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木野友則の悪意  作者: 水沢ながる
一日目 発端
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一日目・1 彼らは遅れて到着する

 まずは、どうしてこういう事になってしまったか、そのバックグラウンドから説明しなければならないだろう。

 僕の住むS県には、独特のイベントがある。S県高校総合文化祭、略して県総祭。県内の高校(高専なども含む)のあらゆる文科系クラブを集めて行う、全県規模の文化祭だ。

 このイベントの独特なところは、これがほとんど高校生自身の手によって運営されているという点だ。主催校は毎年持ち回りで決められ──小規模校は近隣の二~三校が合同で行う──、そこの生徒が運営実行委員となる。そして参加する他校の生徒もスタッフとして訪れ、手作りで自分達の晴れ舞台を作っていくのである。

 自慢じゃないけど、うちの県の文科系クラブのレベルは全体的に高い。運動部が甲子園なりインターハイなりを目指してるのと同じように、文化部は県総祭を目指しているからだ。これをステップにして、全国コンクールで賞を取った先輩も数多いのだ。


 ……話がそれてしまった。元に戻そう。


 今年の県総祭の主催校は、僕の通っている県立加西(かさい)高校だ。学校のレベルとしては、県内でも上の方だろう。S県西部にある高校の中では、まあトップクラスと言っていい。県東部にある名門中の名門、私立星風学園には負けるけれども。

 僕はあまり気にはしてないけど、加西高の生徒の一部には、星風学園を勝手にライバル視してる奴もいるらしい。県の東と西って事で、直に両校の生徒が顔を合わせる機会が少ない事が幸いと言えば幸いだ。

 僕はその加西高校の一年、名前を小泉康文(こいずみやすふみ)と言う。これでも県総祭の実行委員の一人だ……と言えば聞こえはいいが、一年坊主はほとんど上級生スタッフのパシリみたいなものだ。

 パシリの……もとい、実行委員の仕事と言うのは、やたらと多い。会場の整備、機材の運搬から設置、プログラム作成、印刷物の手配、備品の確保、それぞれにかかる予算の配分、その他諸々。

 何しろ県総祭の期間は三日間もあるし、期間中には各校の放送部が合同でミニFM局を開設するわ(地元FM局の協力を仰いでいる)、文芸部やマンガ研究会は部誌の即売会を行うわ、絵画や写真に混じって本格的な短編CGアニメの展示はあるわ、茶道部のお茶会はあるわ、工業高校の生徒による自作ロボットのデモンストレーション(ロボット相撲大会で優勝した猛者まである!)さえやってしまうのである。

 僕はその中で、ステージでの() し物関係の仕事を担当している。これもまた、三日間スケジュールがぎっしりと詰まっている。演劇、ダンス、バンド演奏はもとより、映画研究会による自主映画上映、読書クラブによるビブリオバトル、服飾科の生徒とアニメ同好会によるコスプレコンテストなんてのまで。

 余談だが、こういったクロスオーバーな企画が多いのも県総祭の特徴だったりする。

 この日、実行委員長で三年の柴田崇(しばたたかし) 先輩と学校へ来たのも、実はその関係だった。他校でステージに立つ予定の人達が、打ち合わせとセッティングの下準備をするためにやって来たのだ。何でも、自分のところのステージと音響機器の仕様や何かが異なるためらしい。

 僕らとその人達は坂下のバス停で待ち合わせ、皆で加西高校まで行くことになった。


 そんな折だった。

 季節はずれの大型台風が急に進路を変え、S県西部を直撃したのは。

 


 僕が待ち合わせの場所に着いた時、柴田さんはすでに来ていて、他の学校の生徒達と話をしていた。

 まだ風も雨もそれほどではなかったが、やはり来ている人は最初の予定より大幅に少なく、たったの四人しかいない。二人は制服を着ていたが、後の二人は私服だ。可愛い他校の女子との出会いをちょっと期待したけど、残念ながら全員男ばかりだった。

「遅くなりましたっ」

 僕は柴田さんに頭を下げた。柴田さんはちらりと自分の腕時計に目をやった。

「ギリギリだな。五分前には来てろよ」

「すみません。あの、これで全員ですか?」

 柴田さんが答えようとした時、新たに制服姿の一団がこちらへやってくるのが見えた。三人で何かしゃべりあっている。

「ったく、何だってよりにもよって台風なんか来んだよ?」

「てめえの行いが悪いからだろ」

「そうですよ。あ、あんたまさか、有り金全部どこかに募金でもしちゃったんじゃないでしょうね?」

「それで台風来たって? それじゃ俺、すっげー悪人みてーじゃん」

「違うように言うな、ホントのコトだろが」

「だって事実ですもん」

「あ、それじゃ俺、臓器移植のドナーにでもなって、子犬か何かかばって車に轢かれて脳死にでもなったろかな。ああ、なんて善人なんだ俺」

「うわあ、すっごい偽善的」

「こういうのに限って、ドナーカードの記入漏れしてたりすんだよな」

 と、そんな掛け合い漫才をやりながらやって来た一団は、僕らを見つけると小走りに駆け寄って来た。

「あの、加西高校の方ですか?」

 一番歳下らしい人が訊いて来た。歳下、と言っても僕にとっては上級生だ。「2-D」というクラス章が見える。

「あ、はい、そうです」

「遅れてすみません。星風学園の者です」

 その時僕は、初めて彼らが三人組ではないのに気づいた。さっきの三人のしゃべくりに加わっていない、ちょっとおとなしそうな感じの人。その人を加えて、四人。

 結局、その四人を含め、総勢十人の男子が今日集まったメンバーだった。


 僕らは加西高校へ向かった。

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