街へおでかけ
今日は朝から街へ来ている。
野菜を取引先に持って行くためだ。
いつもなら荷台屋に頼むのだが、出発前に車輪が壊れて昼過ぎにしか動けないと言われてしまったのだ。
しかたがないので持てるだけの野菜を籠に背負って残りは車輪が直ったら街まで運んで貰うように頼んできた。森の家から街までは歩いて20分位だが、今日は籠にパンパンの野菜と暑さのせいで40分もかかってしまった。
「し、信じられない位重い……」
肩をゼイゼイを揺らしながらハンカチで汗を拭う。向かう先は取引先のパン屋と八百屋だ。このパン屋はライラさんが若い頃に働いていたお店で、ライラさんの手紙を持って初めて訪れたのは皆が王都に移り住んでからすぐの事だ。
今は息子のバンさんが跡を継いでいて「不味かったらライラさんの紹介でも断るぞ」と言われたが、お客商売なのだ当然ですとリゼは店長のバンさんに野菜を食べてもらったのだ。
リゼの渡した野菜をひと口べると、僅かに目を見開き「……うめぇな、来週から頼めるか? 」とトントン拍子に話が進んだ。
その後バンさんの店に卸していた野菜を急に辞めると言われた八百屋のギュリさんがバンさんに理由を詰め寄った際に、私の野菜を食べて「ウチにも卸してくれないか?」と言ったのがギュリさんとの出会いだ。
何となくギュリさんから変えて大丈夫だったのか聞いてみると「遊びじゃねぇからな、同じ食材なら美味い方がいいさ。あいつだってリゼの野菜気に入ってただろ? それにこの位で揉めるほど薄い付き合いでも無いさ。あいつとは幼馴染なんだよ」と笑っていたので安心したのだった。
街に着くと所々、店も開店の準備をはじめていた。
その中を少し早足で進んでいくと、赤い屋根が見えてきた。フッと一息吐いてからお店の裏口から声をかけた。
「おはようございます!」
ドアが開くと焼き立てのパンのいい匂いがした。
「なんだリゼ、どうしたんだ? カブじいさんはどうした?」
カブじいさんとは荷台屋のおじいさんで街の人たちからそう呼ばれている。
私は車輪が壊れたことを説明して野菜が昼過ぎに遅れて届く事を謝罪した。
持ってきた野菜を受け取りながら話を聞いていたバンさんは椅子と水を出してくれた。
「 顔が真っ赤だぞ。無茶したな、重かっただろう。少し休んでいくといい」
思った以上に喉が乾いてたみたいで、ごくごくと水を飲み干した。
「バンさん、野菜足りますか? 」
仕方がないとはいえ心配なのは持って来れなかった注文分の野菜だ。
「あぁ、いつも少しは余裕持って頼んでるからな。昼過ぎに届くなら問題ないよ」
安心してホッと息を吐いた。
次はギュリさんのお店に行かないといけないので、バンさんに挨拶してお店をでた。
ギュリさんも歩いて来たことに驚いていたが、お店に並べるには少ないが昼にまた届くなら大丈夫だろうと言ってくれた。
足りなければもう一度森に戻って、持てるだけ持ってこようと思っていたので良かった。……ほんとに良かった。
足はもうガクガクのブルブルだ。
さて仕事は終わりだ、後は荷台屋のおじさんが野菜を届けてくれるだろう。
足がガクガクなどいってられない、私はマリーさんの出産祝いを買いに行くのだ。
ジェフさん達の顔を思い浮かべながらウキウキと街で人気の服屋さんにやってきた。
(か、可愛い! )
店内の一角にベビーコーナーがあり、フリフリのドレスやお花の刺繍がついた帽子。
全部が可愛い……。
どうしよう迷う! 可愛すぎて全部欲しい!! 沢山働いていっぱいプレゼントしよう!
まだ見ぬマリーさんの赤ちゃんに貢ぐ事を決め、店員さんオススメのガーゼ素材の肌着とハンドタオルに決めた。
喜んで貰うためにはプロに聞くのが良い、なんせ赤ちゃんと触れ合った事がないのだ、熱意はあるが何が喜ばれるかはサッパリ分からない。
少々予算オーバーだったが後悔はない。そのままお店から王都まで送れると言うので可愛い花柄のメッセージカードを添えて届けてもらうことにした。
「疲れた〜! 」
家についてベッドに倒れ込むように眠ったのと、バンさんとギュリさんの店に残りの野菜が届いたのは同じ頃だった。




