宮廷魔術師さま
び、びっくりした……まさか迷子?ではないよね。魔術や精霊とか言ってたし……うわぁどうしよう。
スプレンドーレさんが悪意ある人はこの森には入れないって言ってたし悪い人じゃないって事だよね……。聞いてみるしかないよね。
「あの、どちらさまでしょうか?」
黒ローブのイケメンは「あぁすまない」と謝ると森に来た理由を話しはじめた。
「宮廷魔術師のクラウスだ。この森の調査に来たのだ。そんなに怯えなくても大丈夫だ……が、怪しいものではないと証明する術はないな」
「宮廷魔術師さまですか!?」
えー! どうしよう憧れの存在だ。
一気に目をキラキラさせる私を見て 「信じてくれてなによりだが、もう少し人を疑った方がいいぞ」 とクラウスさんが言った。精霊の花に隠れていたクレルがふよふよと飛んできて両手を腕組みしたままクラウスさんの前に出た。
「一体宮廷魔術師が何の用なの? 」
あれクレル機嫌悪いのかな? それに出てきてよかったの?? クレルを見ると目が合った。怒ってるよね…?
「あのね! いくら森に入れた人だからって気を許し過ぎよ!! 」
クレルは心配で出てきちゃったじゃないの! と怒っている。おぉう、ごめんなさい。原因は私だった。
「それで? ご用件は? 」
クレルは相変わらずの塩対応だが、クラウスさんは気にする様子もなくむしろ嬉しそうだ。
「まさか精霊に会えるとは。お会い出来て光栄です。宮廷魔術師長クラウスと申します」
何とクラウスさんは魔術師長だった。胸に手を当てて精霊に挨拶をする姿はまるで絵本の1ページのようだ。
その姿にクレルの警戒心も少し和らいだのか、私の方を向くとスーっと飛んできて肩に座った。
クラウスさんはその様子に少し驚いたようだったが、では説明を……とこの森にきた理由を話しだした。
「聖域ですか?」
「あぁ、報告が上がって調査に来たわけだ。だが聖域とは少し違うようだな。魔力の性質は同じようだが聖域ならこんなに簡単に入れはしない」
クラウスさんは一人で納得しているが私にはさっぱり分からない。肩に乗っているクレルにこっそり聞くと
「魔術師が結界を聖域と間違えたんでしょ。精霊の里に満ちている魔力と同じだから。聖域は私たちが暮らす土地なのよ。人間や魔獣から身を隠すために作ったの。外から干渉されずにゆっくり暮らしたいもの。精霊や妖精が好む草花が浄化の力を持ってたりするから魔獣が近寄れなくて澄んだ土地になるのよ、それで人間から聖域って呼ばれてるの。ただこんなに早くここが見つかるとは思わなかったわ」
「うちは優秀なヤツらが多いからな。しかし聖域にそんな理由があったとは……。となると、あなたがこの結界を?」
クラウスさんにはクレルしか見えていないようだ。私はクレルの椅子なのだろう。別にいじけている訳ではない、2人の会話についていけず話に入れない私が悪いのだ。クラウスさんの質問に少し誇らしげに「ふふん、私のお母様よ!」と答えるクレルは可愛い。
「精霊の母だと? うそだろ……では大精霊がこの結界を張ったのか」
とうとうクラウスさんはクレルもほっぽり出し一人の世界に入って行った。ひとしきり考えた後私を見て「あなたは一体なにものなんだ?」と聞いた。
ただの椅子ですと答えそうになったが、ぐっと我慢した。私は大人なのだ。話も長くなりそうだったので、家の中へ案内し紅茶をだした。大人だから。
クレルとこの森に住んでいると答えると、詳しく聞かせてほしいと言われたのでクレルの了承をもらい村を出てからの事を全て話した。
誤字報告ありがとうございます。いくつか修正いたしました。




