動き出したネラディオス
クレルからフェンちゃんとソルテとの契約の様子を聞いたクラウスさんは、カナッペをすごい速さで食べながら質問を繰り返していた。
ソルテやフェンちゃんとの契約についても納得してくれたようだ。
手と口はずっと動いているのに上品に食事をしているクラウスさんを見て、貴族ってすごいなと思った。
「おい、お前食べすぎだぞ!」
その姿に呆気にとられていたソルテが、いよいよ食べるものが無くなると思ったのかクラウスさんに注意した。
「あぁ、悪かった。つい美味くてな」
「そ、そうか。おいしいならしょうがないな」
「特にこの生ハムのが美味い」とクラウスさんが言ったので、生ハム担当だったソルテは嬉しさが勝ったのか注意するのをやめた。
全く大人気ないんだから、いくらなんでもソルテの食べる分が無くなるのは可哀想だ。
ちなみにフェンちゃんはクラウスさんに負けずしっかり食べている。
クラウスさんとフェンちゃんに注意しようとしたところで、クレルがカナッペが乗っているお皿をソルテに渡した。
「朝はたくさん食べれないからあげるわ」
「……いいのか? ありがとうクレル姉ちゃん」
ソルテは少し驚いた後に嬉しそうに食べ始めた。
「クラウスさん、フェンちゃん! いい大人が子どもの分まで食べようとするなんてダメでしょ」
2人ともバツが悪かったのか素直にソルテに謝っていた。
それにしても、クレルが朝あまり食べないのは元からだけど少しはお腹に入れたほうがよさそうだ。
「クレル、野菜とフルーツのジュース飲む? 昨日の残りだけど」
森に帰って来てから出荷分を除いても余りある作物で野菜とフルーツのジュースを作ったら好評で、それから毎日収穫後に作っている。
ちなみに昨日のジュースの中身は、ミルクにすり潰したバナナとリンゴと小松菜を入れてよく混ぜライスさんにもらった蜂蜜を少し入れたものだ。簡単なジュースだがさすが森の野菜たち、いかんなく力を発揮している。
「えぇ、いただくわ。ジュースは自分で入れるからリゼも食べて」
「なんじゃ、ジュースが残っておるのか。わしもいただこう」
「おれも飲みたいー、昨日のは甘くておいしいかったからな」
「よくわからんが、俺も頼む」
酸っぱいものは美容にいいと聞いて青野菜とレモンをベースに作ったジュースは、ソルテには苦手だったようで昨日は甘さを意識して作ったのだ。
結局、みんなの分をクレルが用意していた。
「ところで急用ってなんだったんですか?」
一緒なんの事かピンときていなかったクラウスさんが手をポンッとたたいた。忘れていたようだ。
「職人街でワイバーンを使って君を襲わせた貴族が殺された」
「え?」
急な話しで頭がついていかない。
「あなたそんな大事な話を忘れてたの? もしかして犯人が誰かわかっていたの?」
クレルがクラウスさんに、なぜ報告しなかったのかと咎めるような視線を向けた。
「確証は無かったが目星は付けていてずっと見張っていた。言い訳になってしまうが犯人と断定できたのは昨夜殺害されてからなんだ」
詳しく話を聞くと、犯人はフェリクスの下位貴族で元商人の男だった。商人として成功し男爵位をもらい貴族になった男は、フェリクスの商業組合にも顔が効きていたようだ。
街だけでなく王都でも話題になっていた森の野菜に目を付けて私に辿り着き、そのまま囲って野菜を自分のものにしようとしていたようだ。
まさか狙われていた理由が森の畑だったなんて。
「リゼから森の利権を奪うためにあんな派手な事をするなんてバカなのかしら?」
「そうなんだろう。単純に利益となる森の畑が欲しかったようだし、リゼが魔力使いなのも知らなかったようだ。しかしリゼの利権を欲しがっていると知ったネラディオス……おそらく第一王子の手のものだろう、その男に接触してワイバーンを高額な金額で貸し与えていた」
「どうしてネラディオスが……」
ポツリと出た言葉にクラウスさんが私の方を見た。
「ネラディオスは君が魔力持ちと気付いている。クレルの存在にもだ。ザワスの狙いは森の畑の利権だけだったが、ネラディオスが欲しいのは君だ。ザワスがリゼを捕まえたらワイバーンを使って国の近くまで運ぶつもりだったのだろう」
ワイバーンは攻撃のためではなく、運搬の為に用意されていたようだとクラウスさんが言っているが……。
なにそれ、ワイバーンを使って運ぶってなに? ワイバーンにくわえられてって事? 色々と怖すぎる。
「よくそこまでわかったわね」
「隠し部屋に口外できないように結ばれた魔術による契約書類が残っていた。元商人だけあって事細かに残してあったよ」
クラウスさんが送っていた見張りが襲撃に気付いて助けに入ったが間に合わなかったらしい。
貴族が襲われたとあって騎士団と医術部の検視が行われたが、ザワス殺害に魔術が使われた可能性があると理由をつけて同行した魔術部が証拠となる契約書類を見つけ回収し、陛下と騎士団と魔術部の上層部のみ知らされているそうだ。
「なんじゃ、見張りをつけておいて殺されたのか。不甲斐ないのう」
「全く反論できない」
話を聞いていたフェンちゃんが口を開くとクラウスさんはため息と共に答えた。
「証拠だけでも残っていて良かったわね。ただ契約まで交わしておきながらザワスが、街でワイバーンを使って騒ぎを起こした理由がわからないわ。そもそもワイバーンの従属契約は誰がしていたの?」
「ネラディオスの魔術師だ。しかし、万が一に備えて一時的にザワスの命令を聞くようにしていたようだ。ワイバーンを使った理由は単純に好奇心だろうな。ネラディオスがリゼと精霊の事を伏せていなければ、あんな暴挙には出なかっただろう。欲に付け込まれていいように使われたな」
「従属契約じゃと? わしはアレが大嫌いじゃ、忌々しい」
吐き捨てるように言うフェンちゃんにクラウスさんが謝罪をしていた。
「よいのか? そうやすやすと頭を下げて、宮廷魔術師長なのだろう。国の意とみなされるぞ」
「人間が術により魔獣を使役する、あなたが気分を害する気持ちはもっともです。国を代表して心より謝罪を」
「ネラディオスが持ち込んだとしてもか?」
「この国の貴族が関わり実際に使われた以上謝罪は当然かと」
「……お主に免じて謝罪は受けよう、だか従属魔法を使ったヤツは噛みちぎって八つ裂きにしてやるわい」
フェンちゃんの目は本気だ。
「最大限の協力をします」
クラウスさんも嬉しそうにフェンちゃんと握手している。
話が落ち着いたところでクレルが声を上げた。
「ザワスが失敗した時ではなく、なぜ今なのかしら」
「ネラディオスの王族が近くフェリクスへやって来る。十中八九、目的は君たちだ。ザワスが接触してきて下手な騒ぎになる前に消したんだろう」
「そんな理由で……」
「もっとも、ネラディオスもこちらが気付いているのはわかっているだろうがな。王族の訪問は日程が決まり次第連絡する、我々も最大限警戒するが気をつけてくれ」
「なるほどね、わかったわ」
「フン、向こうからやってくるとはのう。楽しみじゃわい」




