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「まぁ〜!! なんて素晴らしいのかしら!」


「ポーションを婦人方の化粧品にするとは、これは贅沢だな」


「ほほほほ……恐縮でございます」


 煌びやかな貴族の2人に捕まり頬を引きつらせながら、私は今、合っているのかもわからない言葉使いで返事をしている。1時間ほど前、クラウスさんの両親がやってきたのだ。

 陛下を交えた貴族との話し合いに、クラウスさんのお父さんも呼ばれていたけれど、数年前から領地で半隠居生活を送っていたため、知らせを受けて直ぐに出発したものの間に合わなかったそうだ。


「父上も母上も、少しは落ち着いてください」


 クラウスさんが取り成すという珍しい光景を見ながら、こっそりと息をついた。

 ちなみにアルヴィンさんは早々に仕事が残っていると退出し、クレルはクラウスさんの両親が部屋に入ってくる直前に私のペンダントに隠れてしまった。

 話に聞いていた以上に、クラウスさんの両親は精霊が大好きなようだ。2人は、最初こそ興奮を隠すように話していたが、精霊(クレル)から加護をもらった話になると目を輝かせながら質問が続いた。ついには、ポーションの化粧水の話になり今に至る訳です。


「あの、まだあるので良かったら使ってみますか?」


 使いかけを渡すのも悪いと思ったので、鞄に入れていた化粧水を取り出して渡そうとした所で、ポカンとしたクラウスさんの両親を見て我に返った。

 謁見に呼ばれる程の大貴族に、手作りの化粧水を渡すのって、もしかして物凄く不敬なんじゃないか……。

 わあぁぁぁ、どうしよう!


「す、すみません」


 慌てて、手に持った化粧水の入った瓶を引っ込めようとすると凄い速さで両手を掴まれた。


「嬉しいわ! 早速今日使わせて頂くわね!」


 楽しみだわ〜! と、どうやら喜んでもらえたようだ。クラウスさんのお父さんは、何やら「お礼を」と言っているが、化粧水作りにそれ程の手間もかからないので、気にしなくて大丈夫です。

 きっと、クラウスさんのお屋敷で朝食に出てくるバターの一欠片より安く出来ているだろう。なんせ、瓶代だけなのだ。

 うーん、しかし……効果には自信があるけれど、流石にクラウスさんのお母さんだけあって、年齢不詳なほどに若く見える。これだけ綺麗だと、あんまり効果って出ないかも。お父さんも精霊の話さえしていなければ、渋みと落ち着きを合わせたクラウスさんの完全体という感じだ。


「ねぇリゼさん、私の事はケイラと呼んでちょうだいね」


「君だけ抜け駆けはずるいよ。リゼさん、私はフレッドで構わないよ」


 庶民の私にそれは無理です……。結局、クラウスさんの助けもあってケイラさん、フレッドさんと呼ぶ事になった。クラウスさんありがとう! クラウスさんが頼もしく見えた。きっとクレルも見直しているだろう。


「ところでリゼさん、この化粧水だが元はポーションなのだから傷が治ったりするのかい?」


「そうですね、小さな傷はすぐ治ると思います」


 フレッドさんは「そうか」と答えると何やら考えているようだった。実際、化粧水を使いはじめてから家事や畑仕事で荒れていた指先はすっかり綺麗になっている。それ以外の傷には使った事はないので、あまり大きな事は言えない。治したい傷でもあるのかな?


 しばらく話していると、メアリアさんが夕食の準備が出来たと呼びに来てくれた。私も同じテーブルで食べるようにと促され、クラウスさん家族と私の4人で食事をいただいた。

 フレッドさんとケイラさんも、今日はクラウスさんのお屋敷に泊まるからとメアリアさんを筆頭にメイドさん達はバタバタだ。領地を出る前に早馬で手紙を出したが、それより先に2人が着き、到着から30分後にお屋敷に手紙が届いたそうだ。

 護衛も付けずに2人で来て大丈夫なのかと聞いたら、フレッドさんとケイラさんは元宮廷魔術師で現役を引退しても、まだまだ若い人には負けないと笑っていた。クラウスさんが真顔で頷いているので本当のようだ。


「大体、お2人とも転移魔法ではなく何で馬で来たんですか。そうすれば謁見に間に合ったでしょうに」


「謁見召喚が、クラウス(おまえ)からだったからな。直接会って聞いた方が早いだろ? 堅苦しいのは好きじゃないんだ。連絡が来て直ぐに出たのは本当だからな、はっはっはっ」


 クラウスさんのため息が部屋に響いたが、2人は気にする様子もなくケイラさんは「お風呂に入るわ」とウキウキしながら化粧水を持ってメアリアさんと部屋を出た。フレッドさんとクラウスさんもまだ話がありそうだったので、クラウスさんの奔放さってご両親譲りなのかもなぁと考えながら私も部屋に戻る事にした。



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