エール
ちょうど一年前、私は一人の青年を見送った。
夢を抱いて一人旅立つことを決めた若者に、エールを送った。
「自分を見失わないで、生きていってね。」
「僕は必ず、夢を叶えます!」
便りがないのは、元気な印と信じていた。
連絡しても返事が来ないのは、夢を叶える事に忙しいから仕方がないと思っていた。
「あ、久し、ぶり…。」
「…え?はい?」
突然街の片隅で声をかけられて言葉を失った。
生気のない、無表情。
光のない、暗い瞳。
力のない、声。
夢を語った青年は、別人と成り果てていた。
「夢なんて、結局無駄なんだよ。」
夢を語ったその口で、絶望を口にしている。
夢を語ったその口で、後悔を口にしている。
夢を語ったその口で、侮蔑を口にしている。
夢を語ったその口で、怨恨を口にしている。
夢を語ったその口で、憤怒を口にしている。
夢はどこに行ったのかと聞いたら、他人には関係ないと一刀両断された。
夢など持ったのが間違いだった。
夢など持ってはいけなかった。
夢など持つべきではない。
夢のせいで自分はここまで落ちてしまった。
夢など。
夢など。
夢など。
何を言っても聞こうとしない。
何を言っても聞いてくれない。
「あんたも早く現実に気づいた方がいいよ。」
言いたい事だけ言って、青年は人ごみに紛れてしまった。
連絡先は、教えてもらえなかった。
……縁は、切れた。
私は夢を失った青年に切り捨てられたのだ。
たった今、たった五分の邂逅でげっそりだ。
……切り捨てられて、良かったのだ。
無理に、人間関係をつなぐ必要は、ない。
……大丈夫。
これから、いい出会い、いっぱいあるから。
……大丈夫。
これから、いい言葉、いっぱいもらえるから。
私は、私にエールを送って。
人混みの中に、混じった。