ユニコーンの角。
「これ、すっごくかっこいいね!」
寝かし付ける為に読んだ絵本。
その一ページにあったイラストを眼にした子供は無邪気にはしゃいでいた。
「うん、凄いでしょ。 なんだって出来ちゃうんだから」
焚き付けるような真似をしてしまったことに正直後悔せざるを得ない。
薄い掛け布団でくるまるふたり。
母親と、まだ小学生になる前の息子。
そこに父親の姿はなかった。
ふと見上げると、小さな写真だてから優しい視線が向けられていた。
「あなたがいたら……もっとうまく出来たんだろうなぁ」
「ん? なんかいった??」
「ん~ん、こっちのハナシ」
聴こえないように呟けど、お互いの肌が触れあい、思わず汗ばんでしまうぐらいだ。
斯くも子供の体温というか、その新陳代謝が羨ましくなってしまうほど。
むしろ、冷え性だった自分からしてみれば無料のホッカイロに等しく、抱き締めていることの意味合いが大きかった。
「ねぇねぇ、お母さん。 早く続きを読んでよ!」
余韻に浸っているわたしを余所に、爛々と瞳を輝かせてくる。
好奇心とはこれほどまでに恐るべきモノだったのか。
「もう。 仕方がないわねぇ…… 」
また一ページを捲り、語り部口調で。
物語を紡ぐ母親。
「その子馬は、誰からも愛されず、鋭い角がみんなを拒んでいきました」
「やがて、一人っきりになり、冷たい夜露だけがお友だちになって……」
いくつ文字を読んだかはわからない。
気付けば息子はスヤスヤと寝息をたてていた。
ようやく、自分も眠れる。
そうして瞳を閉じた頃、願いを叶える逸話に誘われるようにして微睡んでゆく。
「君は今、幸せかい?」
たぶん、貴重な不思議な出来事。
今となっては夢でしかない。
ユニコーンとなった夫が幼き頃の私を背に乗せて、枕元はしっとりと涙で濡れていたのであった。