クラウス帰還
机に積まれた書類以外は整理された部屋に金色の光の粒が螺旋を描くと次の瞬間、黒ローブを纏ったクラウスが現れた。
「おかえりなさいませ、西の方の調査はいかがでしたか?」
クラウスはローブを脱ぐと椅子にバサリとかけながらアルヴィンを見る。嬉しそうな顔を見ると良い収穫があったようだ。その顔だけでご婦人方が頬を染めそうだ。
「アルヴィン、驚け。西の森に精霊と加護を受けた子どもがいたぞ。しかも緑の魔力持ちだ」
紅茶を用意をしていた手が一瞬とまる。
精霊だけでも最近報告されたのは80年振りではないだろうか。昔は加護を授かる者も少なからずいたが、精霊の力を求め捕らえようとした愚か者たちのせいで人里に現れなくなってしまった。
その上、加護持ちで魔力持ちか……忙しくなりそうだな。
「それで保護出来そうなのですか?」
紅茶を差し出しながら問う。クラウス様は私の反応が薄いと不満そうだがこれでも十分驚いている。
「あぁ、2日後に迎えに行く。明日陛下に謁見を申し込む。時間は任せる、無理やりねじ込んでくれ。バカな貴族連中が手を出せないよう早急に保護を承認してもらう。それに国外に話が漏れると面倒だ」
ずいぶんな言いようだが、国益を考えると正しい判断だ。一息つくように紅茶を飲むクラウス様に残りの仕事を頼む。
「わかりました。そのように手配をいたします。クラウス様は魔獣の件の書類をお願いします。今日中に魔術部の見解を出すと騎士団に話していますので」
「ブッ!!! いくらなんでも今日提出は無理だ」
「おや、出発前に帰ってからまとめると仰ってましたが? 」
「うっ……おい、朝より増えてないか? 」
「気のせいです。それとクラウス様、紅茶のかかった書類は書き直しでお願いします」
2日後となると色々急がなければ。クラウス様は宮廷に敵が多い方だ。精霊と加護持ちの実質的な庇護者となり力を増すことを嫌う者たちが理由を付けて反対してくる事もあり得るな。
彼らを黙らす為にも支持者は必要だが。口が硬く信用できる人物……まずはブランシェット候に話を通すか。




