1 生活の始まり
1000年前のあの日、魔王城は勇者達に攻め込まれた。
あらゆる生物を敵とし、争い続けてきた魔王カタストロフ。
玉座に座る魔王の前には、人やエルフ、そして神など様々な種族の英雄。
「平和のためにお前を殺す!」
勇者シオンが剣を魔王へ向けると同時に、他の種族も戦闘態勢となる。
「いいだろう」「お前たちに経緯を評し全て滅ぼしてくれる。」
◆◆◆
「こうやって戦いが始まったんだぞ」
まるで自分のことかのように母が自慢げに話す。
母であるダイアは元冒険家である。15年前に俺を森で拾ってから、ずっと世話をしてくれている。
「これが俗に言う最後の戦いってやつだ」「この戦いで魔族はいなくなり平和になったんだ」
「よく分かったよ、母さん。ありがとう。」
俺はそう言うと自分の部屋に戻った。
最後の戦いの前日、俺は魔王の子として生を受けた。
しかし戦いに巻き込まれ、魔族が滅びぬように魔王カタストロフは子に第十六魔法人間化(自分より低位の相手に人間と思わせることが出来る)や第十六魔法絶対防御(相手が危害を加えることができない)などの魔法を使い、人間界でも不自由無く暮らせるようにと1000年後の人間界へ転生させた。
この世界の転生とは未来に移動するようなものではなく、時が流れるまで異空間に閉じ込められるというものである。
つまり俺は1015歳ということになる…
なぜカタストロフは俺を転生させたんだ?
ただ生きて欲しいから?それとも…
魔族は今に至るまでずっと世界の敵として恨まれてきた。
しかし本当は違うはずだ。人々や他の種族は永遠と争いを繰り返してきた。そこに倒さなければならない敵が現れたことで、皆が協力し争いが無くなった。しかし今は魔族がいなくなり、また争いを行おうとしている。魔王は争いを無くすために魔王となったのだ。
「トントン」
部屋のドアが開き母が入ってくる。
「明日から学園の試験でしょ?、早く寝なさい。」
そう言うと母は戻って行った。
15歳で学園に通うことが出来る。
明日から学園の試験が始まる。
この世界は人々が住むエリア、エルフが住むエリアなどそれぞれにわかれている。その中でも人々が住むエリアでは十字型に5つの国があり北の国に、俺は住んでいる。
俺は北の国の中でも五本指程の優秀な学園、カルティア学園を志望した。その理由は五本指の学園の中で唯一、成績が高ければ無料というシステムだからだ。
そこで魔法や剣術を学び国を守る兵となる。それが人々の憧れらしい。
俺はそんなんになるつもりは無いが、(人々の魔法を体験してみたい)というしょうもない考えで入ってみようと思った。
この世界の、魔法の仕組みは簡単で自身の力に応じた魔法が使える。努力して使えるようになるものや、その人固有のものもある。
それぞれに魔法のレベルがある。
魔法を唱える時、一般的には詠唱を必要とするが、集中力を極限まで高めることによって詠唱なしで、魔法を発動させることが出来る。
第一魔法~第十や二十など限界はまだ分かっていない。
◆◆◆
試験当日、学園までの距離は意外と近くだったらしく、歩けば20分程で着いた。学園は街の4分の1程度の大きさで、(こんなに要らんだろ)と思うぐらい多い校舎と敷地。そこには森や川もあれば、ダンジョンのようなものもある。さすがは学園だ。
試験者達はその敷地の中央に集められた。
「えぇと…試験者の皆さんおはようございます」
いかにも学園長らしい、杖を持った老人が前で挨拶をする。
「今日は晴天に恵まれ」・・・30分後。
「以上です。」
(なんだこれ…)(人族の挨拶はこんなに長いのか…)
内容がスカスカの老人の話に他の試験者は顔色変えること無く真剣に聞いている。そんな中俺は、へとへとで倒れそうになる。
「では、試験内容を説明します」
その言葉で俺は真っ直ぐと体勢をなおす。
「実技試験と筆記試験の200点満点で採点し、上位200名が合格となります。それでは健闘を祈ります。」
その言葉を発したのは、赤髪をしたロングヘアーの女性でThe美女という見た目をしていた。
まずは筆記試験、父からの教えのおかげで意外と簡単に思えた。
実技試験では、結界の中で勝負し、5人チームを組み勝った方に良い点数が入るという仕組みだ。そして、何でもありというルールらしい。
どうやら人数は1001人らしく俺は残念なことに、1人となってしまった。俺の番となり、相手の5人チームが、出てくる。
「あれ?1人なのかぁ」 「だっせぇ」
「じゃあボコボコにしようよ」「殺してもいいよね?」
などと、物騒な事を言うのはリーダーらしい金髪の男と女4人だ。
「俺の名はザクだ、貴様を殺す。俺達のような|金服がお前みたいな黒服に負けるはずがねぇ」
貴族と平民で服の色が違うのか、こんな仕組みを作ったやつは馬鹿だな。
「お前達こそ、5人で1人と闘うとはださいぞ」「いや、弱いから仕方ないのか?」
「あぁ?」「じゃあ俺1人で相手してやるよ」
ザクは挑発に乗り1人で前へ出る。
挑発に乗るとはこいつ、相当な馬鹿だな。
(始め)
という合図と共にザクは、剣を向けこちらに突進してくる。
「避けなきゃ死ぬぜ!」
女性の、4人はその場からザクに対してバフをかける。
「第二魔法能力上昇」
(威力、速度、体力を高める低位魔法)を使う。
ザクは、俺の真正面から一直線に剣を振る。
「瞬間移動」そう言って俺は空に移動する。
男が振るった剣の勢いは、止まることなく俺にぶつかる。
「なぜだ?なぜ死なない?」
剣は俺の服に少しの傷をつけた。
「おかしいな、絶対防御が外れてるのか」
「何言ってんだ…」
ザクは、恐怖で怯え俺を睨む。
「君には勉強になったし、1つ教えてあげよう。」
「なんだよ…」
「君たちのバフ、そして協力はとても素晴らしい。」
「けどね…バフを掛けすぎると暴走するんだよ。」
俺は男にバフである「第二魔法能力上昇」を何度も重ね掛けする。
それと同時にデバフである「第十魔法魔物化」を発動する。
ザクは、剣を落とし膝をつく。
時間経過と共に体が侵食され黒く輝く。
その大きさはじつに、10m程の獣。
それは、仲間の女性の方へと迫っていた。
「なんでよ!仲間じゃない!」
「この状態だと、自我を持たないから、意味がないよ」
「助けて…」
「これは面白いことをするなぁ」
魔物の前に立ったのは最初の時の老人だ。
「話の長い老人?!」
女性達が声を上げて驚く。
「ガイアという名前じゃ」
そう言うと杖を魔物に向け「第十六魔法人間化」を唱える。
魔物の上に魔法陣が展開される。
そこから降り注ぐ、光の雨は魔物を包み込み元の人間へと変化させる。
「お主、あんな魔法が使えるんじゃな、びっくりじゃ」
「ありがとうございます、ですがガイアさんもすごいですね。」
この学園長は相当強いらしいな。
「学園長だから当たり前じゃ」
「お主達もよく頑張った」
ガイアはザク達の方へ言う。「特別に、両方合格としよう!」
ザク達は悔しさと恐怖心でその場に立ち尽くしていた。