ペンダントは水まきも出来る
「あぁ、いつの間にか寝てたわ」
時計を見ると2時間ほど寝ていたようだ。体力には自信があったのだけれど、朝とはいえ夏の日差しは体力を削ったのだろう。
目を覚ましたリゼは畑へと向かう。今朝と同じくツヤツヤと美味しいそうな野菜たちが大量に実っている。
不思議だ、今日の日差しで少し弱ってかと思ったのだけれど草を抜いたり虫をとったりしながら野菜を観察するが、全てみずみずしく一つも傷んだ野菜が無かったのだ。
こんな事は初めてだ。これもペンダントのおかげなのだろうか……。
「魔術の力ってすごい」
いつもより数段美味しかったトマトを思いだしながら、今日は夏野菜のパスタとトマトサラダにしようと決めた。メニューが決まると近くにあった籠を取ってその中に選んだ野菜を入れていく。
デザートはさくらんぼにしよう。バンさん達にも野菜と一緒にさくらんぼを入れておいた。注文には無かったがどれも1人ではとても食べきれない量だし気に入って貰えると良いんだけど……。
野菜とさくらんぼを籠に入れ終わる頃には辺りもだいぶ涼しくなってきた。ササッと水やりを終わらせて夕飯作りにしよう、こんな時魔法使いなら呪文一つで雨を降らせるのにねとペンダントを見ながら1人で笑ってしまった。
ただ昨日からの不思議な出来事につい魔が差したのだ、本当についとしか言いようがない。
「水よ! 」と畑に向かって手をかざした。
体からスっと少し力が抜ける感じがしたかと思うと途端にサーーーーっと水が畑に降り注いできた。
「嘘でしょ!!!」
ひとしきり1人ではしゃいだ後、とんでもなく高価なペンダントなのかもしれないと大事に胸元にしまい部屋に戻った。その夜、ドン!! っと大きな音が何度か森に響いた。
「空は飛べないみたいね……」
次の日の朝はお尻が痛くて中々ベッドから出れなかった。
─────なんだこの大量の野菜は!!?
野菜の入った箱の中にはカードが入っていた。
バンさん、遅れてごめんなさい。
注文よりは少し多いですが沢山育ったので使って下さい。さくらんぼも良ければご家族で食べて下さい。
リゼより
朝リゼが言ったとおり昼過ぎには荷台屋が野菜を届けに来てくれたがなんだこの野菜の量は。少し多いどころじゃないだろうよ。
いや、問題は量よりも野菜だ。リゼの野菜は鮮度も良いし味もいい、だか何か今日の野菜はいつもと違う。一つ手に取りトマトをかじってみる。
「───なんだこのトマトは、こんな美味いトマトは食べた事がないぞ……」
箱の中を見ていくと、レタスにズッキーニ、ナスにキャベツと全てがみずみずしい。こんな暑さの中運ばれて来た野菜とは思えない。隅の方に箱があり開けてみるとさくらんぼが入っていた。
こんな立派なさくらんぼは王都でも1級品だろう。この辺でお目にかかることはまず無いレベルだ。
どっと検品で疲れてしまったが有難く頂こう。娘と嫁が喜ぶだろう、次来た時はパンでも持たすか……。
後日、店に来たギュリもウチと同じような状態だったようで「とんでもない量のとんでもなく美味しい野菜とさくらんぼが届いた」と言っていた。