再び名付けだ!
「それにしても、おまえ普通に話せたんだな」
「何言ってるんっすか、当たり前ですよ。クレル様や守護神さまに失礼な事はできないっすからね。時と場合と相手を選んでるんっすよ」
「イーサン、クラウス様はあなたの上司だという事を忘れないように」
「はい」
返ってきたイーサンの答えにクラウスさんは顔を引きつらせているが、アルヴィンさんが注意したのでそれ以上は言わずにため息をついている。
残念だが、すぐに疲れたと言っては森にご飯を食べに来るクラウスさんに尊敬される上司のイメージは確かにない。
「私のことはクレルでいいわよ。『様』なんて堅苦しいのは好きではないから」
「わしも気軽にフェンちゃんとでも呼んでくれ。そもそもフェリクスの守護神でもないしのぅ」
「えっ!? フェリクスの守護神さまじゃないのですか?」
驚くイーサンに、ワッハッハっと笑いながらフェンちゃんが守護神と呼ばれる様になった経緯を説明した。
「まぁ、そんなわけじゃ。こやつらの仲間ならそこまで礼儀にもこだわらん、身を挺して精霊や仲間を助けるあたり中々気概もありそうじゃしな」
「フェンちゃん! 光栄っす!」
「……すごいなあいつ」
「えぇ」
「そんな羨ましそうな顔してないで、おまえもフェンちゃんと呼んでみたらどうだ?」
「やめて下さい、恐れ多くて無理ですよ」
しかし驚いたっす! とその後も最初とは180度ほど変わった態度でフェンちゃんと軽快に話すイーサンをクラウスさんとアルヴィンさんはどこか遠い目をしながら見ていた。
クラウスさん曰く、若さ故の適応力なのだろう。
「ところであなたの名前はなんていうのかしら?」
「名前は……」
精霊はそう小さくつぶやくとクレルの方をじっと見つめた。
クレルも目を逸らさずにじっと見つめている。
2人ともどうしたんだろう?
「もしかして思い出せないんじゃ……」
「えっ?」
イーサンの発言にみんなが顔を合わせた。
「強い衝撃やショックを受けると一時的に記憶がなくなったりすることがあるっす。あの施設での爆発なら十分あり得るかもしれないですから」
「確かにあり得なくはないが……」
「精霊は自然がたくさんある場所に好んで住むって言うっすから、この森を見て思い出すきっかけになればいいっすけど」
イーサンとクラウスさんが話していると、精霊の肩の力が少し抜けたようにフッと下がった。
「記憶はちゃんとありますわ。人間に呼ばれる時はみな番号でしたの。それに意思を持った時には透明の箱の中にいましたから、外の世界は今日がはじめてなんです。外の世界がこんなに美しいなんて知りませんでしたわ」
精霊はそう答えると力なく笑った。
番号? ……それに生まれてからずっと精霊の研究施設にいたって事?
「どういう事だ、意思を持った時には……だと?」
「"みな"と言うことは他にも同じような精霊がいたのですか?」
グッと手に力が入った精霊の肩にポンと軽くイーサンが手を置くと、クラウスさんとアルヴィンさんが立て続けに質問するのをイーサンが軽く諫めた。
「そんなに怖い顔で聞いても答えれないっすよ。ね?」
イーサンに覗きこまれた顔からボッ!! っと音がしそうなほど顔が赤くなって精霊はプルプルと震えている。
その姿を見てショックを受けたと思ったクラウスさんとアルヴィンさんが不躾だったと謝っているが、あの反応は間違いなくイーサンの顔覗き込みという不意打ちによるトキメキが原因だろう。
私もアルヴィンさんと会う時はよく陥る現象だ。気持ちはよくわかる。
って、そんな事を分析している場合じゃない。
「名前を決めましょう。聞きたい事はあると思うけれど詳しい話はそれからでもいいでしょ?」
「うむ、そうじゃの。名前がないと不便じゃし番号なんぞは呼ぶ気にはなれんわい」
何度も謝っているクラウスさんとアルヴィンさんをよそにクレルとフェンちゃんが話を進めている。
しかし精霊の名前を考えるのは大賛成だ。
フェンちゃんが言うように番号なんて酷すぎる。
「そうだね! 可愛い名前にしようよ」
幼く見える姿だからクレルとは違う可愛さだが、可愛さに間違いはない。
その可愛さにふさわしい名前がいい!
「名前ですの? 私の名前……。でしたら……皆さまに考えてほしいですわ」
「ふふっ! お任せなさい!」
クレルも張り切ってるし、クラウスさんたちもあーでもないこーでもないと真剣に考え始めた。
しかし色々案は出るもののいまいちしっくりくる名前がない。
「決まらないわね。ピンとくる名前がないわ」
「そもそも、こんな短時間で決まるものでも決める事でもないんだがな」
「名付けの書籍を手配しましょう」
「じゃが、ここに住む以上早く決めんと名無しじゃ味気なかろう」
「せっかく自由になったんすから、早く決めてあげたいっすね」
名付けの本なんてあるんだ。 アルヴィンさんが名付けの本を見る姿……。
ふへっ、アルヴィンさんは難しそうな本を読んでるイメージだからこれもまたギャップに萌える。
本を読んでいるアルヴィンさんを見た事は無いので、妄想に妄想を重ねているがきっと本を読む姿も素敵に違いない。
妄想で緩んだ頬をペシペシと軽く叩いていると怪訝な顔をしたクラウスさんと目が合ったかと思うと急にアルヴィンさんを見てニヤニヤしだした。
なんて感の良さなんだ……嫌すぎる。
大事な名付けの時に邪な気持ちが入った罰なのか。
恥ずかしい気持ちを隠すため精一杯真面目な顔をした。
「あ、あの……」
「ん? どうしたの?」
ソワソワと少しぎこちなくしている所をみると、私が妄想に取り憑かれている間に、気になる名前があったのかもしれない。
「私ここで皆さまと暮らしていいんですの?」
名前のところの内容を変更しました。




