隠されていた歴史
クラウスさんの事は信用しているので私は隠す気は無いけれど、契約は2人の問題だ。
答えて良いのかわからないので、返事はクレルに任せるとこにする。
ぐちゃぐちゃになった髪を整えるながら、2人を見ているとクレルはアッサリと答えた。
「さっきすませたわ」
どうやら、クレルもクラウスさんに秘密にするつもりはない様だ。
「そうか、精霊との契約。……くっ、立会いたかった!!!」
……ん?
なんか思ってた反応と違った。それにクラウスさんってこんな人だったっけ?
変わった人だとは思っていたけど、スマートな変人というイメージだったので拳を握り締めながら悔しがる姿に違和感がある。意外と熱い人だったのか。
「クラウスさんでも、そんな風に悔しがったりするんですね」
「君は、精霊との契約がどれ程の事なのか知らないからそんなにのほほんとしていられるんだ! あぁ、もっと早く帰ってきていたら。くそッ! ワイバーンの報告書など後回しにすれば良かった」
いやいや、今まで保護について結構語ってましたよね? ワイバーンの報告書などってなんですか。
「そんな大事な報告は後回しにしないで下さい」
いくら恨めしそうな目で見られても、もう一度見せる事は出来ないのだ。諦めて頂きたい。
「頑張ってあなたも契約できる精霊を見つけるといいわ」
「そう簡単に言ってくれるがな、フェリクスで精霊との契約が文献として残っているのは数百年前の話なんだぞ。それすら事実か分からないんだ。今、誰かが精霊と契約したら間違いなく国が荒れる。……まさかとは思うが、君は国を欲しがったりしないだろうな?」
「そんなことあるわけないでしょ!! こんな小娘が国を欲しがってどうするんですか。私は森でのんびりとクレルと一緒に過ごしたいんです!」
全くこの人は何を言っているんだ。クラウスさんに噛みつきそうな勢いで返事をすると、まぁまぁとクレルがなだめてくれた。
「クラウスの心配もあながち的外れではないのよ。まぁ、リゼがそれを望めばの話だけど」
えぇぇ……、望めば国が手に入るの?
精霊との契約は私が思っている以上に、大きな事のようだ。
「私は穏やかに暮らしたいだけだから、そんな大それた願いはないよ」
「信じてるぞ、万が一の時にはアルヴィンと結婚させて手綱を握るか……」
「何ですか、手綱を握るって。せめて本人に聞こえないようにしてくださいよ」
大体、アルヴィンさんが私と結婚だなんて……。
そんな、うふっうふふっ。
「リゼ、ちょっと顔が酷いわよ」
うん、色々とごめんなさい。それにしても。
「フェリクスでも精霊との契約があったんですね」
「その頃はまだ精霊と人間の関係は良好だったみたいだから」
もしかしたら記録に残っていなかっただけで、意外と人間と精霊の契約や結婚はあったのかも知れない。
そう考えると魔力持ちや加護持ちは、その子孫だったりして。色々考えているとクラウスさんに肩を掴まれた。
「フェリクスでも、とはどういう意味だ? 他にも契約について知っているのか?」
クラウスさんは、ネラディオスの話知らないのかな?
私もさっき聞いただけだしなぁ。説明出来るほど詳しくはないので、ここも答えはクレルに丸投げしよう。
視線をクラウスさんからクレルに向けると、私の意図に気付いたクレルがハイハイと苦笑いしていた。
「ネラディオスの初代王は契約していた精霊と結婚したのよ。意図的に隠していたようだし、隣国とはいえフェリクスが知らないのはしょうがないわ」
クラウスさんは、衝撃だったのか勢いよく立ち上がった。
「ネラディオスが精霊学に他国の何倍も精通していた理由がわかった。まさか、建国の王が精霊と婚姻していたとはな。今でもネラディオスの王族に精霊の力は受け継がれているのか?」
「それはないわ、すべからく加護は受けついでいるみたいだけれど。ただ百年に1度くらい強力な魔力持ちが生まれてるわね。中には初代王の力をそのまま受け継いでいる王族もいるわ」
「先祖返りか」
ドサッと椅子に座ったクラウスさんが小さく呟くと、扉からノックの音が聞こえた。
「クラウス様、アルヴィン様がいらっしゃいました」




