背鰭が痛い。
「船長ー。サメの海域に近づきました。」
「船から身を乗り出すなよ。一瞬で食われて死ぬぞ。捕獲の準備が終わり次第わしと教授と数人以外は船内に隠れとけ。」
「周囲は発信機と水中カメラで捜索します。皆さんは奴が飛びかかられない様に警戒していて下さい。」
教授と呼ばれる青年と船長と呼ばれる御老体は的確に指示を出しながらサメの捕獲準備を進めていた。
「教授、奴のことをどう思う。」
「恐ろしく賢いですね。僕ら人間がサメの皮を被っているみたいです。」
教授は今までの調査で分かった奴の狡猾さと慎重な行動するからあのサメはただの人喰い鮫ではないと確信していた。
「貴方もそう思うか、わしもそう考えている。奴は今までわしが戦ってきた生物で一番の頭脳の持ち主だな。」
船長は約七十年の経歴を持ってしても見た事の無い生物に不気味な恐怖を持っていた。
「それに積極的に人を襲うのも分かりません。あの血の海から無理して食べているのは分かります。」
調査による結果サメの取り巻きに食われなかった骨や肉片が襲われた場所から見つかっている為、サメは空腹の為にしていない事が考察できた。
「わしは奴が人間に憎しみを抱いているのでないかと思っている。」
船長の人生経験からサメの行動理由は人のに対しての憎しみ又は怒りからの殺害だと考えている。
「憎しみ…ですか…。確かにそれならこれまでの行動にも説明が付きますね。そうだとしたら、やっぱりあのサメは…」
「あぁ、人工的に作られた可能性が高いだろうな。」
船長と教授は前々からあのサメがどこから現れたか、話し合っていた。先日見たサメの体長からそれなりに成体になってから歳をとっているのが分かっていた。
でも、あれが現れたのはここ最近の話である。あの巨体ならもっと前から襲っていても良さそうである。魚に恨まれる理由など人間にはいくらでもあるのだから。
人間の様な知能、執念にも似た憎しみ、それらが、説明出来るのは、人間が人工的に知能を高めて動物実験をしていたである。
「わしは、この仕事が終わればあいつの出自の調査を始めるつもりだ。」
「私もその調査の手伝いをさせて下さい。奴がもし人工的に作られたの有れば、その研究に携わった人にはこれまでの事件の罪を償わせないといけません。」
十中八九人工的に作られたサメだと確信している2人は怒りをサメにではなく、まだ見ぬ在任に対して向けられていた。
実を言うと、この2人の考察は間違えでは無いのである。あのサメの誕生の辻褄を合わせる為に神が用意したシナリオにより、最初からこのサメの研究をしていた研究所と研究員にひらめきと偶然を用意し、まるで自分たちで思いつき成功した様にしたのである。神の掌ですが踊らされてると知らずに。
「船長、準備完了しました。」
「よし、船員が退避完了次第作戦を実行する。」
「了解しました。」
教授は嫌な予感がしていた。あの賢いサメが策無くして、僕らの作戦に立ち向かうのかと。
「船長ー!船員の退避がすみました。」
「これより、電撃作戦を実行する。」
船長達は同じ作戦にはあのサメは引っかかりはしないと考え、別の作戦を用意した。
広範囲に電撃を流す事によりターゲットを感電させて、行動をせずに、仕留めようと考えたのである。
「……浮いてこないな。」
「そうですね……」
「周りにも一匹も浮いていません。他の船周辺も同じようです。」
一匹も浮いてこない?教授はこの言葉に疑問を感じた。
確か奴は取り巻きに魚がいたはずである。奴が電気に対して耐性があっても誤算ではあるが不思議では無い。だが、取り巻きの魚は普通の魚である。不要な殺生をしない為に死なない程度の電撃にしているが、普通の魚が耐えれるものではありはしない。
「教授、気づいたか。」
「はい、取り巻きの魚達が浮いてこないのは可笑しいですよね。」
「あぁ、一度、止めて隈なく探ったほうが良さそうだ。」
船長の指示により一時的に作戦は中止、周囲の捜索が行われた。
そこにあったのは……
「これは……発信機の残骸ですか…。」
「はい、周囲を捜索したところ、岩から発見されました。その岩には血痕も残っていました。」
「やはり、奴は賢い。自分の背鰭に発信機が付いている事がこの前の作戦で分かったんだ。」
「発信機を外す為に岩に背鰭を擦り付けて肉ごと削り取ったわけですか。」
教授もあのサメの賢さを理解しているつもりであったが、まだサメだと言う固定概念が抜けていなかったみたいだ。発信機を外すとは思ってもいなかった。
「不味いですね。これで奴を完全に見失ってしまいました。」
「だが、奴がこれだけとは考えれない。」
船長は終始人を襲っているサメが、これを利用しないとは思えなかった。
「船長ー!!大変です。二番の船から緊急連絡です!船員が奴に海へと落とされた様です。海へ潜っている連中も岩場に隠れている様ですが、そこから出れない状況です!!」
「…なっにー!」
「不味いですね……。これでは、電撃は使えない。」
「落とされた船員は無事なのか!?」
「まだ、食べられてはいない様ですが、周辺にサメがいる為救出は不可能です。」
「人質と言う訳ですか。」
サメはダイバーを浮上させなくして、電撃を無効にした。
そして、船員を盾にすることによりモリや銃などの遠隔攻撃を防いだ。
「俺たちが思っていたより奴は賢い。」
「罠に掛けようとして、逆に罠にかかったと言う訳ですか。」