三日目・6 皆は次を約束する
事情聴取が終わって、僕らは警察署から解放された。木野さんと戸田さんは通常営業でにぎやかに言い合いをしていて、時々大江さんがツッコミを入れている。
「ああ、やってるねえ」
のんびりした声が聞こえた。振り向くと明智さんや三沢さん達、一緒に閉じ込められたメンバーが集まっていた。これから帰るところなのだろう。
「いつものことですから」
大江さんも苦笑しつつ答える。
「やー、皆の衆!」
みんなに気づいた木野さん達が、こっちへ声をかけて来た。
「俺の映像が事件解決の役に立ったなら、光栄だよ。実は今回の事件、再編集してドキュメンタリーにしたいと思ってるんだ。現場の生々しい映像はさすがに無理だけど、木野君の名探偵ぶりは映像として残しとく価値はある」
「さっきからこればっかりなんだよ、部長」
寺内君がこっそりささやいて来た。
「いつか、あれ以上の映像を撮らせてやるよ」
「そう願うよ」
木野さんと三沢さんはがっちり握手をした。
「そう言えば、君達の芝居の結末が見られなかったのも残念だね」
「……やなこと思い出させないでください……」
大江さんがここまで嫌がるなんて、何があるんだろう、あの芝居。
三沢さんに続き、明智さんが木野さんに右手を差し出した。
「いつかまたセッションしよう、木野君」
「あー、楽しかったよなぁ、あれ。またやろうな」
握手する明智さん達の横で、上月さんが静かに大江さんに近づいて来た。昨日の二人のいさかいを思い出して僕は内心ひやりとした。
「……約束、忘れんなよ」
上月さんはそれだけ言った。
「そっちこそ」
大江さんもそれだけを返した。
二人はにやりと笑い合った。
二人の間にどんな約束が交わされたのか、僕はついに聞くことが出来なかった。
☆
その後、警察の捜査によって、柴田さんが受験ノイローゼ気味だったことが判明した。柴田さんにとって、久々に再会したかつてのいじめられっ子──菅原さんは、自分の未来を阻む破滅の使者のように映ったらしい。昔、菅原さんを殺しかけた罪悪感が、かえって柴田さんの心に過剰な影を落としてしまったということだろうか。
柴田さんと菅原さんが通っていた小学校では、今頃になっていじめの事実とその揉み消しが発覚し、マスコミに大々的に取り上げられるほどの問題になっていた。
僕は僕で、何かと大変だった。
実行委員長である柴田さんが逮捕されたり、現場検証や事情聴取が長引いたり、はたまた手抜き工事の責任問題のゴタゴタがあったりで、県総祭の日程は遅れに遅れていた。
それでも、僕はなんとか県総祭の中止だけは食い止めようと、実行委員の人達やPTA、県の教育委員の人達まで説得して回っていたのだ。
菅原さんのために僕が出来ることはそれだけだったし、何より、僕は見てみたかったんだ。三沢さんの映画、明智さんの音楽、木野さんの舞台──表現者達の、本来の姿を。
僕の熱意が通じたのか、協力してくれる人も日ごとに増えた。そして規模こそ多少小さくなったものの、県総祭は今年も行われることになったのだ。
準備は整った。
また、あの人達に、会える。




