表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水底の歌  作者: 渡邉 幻月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/33

幻覚魚:8 【咲の場合-4】

弟姫と奥津が、物音に驚いたように振り返った。

その様子もまた、咲を苛つかせた。


どうして二人して、こんな所に居るの?


様々な可能性を全て拒絶して、咲を支配する一つの解。

嫉妬が呼び起こす歪んだ解釈が、咲の燃え上がる感情に油を注いでいく。


「何してるの?」

咲の声は、彼女自信信じられないほどドスの効いたものになっていた。地獄の底から響くような。

その声に怯えた様子を見せる二人がさらに咲の感情を逆撫でする。


どうしてこんなにも気に障るのか、そんな事さえ頭が回らず、咲は感情の赴くままに二人に詰め寄った。

「咲さん、どうしたんですか? 何をそんなに怒っているのでしょう?」

無理に微笑もうとして引きつった顔で、奥津が言った。

「何してるの? 二人で。」

さらに一歩、咲は踏み出す。奥津の言葉は、問いかけへの答えにはならない。咲の逆なでされた感情は、爆発寸前にまで高まっていた。


「まあ、怖い。」

弟姫がわざとらしく怯えた様子で、奥津にしな垂れかかった。

「弟姫様、大丈夫です私がついておりますから。」

奥津が弟姫を庇う。その姿が、咲の理性を奪った。


「何してるの! 私を馬鹿にしているんでしょう、先生! それに、お前! そんなだから、喰われる羽目になったんだ!」

咲は悲鳴に近い怒声をあげた。

 二人の会話はほとんど聞こえていなかった。が、所々聞こえてきた単語が、咲の、この呪われた姿を嘲るようなものだった。そう、咲には受け取れた。

 実際の所はともかくとして。


嫉妬と怒りに燃えた咲の顔は、呪いでの変化も相まって、まさに般若のようであった。


「まあ、酷い。それになんて… あの女にそっくりなんでしょう。」

弟姫のその言葉に、ついに咲は彼女に飛び掛かった。

殺シテヤル

喰ッテヤル

咲の意思なのか、かつての女の情念に同調したのか。

 目の色まで変えて、咲は弟姫の首を締めあげていた。

「止めてください、咲さん!」

遠くから、奥津の声が聞こえた。すぐ近くに居るのにもかかわらず。一瞬、奥津の声に反応して、弟姫の首を絞める力が弱まるが、制止する声が隣の奥津のものでは無いことを感覚的に理解すると、再び両手に力を込めた。


「駄目です、咲さん、目を覚ましてください!」

やはり遠くから奥津の声がする。咲は戸惑った。


「咲さん、あなたが首を絞めている相手は──」


咲は、必死に咲を止めようとする声が聞こえる方を向いた。

そこには、人型の何かが居た。咲の眼には黒い影にしか映らない。それ、は奥津の声でさらに続ける。


「あなたが誰のつもりで首を絞めてるのか、僕には分かりません。分かりませんが、でも、その人の首を絞めたいわけじゃないでしょう?」

咲は少し冷静さを取り戻す。視線を黒い影から手元に移動する。そこには首を絞められているにもかかわらず、憎たらしい笑みを浮かべた弟姫がいる。

この女を措いて他に、息の根を止めたい相手がいるだろうか。咲は考える。首を絞められているというのに、こんなにも余裕を見せつける、この女…


「咲さん!」

「駄目ですえ、お前さま。それは反則ですえ。」

奥津の声を遮るように、女の声がする。

おとひめ! 咲の頭に一瞬で血が上る、が、ふと手元の女を見る。おとひめだ。

だが、あの声はどこから聞こえた?


ぐらり、眩暈が咲を襲った。心臓が破裂しそうなほど、脈打っている。力が抜け、弟姫の首を絞める手が緩む。

どさりと弟姫が倒れ込む。


咽る音が、聞こえる。眩暈と朦朧とする意識の中、それを耳にした咲はさらに混乱した。


父さま!


女の咽る音ではない。

どちらかと言えば、いや、何度か聞いたことがある。ああそうだ、父さまの咽る時の音だ。

でも、目の前で咽るのは、おとひめなのに?


意味が分からない。

ああ、また頭が痛くなってきた。眩暈がする。気持ちが悪い。

ああ頭の中が、ごちゃごちゃしてきた…


そこで咲は意識を手放した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ