第3回
スイートよりも早く城の前にまでやって来たポプリ、しかし、人が疎らになっており、ポプリはたまらず近くにいる人に聞いた。
「すいません。異世界の人達は?」
「ああ、皆、もう城内に入っちゃったよ」
「そんな!」
ショックを受けるもすぐに聞き出す。
「人数は?」
「三十人ぐらいだったかなぁ。後、変わった格好をしていたよ」
「一人ぐらい外にいるって事は?」
「ないんじゃないかな」
「……ありがとうございます」
肩を大きく落とす。そこへスイートが駆け付けて現状を聞く。
「どうだった⁉」
「ダメ」
「あ~、遅かったか~」
頭を抱えるスイート。しかし、周りを見て思いついた。
「ねぇ、折角だから歌ってみる?」
「今……? あ!」
広い場所、疎らとはいえ人はいる、絶好の機会と見た二人は早速、ハープとマイク、小さな箱を用意して歌い始めた。
一曲歌い終えると、お決まりの台詞を叫んだ。
「いやー、今日も聞いてくれてありがとぉぉぉ!」
人も数名ほど聞いてくれていた。ポプリはお客様が去っていったの確認すると箱を覗く。
「やった! やったやった!」
歓喜の声をあげながら、スイートに中身を見せつけた。
中には、数枚の銅貨が入っていた。
「おおぉぉ! やったじゃん!」
目標にはまだ届いていないが、日給0の二人には最高のイベントだった。
「いいよなぁ……お前は……そんな事で喜べて……」
二人の喜びに水を差す様にブレザーにネクタイ、少なくともここでは見かけない恰好をした少年が呟く。
「だ、誰⁉」
「そんな事で喜べるなんてな……」
負のオーラを発しながら呟く少年。
「てか、あんた何突っかかって来てるの!」
「お前らには分からないだろう……アイドル趣味で学校でも冴えない、異世界転移したかと思えば俺だけチートなしの凡人スキル野郎だった俺には……」
二人を無視して愚痴をこぼし始めた少年。しかし、ポプリは異世界というワードに目の色を変えた。
「異世界……もしかして、異世界の人⁉ 私、色々聞きたいことがあるんです!」
「こんな俺にか……?」
「はい!」
「答えられる事なんて……ない」
そう言って立ち去ろうとする少年。しかし、ポプリはブレザーの裾を掴み、それを許さない。
「待って待って!」
「ないと言ったろう……!」
「いや、そっちの世界の事を教えてよ! それに名前!」
自分達の世界について、そう言われた少年はさすがに足を止めた。
「少しだけならな……」
「じゃあ、最初に言っていた『あいどる』って言うのは?」
「これで全部わかるさ……」
そう言って少年は片手で持てる直方体に三角形や二本の棒のマークが描かれた金属の塊と白色に先端が丸まったコードを差し出した。
「これは?」
「イヤホンと音楽プレーヤーだ。こいつを耳に刺して、これを押せ……」
最初にコードの先端、次に三角形のマークに指を指す。
二人は指示通り、ポプリは右耳にスイートは左耳にイヤホンを刺す。そして、三角形、もとい再生ボタンを押す。
「俺に出来る事は……もうない……」
そう言って去る少年。しかし、二人は気付かなかった。
二人の耳に流れ込んでくるのは、彼の世界でならありふれているであろうアイドルソング。
女性や少女が多種多様な音楽を背景に七色の美声を披露している。
「お? おぉ! ふぉぉ!」
聞いたことの無い歌の連続にポプリは時折、驚きの声をだし、スイートは目を瞑り鼻歌を歌いだした。
ある程度聞き終えた所でポプリは叫ぶ。
「これだよ! あいどる? をすれば、皆聞いてくれるはず!」
一方、スイートはイヤホンを刺したままで流れてきているであろう曲のリズムを取っている。
「スイート聞いてる⁉」
「おぉうわ!」
空いている片方の耳に叫ぶポプリ。驚いて声を出しつつイヤホンを外すスイート。
「聞いてるって! ちょっと聞き入っていただけで……。でもこれかなり良いね!」
「でしょ! さっきの人にお礼を……」
そう言いかけた所で少年が消えている事に気づいた二人。
「アイツ、どこ行ったの?」
「分からない、とにかく探そう!」
感謝と新たな疑問を解くため二人は探し始めた。