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森の家にお風呂を

 

 返事に迷っていると、側で聞いていたクラウスさんが思わぬ事を言った。


「定期的に化粧水を受け取る代わりに、母上はリゼにお風呂を作ってあげてはいかがですか?」


「リゼさんもお風呂が好きなのかい? それならば、ケイラの得意分野だな」


「あら、素敵ね」


「そんな事でいいのかしら?」


 トントン拍子に話は進んでいくが、化粧水とお風呂では釣り合いが取れない気がする。それに、ここのお屋敷のお風呂を見る限り、ケイラさんと私ではお風呂の対しての認識が違うと思う。


「メアリアの話では、母上の作ったお風呂を気に入っていたと聞いていますし。それならば、お互い欲しいものが手に入るでしょう」


「それなら任せて。イメージはここと同じでいいのかしら?」


 ほらーーー! 家の横に建てられるスペースは限られている、お屋敷と同じ様なお風呂なんて森には建てられない。庶民の懐事情も考慮して欲しい。

 そもそも、今ある水浴びする小さな部屋に浴槽を木で作って欲しかっただけなのだ。最初は温泉がでた場所で入れるようにと考えていたけれど、思った以上に費用がかかりそうなので諦めたのだ。

 浴槽だけ作って温泉を引くだけなら、今までの貯金とクロードさんと契約したお金でギリギリ足りるんじゃないかと思っている。

 お風呂作りはクラウスさんに大工さんを紹介してもらう予定だったのに。軽くクラウスさんを睨むと、悪びれず「得意な人に任せた方がうまくいく」とさらっと流してしまった。たしかにそうだけど、規模が違いすぎる。


「足が伸ばせるくらいのお風呂であれば十分なんです」


「「「えっ?」」」


 クラウスさん一家の声が重なって、驚いた顔でこちらを見ている。


「足が伸ばせないお風呂なんてあるのかい?」


 フレッドさん、お風呂がある家のほうが少ないんですよ……。

 私だって温泉が出て、ポーションのお風呂という心惹かれるものがなければ、お風呂作りなんて考えてなかった。取り返しがつかなくなる前に、お風呂作りは辞退しよう。


「せっかくですが、大工さんを紹介してもらえるだけでいいんです。森にある木で浴槽を作ってもらいたくて、一から作る予定では無かったんで」


「ごめんなさい、私の好みを押し付けるつもりはないの。リゼさんの好きに作っていいのよ」


 好みが違うから断ったと思ったケイラさんが、申し訳なさそうに謝っているがそうではない。お風呂を見た限り、ケイラさんの趣味は素敵だと思う。私だって作れるものならお願いしたい。


「費用を気にしているなら問題ない、元々紹介と費用は受け持つつもりだったから、君の好きなように作ったらいい」


 クラウスさんは断った理由に気付いてくれた。ただ、化粧水だけでそこまでしてもらう理由も場所もない。


「気持ちは嬉しいですけど、そこまで迷惑はかけれません。それに費用もですけど、作る場所も限られてますから」


「私からの費用が受け取りづらいなら、君に国から支払われる保護費を当てればいい。国からの詳しい金額が決まってから話そうと思っていたが、君の家にお風呂を作るくらいなんて事はない。場所もあの辺り一帯は国の管轄にしておいたので問題ない」


 国家権力!!!


「ねぇ、ここまで言ってくれてるんだし作ってもらってもらいましょう。広いお風呂ならリゼと一緒に入れるし私も嬉しいわ」


「お願いします!!」


 クレルにお願いされたらしょうがない、もう迷いはない。しかし……。


「国の所有地にお風呂作ってもいいんですか?」


「君が安全かつ快適に過ごせるように国が買い上げたのだからかまわない。まぁ、あまり目立つような事はしない方がいいだろうがな」


「話もまとまったみたいだし早速決めましょう! リゼさんの家は森にあるのね? どんな感じがいいかしら?」


 私とケイラさんが話し始めたので、フレッドさんはクレルとお茶を始めている。


 ケイラさんのお風呂のイメージをどうにか森の家に合わせて、やっと大きくなり過ぎない形に収まりかけた時、クラウスさんが「せっかくの温泉なんだからもう少し広い方がいいんじゃないか」と言いだした。

 温泉と聞いたケイラさんが興奮して、せっかくまとまっていたお風呂のプランは消え去ってしまった。

 どうやら王都でも温泉は中々出ないらしい。張り切るケイラさんに全て任せる事にした。最初からそうすれば良かったのだ。


 私は入れさえすれば良い、クラウスさんの言う通り得意な人に任せた方がうまくいくだろう。

 全てを任されたケイラさんは「腕がなるわ!」と言いながら部屋に戻って行った。


「うまく話が収まったな」


 結果だけならそうとも言えるが、クラウスさんの横槍で力を消耗した私は「はぁ」とだいぶ気の抜けた返事をかえした。私の返事に不服そうだが、30分以上話してやっと決まりかけていたのだ、気が抜けた返事にもなる。


 あ、そうだクラウスさんにパンケーキの材料聞いとかないと。


「クラウスさん、王都のフルーツやクリームが欲しいんですけど買いには行けませんよね?」


「そうだな、すまないが今は外出を控えてほしい。食材ならライスに言えば揃うだろう」


 良かった! 早速ライスさんに相談しに行こう。

 クラウスさんが今から仕事に行くというので、私もお礼を言って厨房に向かった。





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