第1回
何処かの田舎、木製の家がぽつぽつと建っている中の一軒。その家の前で二人の少女が一人の女性と話をしていた。
「忘れ物は無い?」
「無いってお母さん」
「スイートちゃんもポプリをよろしくね」
「任せて下さいってお義母さん!」
「スイート! お義母さんって!」
「あはは、ジョーダンだって」
一人が楽しげに笑うとそれにつられて二人も笑う。
「それじゃあ、お母さん。絶対にここまで私の名前を広げて見せるから!」
「ええ、待ってるわ。でも、疲れたらいつでも帰って来てもいいのよ」
「うん!」
少女は一歩後ろに下がって笑顔で呟く。
「それじゃあ……」
そして、叫んだ。
「行ってきます!」
「ええ、行ってらっしゃい」
女性は微笑み、それを見た二人は家と女性から背を向けて旅に出た。
輪を描くように立ち並ぶ巨大な壁、壁の内側には石畳にレンガの壁の家が大量に並び、その内側には、大きな城がそびえ立っている。
そんな街の一角で、茶髪でセミロングの少女が歌を歌う。隣の金髪にポニーテールと尖った耳を持つ、少なくとも人ではない少女がハープを弾く。道を行く人々は特に何も気にしていない様だ。
「いやー、今日も聞いてくれてありがとぉぉぉ!」
そう言って、笑顔で手を振る。しかし、その先には誰もおらず、足元には、空箱が置かれているだけだった。
「……はぁ」
大きく肩を落とすと、金髪の少女が声を掛ける。
「ポプリ~、今日はどうだった?」
「……0」
「0? 今日も? 本当? スイート姐さんに嘘ついてないよね?」
「本当。嘘、つかない」
「マジかー……三日連続はさすがにキツイし……」
スイートも落ち込みしゃがみ込むと空を見上げた。
「今日、もう帰る?」
「……そうする……」
意気消沈した二人は、宿屋へと歩いて行った。
歩きつつ二人はこれまでの事を思い返していた。
同郷で普通に過ごしてきた人間のポプリ。
その幼馴染で姉妹同然に育ってきたエルフのスイート。
成長した二人は共に吟遊詩人になろうと、巨大都市、ショパンへやって来て二十日後、昼は浮浪者、夜は宿屋でごくつぶし同然の生活を送っていた。
「ただいま~」
「おっちゃん、戻ったよ~」
ポプリ、スイートと順に宿屋のオーナーに声を掛ける。
「お帰り。今日はどうだった?」
「ないです」
「綺麗に0」
「えぇ……これで三日連続だけど……」
二人の収益を聞き頭を抱える店主、更に続けて言う。
「二人共……うちだって仕事でやっているんだからさ、少なくとも今日の宿代ぐらいは払ってもらわないと……」
「ほんと、すいません……」
「後三日、ね? おっちゃん?」
「その言葉は三日前にも聞いた!」
声を荒げたオーナーは、一つの提案を出した。
「よし! まだ日は出ている、今日中に最低でも今日の宿代を用意する事、出来なければ出て行ってもらう!」
「そんな! 昼は演奏や練習で忙しいのに!」
スイートは必至に言い訳をするが堪忍袋の緒が切れたオーナーは誰にも止められない。
「分かりました」
状況を察したのかポプリは深々と頭を下げスイートの手を握ると宿を出て行った。
「出てって良かったの? 今回もいけそうな気がしたけど」
宿を出て街を彷徨う二人。スイートの疑問をポプリが返す。
「いくら何でも払えなかった日、十四日分はマズイって!」
「そりゃあ……分かっちゃいるけど……」
「とりあえず、ギルドにでも行く?」
「それしかないかー……」
ぼやくスイート。さらに彼女は質問をしようと口を開く。
「それでさ……」
ニヤつきながら言った。
「……いつまで握ってるの?」
「あ、ごめん……」
すかさず手を離す。二人は歩いて、依頼を受け付け、それを解決し報酬を得る職。冒険者が集まる場所ギルドへ向かった。