隣国ネラディオス
扉が開くと、メアリアさんと疲れた表情のアルヴィンさんがいた。
「クラウス様、私はあなたにまだ報告があるのでしばらく王城で待つようにお願いしましたよね?」
アルヴィンさんの迫力にクラウスさんは顔を引きつらせながら、必死に言い訳をしていた。この様子だけ見ると、どちらが上司かわかない。結局、クラウスさん途中で抜けてきてたんだ。
「アルヴィン、落ち着け。こちらも重要な話があったんだ。とりあえずお茶を飲もう」
クラウスさんがメアリアさんに耳打ちすると、すぐにお茶の用意をしてくれた。
アルヴィンさんは、紅茶をチラッと見るとため息をついて席に着いた。
「私は最初から落ち着いています」
アルヴィンさんが、カップに口をつけたのを見て私も紅茶に目を落とす。澄んだオレンジ色の紅茶を一口飲むとフワーっと香りが広がっていく。
「わぁ、美味しい」
思わず出た言葉に、メアリアさんが微笑みながら小さな声で「アルヴィン様のお気に入りの紅茶なんですよ」と教えてくれた。
クラウスさん、紅茶でアルヴィンさんの機嫌をとったのか。威厳も何もないが、作戦は成功のようだ。
クレルは、添えてあったクッキーが気に入ったようで嬉しそう。本当に甘いの好きだよね、森に帰ったら沢山作ってあげよう。
「それで重要な話とは何だったのですか?」
「あぁ、まず1つはリゼとクレルが契約を結んだ」
アルヴィンさんも想定していたのか、それでも少し驚いたようだったけれど黙って頷いている。契約は珍しいとクラウスさん本人も言ってたのに、みんな良く分かるよね。不思議だ。
「問題はこちらだ、ネラディオスの初代王も精霊と契約を結んでいた。王は契約した精霊と婚姻している。隣国の精霊学の著しさと豊かさの理由はこれだな」
「初めて聞きますね。クレルさんがいる以上嘘という事はないでしょうから……。ネラディオスは他国より加護持ちが多くいるので、契約者が居るのではと思っていましたが、まさか初代王が精霊と婚姻していたとは。では、ネラディオスの王族に度々現れる強い魔力持ちは……」
「初代王と精霊の恩恵だろうな。先祖返りもあるようだが、クレルの話によると強力な魔力持ちは百年に1度位の割合で生まれている」
「百年に1度とは多いですね。それほどまでに精霊との婚姻は後に影響を与えるのですか?」
アルヴィンさんは答えを求めるようにクレルに視線を向けた。
「私もその時代にいたわけではないから、ハッキリとは言い切れないけれど、よほどネラディオスの王とその国は精霊に愛されてたんじゃないかしら? でなければ、数百年も絶えず強い魔力持ちが生まれるのは難しいと思うわ」
「愛されていたとは?」
クラウスさんの問いにクレルは静かに答えた。
「精霊に消滅による死はあるけれど、寿命というものは無いの。だけど、契約を結んだ精霊は王と共に亡くなったと聞いたわ。自分の命と引き換えに、ネラディオスという国と王族に強力な祝福を与えたんじゃないかしら。最後は、精霊としてではなく人として王に寄り添い生涯を終えたのね」
「なるほど、精霊の命と引き換えの祝福なら不思議ではありませんね」
「先見の明を持って国を導く者、正しい事を望み不正を許さない、民に愛されし賢王の素質を持つ者」
クラウスさんが急に何かを言い出した。
「何ですか? クラウスさんの事ではなさそうですけど」
「本当に失礼なやつだな。ネラディオスの第一王子の評判だ。噂では非の打ち所がない青年のようだぞ」
良かった、クラウスさんが自分の事だとか言ったらどうしようかと思った。
「すごいですね、そんな方が第一王子ならネラディオスは幸せですね」
「本当に噂通りの人間ならな」




