王都へのお誘い
「なるほどな、じゃあリゼは緑の魔力とクレル殿の加護を持っているわけか」
私とクレルの差が気になるが、森に住むただの娘と精霊だ。致し方ない甘んじて受け入れよう
「あなたからも精霊の魔力を少し感じるわ」
クレルがだいぶ薄まってはいるようだけどと言うと、クラウスさんは頷いた。数代前の先祖に精霊から加護を受けた人がいたらしい。
「今では精霊を見るくらいの力しかないが誇りに思っている 。が、リゼが羨ましいな」
そうであろう、そうであろう。この力で私はクレルを精一杯愛でるのだ。
「ねぇクレルはみんなには見えないの?」
「そうね、一定の魔力持ちか加護持ちには見えるけどね。たまに捕まえようとする人間がいるのよ。やめて欲しいわ」
クレルはため息をつきながらクラウスを見る。
「私たちは自ら精霊や霊獣などに進んで手を出す事はしない。やむ得ない場合のみ保護をしている。が、確かにそのような人間は一定数存在する。理解に苦しむがな」
ところで、と言葉を区切ると「腹が減ったな」とテーブルに置いていた野菜を見ながらクラウスさんが言った。
まさか食べて帰るつもりなんじゃ……。
宮廷魔術師さまに出せる料理はうちにはない。今日は干し肉とクリームスープという塩味を求めたメニューなのだ。
しかしクラウスさんは帰る様子もなくクレルは「ほんとね〜私もお腹すいたわ。リゼの料理は美味しいのよ」と話している。さっきまでの警戒心を今こそ発揮してほしい。しかし願いはあっさり打ち砕かれた。
「そうか! それは楽しみだ。リゼ今日のメニューはなんだ?」
「……干し肉と野菜のクリームスープにさくらんぼのシロップ漬けです」
ほう、シロップ漬けもあるのかと少し口元が緩んだクラウスさんは甘党なのだろう。諦めて料理を作る事にする。
「信じられないくらい美味かった。魔力がこもった野菜とは、普段食べているものとこんなにも味が違うのか」
「普通の魔力を込めても変わらないと思うわ。何かしらの作用は出るかもしれないけど。緑の魔力だからこそね」
「何かしらの作用か……。検証させる価値はあるな」
クラウスさんは気になる事はどんどん聞くタイプのようで、教える事が嫌いでないクレルとずっと話をしている。意外と気が合うのかもしれない。そんな事を考えながら2人を見ているとクラウスさんが「2人とも王都にこないか?」と言った。
一年前に聞いたセリフだな……。




