魔術訓練
「な? えっ?? 質問ってそれ?」
わかりやすく狼狽える私を温かく見守るクレルの視線が痛い。
アルヴィンさんを好きかと聞かれたらどうなんだろう。さり気なく優しいし、ワイバーンから守ってくれるくらい強いし、やや冷たそうな目もかっこいい……思い出していると胸の辺りが少しドキドキする。
「……好きなのかな? 自分でもよくわからないよ」
好きがよくわからない。クレルはウンウンと頷いている。うぅ、口にすると一気に恥ずかしさが込み上げてきた。
「さ、お昼からは魔術訓練もあるし少しゆっくりしましょう。私もしばらく休むわ」
えっ?? クレルは体を小さくしてふよふよと飛んでクラウスさんが作ってくれたベッドに入って行った。
えーーーっ!? それだけ?? なんだったんだ。
もしかして、からかわれただけ?
よく分からないが、ただ恥ずかしい思いをしただけだった。……ライスさんにもらったお菓子のレシピでも読もう。行き場のない恥ずかしさをかき消すために、一心不乱にレシピを読んだおかげで全て覚える事が出来た。次の日、その事を伝えるとライスさんにいたく感動され新しいレシピをもらう事になるのだった。
――――ドドドドドドォーーーーン!!!!
綺麗に手入れされた庭に植えられていた小さな木が、ゴォォォっとけたたましい音を上げながら急激に成長していった。
クレルの身長くらいだった木は、今や空を見上げるくらいの大きさになって、葉っぱは青々と繁っている。
事の発端は、魔術訓練の前に私の力を見てみたいとフレッドさんが言った事だ。
庭に先祖の代から何年も大きくならない木があるからと、森の野菜に魔力を流すようにやってみたらこの通りだ。
「……いつもと同じくらいの魔力を流したんだけど」
フレッドさんとケイラさんは、顔を引きつらせながらそびえ立つ木を見上げている。
「魔力の量が増えてるわね」
やっぱりと言いながら人間サイズに戻ったクレルは、木の周りをふよふよと飛んでいる。精霊とバレたら自重はしないようだ。
「もしかして、クレルと契約したから魔力が増えたのかな?」
クレルは、そうだと思うけどと言いながらフレッドさんたちを見ている。
しまったーーーー!! 契約の事は秘密だったんだ。
フレッドさんとケイラさんは、今度は顎が外れるんじゃないかってくらい口をパクパクさせていた。
言い訳を考えていたら、フレッドさんに肩を掴まれケイラさんには手を握られた。
「素晴らしいわ、まさか精霊とその契約者を生きているうちに見ることが出来るなんて!」
「あぁ、こんな奇跡に出会えるなんて! 全ての精霊に感謝を」
涙を流しながら喜びを表す2人に、戸惑いながら「秘密にしてください」とお願いした。
「勿論だとも! たとえ死がせまろうとも約束は守ろう」
いや、命の危機がある時は言ってください。流石に「秘密にして死にました!」なんて受け止められない。たとえバレても、その時はクラウスさんがなんとかしてくれるだろう。
目をそらすように大きくなった木を見ると、根元の辺りが淡く光っていた。
「なんか光ってません?」
みんなが木の方を振り向くと、淡い光はどんどんと強くなり目が開けれないほどの光が溢れた。
「大丈夫か?!」
フレッドさんの問いかけに答えたのは、なんとも可愛らしい声だった。
「きゅ? きゅきゅ〜っ」
光の中から出てきたのは、クリクリの目にピンっと立った耳とふさふさの尻尾をした生き物だった。
「か、かわいい〜!!」
薄いオレンジ? 金色にも見えるけどギラギラとはしていない長い尻尾がパタパタと動いている。あぁ、もふもふ抱きしめたい!
「あれは……」「もしかして……」と腕を掴まれいるため、フレッドさんとケイラさんの声がすごい近くで聞こえてくる。魔力訓練を始めたこの数十分で、2人のイメージが最初とだいぶ変わってきた……やはりクラウスさんの両親なのだ。
もふもふは、きゅきゅっと言いながらトコトコと近付いてきて足元で止まったので、優しく抱き上げると腕の中でスリスリと体をよせてきた。
はぁ〜癒される。クレルもふよふよと近付いて来て、たぬきともねことも言えないモフモフを見ている。
「聖獣だわ、木が育たなかったのは聖獣が中で栄養をもらっていたからね」
「やはり!」
満面の笑みを浮かべたあと、フレッドさんは「ひ孫の代までの幸運を使い果たした」と目頭を押さえている。フレッドさんは、喜んでいるのか悲しんでいるのか発言のせいでよくわからず、ケイラさんはキラキラした目でモフモフを見ている。
「訓練どころではなさそうね。屋敷に戻りましょう」
2人の様子を見たクレルの意見に賛成して、腕の中で大人しくしているモフモフも連れて屋敷に戻ることにした。




