっぱり夢は夢のままね」


ノエル様との出会いから、何か自分の人生も変わるのではないかと思っていた。

でもむしろ、貧乏子爵令嬢が王子と関わりを持ったことがおかしな話だったんだ。


もう一度だけノエル様の姿を拝みたいなと思いながら、私は家の中に入っていった。

全三話の予定でしたが、おさまりませんでした……

次回完結予定となっています。

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