契約
「正式に契約すれば精霊魔法が使えるようになるわ」
精霊魔法とは人間が言い始めたものらしい。それが浸透し、精霊たちも自分たちが契約した者が使う魔法を精霊魔法と言っているようだ。
「それが、クレルを使うって事なの?」
精霊魔法って、絵本の中でエルフとかが使う魔法だ。おとぎ話の中だけの存在だと思っていたけれど、精霊がいるのだから、この世界にエルフがいても不思議ではないよね。
エルフもいるのかな?
「そうよ。契約しなくても守るつもりでいたけど、私がいない時に何かあったら嫌だから。居心地のいい森にリゼの料理、今さらリゼのいない生活なんて考えられないわ」
ふっふっふっ、全力でクレルの居心地の良さを追求してきて良かった!
これからも、私から離れられないようにしてくれよう。
それはそうと、契約と言えばやはりあれだ!
ワクワクする気持ちを抑えて聞いてみる。
「契約って儀式とかあるの?」
魔法陣の描かれた暗い部屋で呪文を唱えたり、秘境の地に指輪を探しに行ったり、もしくは生命の半分を渡したり……。
「……何となく考えている事は分かるけど、リゼが思っているような物騒なのは無いわ。お互いの魔力を干渉させて契約を結ぶのよ」
お互いの魔力を干渉させて……。
おぉ、響きだけでかっこいい! 残念な目で見られているのは分かるけど、幼い頃から憧れていた魔法のある世界の中に自分がいるのだ。胸のドキドキは止めようがない。
「あと一つだけ。契約は契約者どちらかの死によって破棄されると言ったけれど、それは相手を殺しても破棄されるの。覚えておいて」
契約破棄とは中々ヘビーな条件があるようだ。想像していた生命半分の契約儀式より物騒じゃないか。覚えてはおくけれど……。
「必要はないかな」
笑いながら答える私に、クレルも笑って「そうね」と答えた。
クレルも笑顔で答えたはずなのに、次の瞬間には腰に手を当てて人差し指を前後に振りながらほっぺを膨らましていた。
「そんなリゼが好きだけど、ちゃんと契約内容は聞かないとダメだからね!? お人好し過ぎてウッカリ騙されました〜! なんてならないように!」
「うっ。はい」
私の返事にクレルは「よしよし」と満足している。
「じゃあ、契約しましょう。準備はいい?」
クレルの差し出した両手を掴んで向かい合う。クレルを見ると、私を安心させるように頷いてそれからクレルの魔力が私の体に流れ込んできた。包み込むような暖かな魔力だ。
「大丈夫? 今度はリゼが私に魔力を流して」
目を瞑り意識を集中させながら、言われた通りにクレルに魔力を流していく。
どうか私の魔力がクレルを守ってくれますように。
繋いだ手に少し力が入った気がして、目を開けると少し目が潤んだクレルが優しく微笑んでいた。
お互いの魔力が混ざり合うのが分かる。
2つの魔力が溶け合って1つになって体を巡っていく。魔力が干渉するってこんな感じなのかな……。
ここが現実なのか分からなくなるような不思議な感覚に包まれていると、クレルの声が頭に響いてきた。
「古より守られし扉を開き精霊王に誓う。我始祖の力を纏いし幼きものと緑の魔力を使いしもの、命の終わりを迎えるまで共に歩むものとする。魔力の盟約を持って今ここに契約を印す」
クレルが全てを言い終わった時、体から魔力が溢れ出した。
わっ! どうしよう。
クラウスさんのお屋敷でクレルに魔力を送った時のように魔力が流れでている。慌てる私をクレルが優しく抱きしめてくれた。
「大丈夫、今のは契約の時に溢れた魔力だからすぐに落ち着くわ」
キラキラと波のように魔力が部屋の床を流れていったがクレルの言ったとおり、直ぐに何もなかったかのように元に戻った。
良かった、クレルの言う通り一瞬だけだった。クレルの抱きしめていた手をそっと離すと、顔を覗きこんだ。さっき泣いているように見えたのだ。
「クレル大丈夫? どうかしたの?」
クレルはゆっくり顔を上げると少し照れながらそっぽを向いた。
ん? なんだこの反応は、今までにないぞ。
「リゼが魔力を流す時に、私を守るようにって考えてたでしょ? 精霊は魔力に敏感だから込められた思いなんかも分かるの。……それが嬉しかったから」
照れながらお礼を言うクレルが可愛いすぎる!!




