プロローグ
「もしも〜し、起きてください。」
俺はそんな間抜けそうな声を聞き、目が覚めた。
「あ?ここ、どこだ?」
そこは一面が海だった。自分は海の上で寝ていたみたいだ。
「いや!何でだよ!」
自分が海の上で居眠りしていたというよく分からない事実に思わず、大声でツッコミしてしまった。それにより、自分に話しかけていた天使?が怯えてしまった。
「あっ。すみません。いきなり大声出してしまって。」
とりあえず、色々聞きたいので、悪印象だといけないから。謝っておく事にしておく。
「いえ、いきなりこんな所に居たら、驚くのは当然なので、大丈夫ですよ。」
この天使?はあまり気にしてないのか。穏やかに答えた。
「あの、貴方は天使でいいのですか?」
「はい、貴方の世界の知識では、それが適切ですね。」
やっぱりこの前にいるのは、天使で間違えないらしい。
「いや〜、それにしても綺麗ですね。流石、天使って感じです。」
綺麗のは間違いないが、どうしても別の規格の生命体だからか?綺麗は綺麗でも、人間の綺麗さとは違う異質な綺麗さだ。まるで海などの景色に感じる綺麗さである。
「ありがとうございます。ですが、それは当然でございます。私は貴方様の為に新しく用意された天使なので、貴方様の美的センスに合う様に製造されました。」
「俺の為に?そもそも此処は何処なのですか?」
天使が言った事に疑問に思いながら、今一番気になる事を聞いた。
「此処は貴方様が帰ってくる為に神によって創られた神域です。」
「俺が帰ってくる為の神域?どういう事だよ。こんな所に居る時点で俺は死んだのは分かるが、俺が帰ってくるってまるで死んでは此処に来ているみたいじゃないか?」
いや、俺が転生する度に忘れている可能性があるが、それは流石におかしいだろう。まさか、魂一つ一つにこんな場所があったりするのか?
「貴方様の疑問は最もですが、さっき言っておきますと、この様な場所は貴方様の様な神に気に入られたものしか有りません。」
俺が質問する前から答えてくれた。だが、また新しい疑問ができた。
「神に気に入られた?俺は前世でそんな徳や良い事をしてこなかったと思うんだが。」
前世で俺の善悪で決めるとしたら普通である。そんな良い事も悪い事もした事はしていない。勿論、神に気に入られる様な出来事も無かった。至って普通の人生だった。
「はい、貴方様の前世は普通でしたが、ただ、貴方の来世に対して、神からお願いがあり、この場が用意されました。」
「つきましては、神から詳しい説明があります。」
天使がそう言い終わると、天から光が差し、海の一部が幻想的な椅子に形を変え、主を待っていた。
神が降臨した。
「よく来たな。我が眷属になりし魂よ。我こそは海の女神シアトから生まれし、鮫の女神シャーズである。」
ジャーズと名乗る女神が海の椅子に自然に座ると、話し始めた。
どうやら、俺はこの女神様の眷属になるらしい。
鮫の女神、見た目からサメ感があるな。まず雰囲気からして獰猛さが出ている。背は低いのに、圧倒的な格の違いのせいで全然低く見えない。むしろ遥か高みから見下ろされている。
そんな感覚に襲われてしまう。
「それで俺の様な凡人に何の用ですか?女神様。」
「我のことはシャーズで良いぞ。ふむ、なんか不機嫌だな。この天使が何か言ったか?」
自分ではそこまで気にしてないつもりだったのだが、やっぱり自分の人生が普通とバッサリ言われたのを思ったより気にしてしまっていたらしい。
「いえ、この天使は何もおかしな事は言ってませんので、お気になさらず、話を進めてくれて大丈夫ですよ。」
「そうか。まぁ、何か要求が有れば言え。可能な範囲で叶えよう。勿論、こちらの頼みを聞いてくれるの有ればだが。」
一様、天使に対してのフォローをしておいたつもりなのだが、心配しすぎだったかな。
この女神様、今天使に対して殺気に似た何か?を飛ばしていた気がしたんだよな。
「では、早速本題に入る。まず言っておくがこの頼みは断る事は出来る。そこは分かった上で、話を聞き受けるかどうかを判断しろ。」
俺はそれに対して頷いて反応した。どう見ても断って良い気が女神からしないけど。
「それではこれから依頼内容を話す。心して聞け。話している間いくつか聞きたい事が出来るかもしれんが、質問は全て話した後にしてくれ。」
「お主には、これから我が管理している世界の一つに我の眷属として転生し続けて貰う。そこで、人を喰らい恐れられよ。」
いきなりツッコミたくなることを言ったよこの女神様。
「我々、神は畏怖や信仰されて成長するのだが、我は生まれてそれなりの年月が経つのに、この様なちんちくりんな身体での、まぁ、体格ぐらいならまだ良いのだが、昇進するには、今より力が必要での、色々テコ入れしたのが、あまり効果がなくての。そこでお主が必要というわけじゃ。」
なるほど、よくわからないが女神様の昇進には今より上の力が必要で、それには、俺が地上で暴れないといけないと。
なんで?俺なんだ?
「お主は今、なんで?俺なんだ?と考えたな。」
「それはな、我以外にも鮫の神はいるんじゃが。ある区画の鮫の神がな。異様に強くなった事があってな。どうやってそうなったのか?聞いたら、そいつにも訳が分からなかったのじゃ。他の神も調べたんじゃが、結局分からず仕舞いでの。」
「だが、我は諦めず、根気良く原因を探った。そして、みつけたんじゃ。強くなる方法を。」
女神様は余程見つけれた事が嬉しかったのか?さっきより饒舌に喋っている。
「その方法がサメ映画じゃ!」
サメ映画?確かサメが出てくるパニックホラー系の映画だったか?
それでどうやって強くなるだ??
「程良く混乱しているみたいじゃな。まぁ、仕方あるまい。我も見つけた時は困惑し、己の結論に疑問を持ったじゃが、何度確かめても、原因はサメ映画にあった!」
「お主はサメと聞くと何を思い浮かべる?」
「お主の世界の人間は人喰いなどの恐怖の対象じゃろ。」
確かにサメと聞くと人喰いや凶暴などの恐怖心を抱くな。
「だが、それはあるサメ映画が流行った後での話じゃ。それまでは海に住むデカい肉食魚程度の認識じゃ。」
そうなのか?いや、神が言っている事なんだから、そうなんだろう。嘘つく意味もないし。
「そもそも、サメは通常ヒトを食わん。大体がサーファーなどをカメなどに見間違えての誤食じゃ。こちらから何もしなければ襲われはしない。まぁ、一部例外はあるが。」
なるほど。確かに人は陸に住み、サメは海に住む生き物。そもそもの接点が通常は無い。
サメは好んでヒトを喰っているイメージがあるが、よく考えたら、おかしいな。
「そんなサメを恐怖の象徴にまで押し上げたのが、サメ映画じゃ。好んでヒトを襲い、残虐に喰らう。その映像に人々は恐れ慄く。」
「その感情が我の糧になる。さっきも言ったが、我々の強化には畏怖や信仰などの感情が必要じゃ。その点、サメ映画はうってつけのアイテムになる。」
「じゃが、此処で問題が出来た。我は神であって映画監督でも無いし、作家でもない。サメ映画など作れないと。」
うん?別にサメ映画を作らなくても、勝手にヒトが作るのではないのか?
「確かにお主の考える通り。我の世界でもたまに、そういう事は起きてはいたが、プチヒット程度で、大ヒットが出る事は無かったのじゃ。多分このままでもいつかは出るかもしれない。」
「が!それでは普段の不定期に入ってくる強化と変わらない!我が欲しいのは、安定した強化方法じゃ!!」
この女神様は意外と強欲の様だ。のし上がる気満々である。
「それなら、我の世界をサメ映画にすれば良いとな。我は思いついたのじゃ。そして、それを元にしたサメ映画を他の世界のヒトに作らせる事で、恐怖さらに伝染する。」
女神がして良い顔してないと思うんだけど、物凄く悪い顔している。
「お主はそのサメ役じゃ。お主は元々来世はサメの予定だった、それに加えて、お主の魂はサメの適性が高い。まさに我が求めていた魂じゃ。」
俺に愛情たっぷりに語りかけるにはそういう訳があった様だ。納得、この女神にとって俺は出世する為の大事な駒。
絶対逃がさないという感情が隠すつもりもない程溢れていやがる。
常人では耐えられずに、全てを肯定したくなるね。でも、確かに俺はサメの適性が高いらしい。耐えれてる。
「チッ!もう気づき始めたか!」
女神はそういう言った瞬間女神の姿が消え始めていた。
「すまんな。時間じゃ、質問はそこの天使にしてくれ。」
女神は完全に消えた。
「どうしたんだ?」
その答えは女神が来てからずっと黙っていた天使が答えた。
「他の神が、シャーズ様の思惑に気づき始めた様なので、裏工作に戻った様です。シャーズ様はこの方法を出来るだけ独り占めにするつもりなので。」
「なるほど。じゃ、俺はこれからどうしたらいい?早速、転生して暴れたら良いのか?」
「いえ、何事にも準備が必要です。まずは転生体になるサメの準備です。」