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聖獣と聖樹

 部屋に着くころには、モフモフは腕の中で眠っていた。


「よほどリゼさんの腕の中が気持ち良かったのね」


 フレッドさんもケイラさんも、モフモフの寝顔を見ている間に落ちついたようだ。


「しかし、本当にあの木に聖獣がいたとは。父上にもお見せしたかったよ」


「本当ですわね」


 元々そんな話があったのだろうか。眠ったモフモフを、そっとソファの上に置きながら話に耳を傾けた。


「あら、何か知っていたの?」


 クレルが聞くとフレッドさんは懐かしそうに目を細めた。


「我が家の記録に、曽祖父がいくつかの木を植えたとあってね。色々試したが、あの木だけは大きくならなかったそうだ。私はあまり信じていなかったけれど、父上が聖獣が住んでいるのではないかと亡くなるまで熱心に研究していてね。まさかと思ったよ」


「えぇ、あなたは元々その大きさの木なんだと言っては、夢がないと言われてましたものね」


「木に聖獣が住むなんてお伽話と思っていたからね。だが、クラウスはいつも父上の後ろについて木を見ていたな。帰ってきたらきっと驚くぞ」


 小さい頃のクラウスさん、信じてたんだろうなぁ。


「どうして木の中に住むのかな?」


「すーぅぴぃーすぅぅ」


「「「「…………」」」」


 モフモフの寝息が部屋に響いた。みんなの気持ちが一致したはずだ、尊い……! 実際尊いんだけどね、とクレルがつぶやいてる。たしかに。


「成長するまでの隠れ蓑なんじゃないかと言われてるけど、詳しくは分からないのよね。ただ聖獣が住んでいた木は聖樹になると聞いた事があるわ」


 クレルの聖樹発言を聞いた、フレッドさんとケイラさんは抱き合って喜んでいた。


「聖獣は神の使いだと言われているけど、聖樹ってどんなものなの?」


 神聖なものだということは、名前からも予測できるけれど聖獣と同じように神さまの木なのかな?


「我々、魔術師も聖獣についてはリゼさんと同じような認識だな。聖樹は、万能薬(神級ポーション)の材料という伝承や神の休息の場といわれているね」


 ポーションの材料になるんだ! すごいポーションになりそう。


「聖獣が神の使いと呼ばれるのは、聖獣が人を襲う魔物と敵対する関係から人間が言い始めたのよ。聖樹は、聖獣の魔力干渉を受けて聖なる木になる……だったかしら。私もお母様の受け売りだから」


「クレルでも知らない事ってあるんだね」


「もちろんよ、私はまだまだ若い精霊だもの」


 クレルって何歳なんだろう。フレッドさんやケイラさんの前で聞くわけにはいかないよね。女の子なんだし。


「ありがとう、貴重な話を聞けたよ。領地に戻らずにしばらくこの木の研究をする事に決めた」


 爽やかに宣言するフレッドさんと「研究者の血が騒ぐわ!」と拳を握りしめるケイラさんは、似た者夫婦だ。


「そうだわ! ここにいれば、リゼさんの温泉も完成まで見届けられるわね」


 デザインと設計はケイラさんが受け持って、施工はケイラさんが贔屓にしているミヤビという職人さんに頼む事になっていたのだ。

 ケイラさんは領地に戻るから、最後まで見れないと嘆いていたのだけど。


「お2人が領地にいなくて大丈夫なんですか?」


「半ば隠居しているからね、ハリーに家督を譲る良いタイミングかもしれないね」


「そうね、そろそろ任せても良さそうだわ」


 ハリーさんとは、数年前に婿入りしたクラウスさんのお姉さんの旦那さまだ。王都の西側に位置する農村地帯がオルドリッジ家の領地エーベルで、国中が不作続きの時でもエーベルは不況知らずと言われるくらい豊かな土地らしい。


「そうなると、一度領地に戻らないといけないな。1週間で手続きを終わらせるか……」


「では、私もその間に設計図をまとめて職人に連絡をとりましょう」


 モフモフと出会って30分足らずで、フレッドさんは隠居を決め「クラウスに、1週間後に戻ると言伝を頼んでいいかい?」そう言うと2人は転移魔法で領主に帰って行った。


「行きも帰りも急だったね」



 その後、帰ってきたクラウスさんに状況を説明してモフモフを紹介した。

 フレッドさんが隠居する為に領地に戻ったと話すと、大きなため息をついていたが「義兄上なら心配ないな」と異論はないようだ。


「本当に聖獣がいたとは」


 モフモフを見た時のクラウスさんは、思ったほどの驚きは見せなかった。


「もっと驚くかと思いました。小さい頃、クラウスさんもお爺さまと木の観察をしてたんですよね?」


「驚いているが、最近は規格外な事が多くてな。特に君が。……ところで、なぜそれを知ってるんだ?」


 怪訝な目を向けられているけれど、別にクラウスさんに興味があって調べたりしている訳ではない。


「フレッドさんが言ってたわよ」


 クレルのフォローで納得したクラウスさんは、そわそわしながら私の腕の中で気持ち良さそうにしているモフモフを見ている。触りたくて仕方がないようだ。



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