怪しい影
屋敷に着くと直接クラウスさんの部屋に向かった。
クレルと出かけてるはずだけど、もう帰ってきてるだろうか。
アルヴィンさんが、扉をノックするとクラウスさんとクレルは部屋にいた。
クラウスさんはすでに知っていたようで、アルヴィンさんを見るとすぐに話を始めた。
「技術街にワイバーンが現れたのは本当か?」
「はい、ワイバーンの成体です。ただおかしな点が一つ。私の魔力感知にかからず急に現れました。誰かが操って技術街にワイバーンを放った可能性があります」
「被害は?」
「人的、物損的にも被害はありません。今は騎士団がワイバーンの処理や住民への対応をしています。私は今から王城へ向かって騎士団長と話をしてきます」
話を聞くとクラウスさんはチラリとクレルを見た。
「私がリゼの側にいるから問題ないわよ」
「助かる、では私も王城へ向かう。十分に気をつけてくれ」
私が頷くと、クラウスさんとアルヴィンさんはすぐに転移魔法で王城に向かった。
「リゼ、大丈夫?」
心配したクレルがそっと手を繋いでくれた。
「うん、みんなの顔を見たら落ちついてきた。大丈夫」
それよりも気になるのは、アルヴィンさんの先ほどの話だ。
「魔獣を操るって出来るの?」
「出来るわね。ただ禁術だったと思うわ」
わざわざ禁止されている術を使ってまでワイバーンを操り王都を狙った理由って……。
「私が狙われてたのかな」
クレルは「そうね」と呟き話を続けた。
「今回、二手に分かれて行動したのは謁見の間で感じた嫌な魔力が、私かリゼのどちらかに向けられたものか調べる為でもあったの。私の存在は一部の信用出来る人達にしか話してないと聞いていたけど、気付く人間がいてもおかしくはなかったから」
え、なんで……クレルは最初から知ってたの?
ジェフさんたちに会わせてくれたのは、クラウスさんの優しさじゃなかったんだ。
「そうなんだ……」
「言っておくけれど、私も最初から聞いてたわけじゃないわよ。急にクラウスが、私と出かけようなんておかしいじゃない。不自然だったから問い詰めたのよ」
全く不自然ではない。あれはクラウスさんの本心だろう。
「それに、リゼを家族に会わせてあげたかったのも嘘ではなさそうだし。何事もなく過ごさせたかったから、アルヴィンを付けたんでしょうね。でなければ、私が反対してたわ」
そうだった。忙しいのにアルヴィンさんは護衛に付いてくれたし、クラウスさんだって楽しんでくるようにって送り出してくれた。
「でも、どうしてあんな人通りもある白昼に」
「混乱に紛れて攫うつもりだったのかもね。まさか相手も、攫う時間もなくワイバーンが倒されるなんて思ってなかったんじゃないかしら?」
魔物まで使うなんで。
自分が誰かに狙われる立場になるなんて思ってもみなかった。
「ねぇ、リゼ。私と契約しましょう」




