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回想 優しさ

 次の朝、目を覚ますと焼きたてのパンの匂いがしてきた。すーっと息を吸い込むと何とも幸せな気持ちになった、しかし体は限界だった様でぐうぅぅぅっと動物が唸り声を出している様な音がお腹から響いた。

 いつから居たのかノックと同時に扉を開けたのはジェフさんだった。


「おぅ、目がさめたか。腹も空いてるようだな朝飯も出来きてるぞ」


 ジェフさんはそれだけ言うとガハハハっと笑いながら去っていった。


 朝ごはんと聞いて、またぐうぅぅぅんんとお腹がなった。


 部屋を出るとすぐにキッチンとテーブルがあった。ジェフさんはもう食べたようでひと仕事してくらぁと出かけていった。家の横に作業場がありそこで木の加工などをしているとパンと小さな野菜が入ったスープを並べながらライラさんが教えてくれた。


「さあ温かいうちにお食べ」


 ふわふわのパンはライラさんの手作りだった。


「若い頃は街の人気パン屋で働いていたんだよ。私は洗濯物干してくるから、ゆっくりお食べよ」


 久しぶりの食事の味は優しくじんわりと体に染み渡って生き返るようだった。

 


「ご馳走様でした、ライラさん……ありがとうございます」


 少し声が震えたのは久しぶりの温かな食事だけが理由ではなかった。


「話を聞いてもらえますか?」


 私がそう言うと勿論さとライラさんは一瞬驚いたようだったがすぐに笑顔になった。


「もちろんさ。ちょっと待っておくれね、主人も呼んでくるから」


 ジェフさんは直ぐに帰ってくると私の顔を見てニカッと笑った。


「どうだ、かあちゃんの料理は美味かっただろう?」


「はい。あの、助けていただいて本当にありがとうございました」


 二人に向かって勢いよく頭を下げた。

 名前はリゼである事、そしてこれまでの経緯を全て話した。


 二人は静かに話を聞いてくれた。

 すでにお金もなく助けてもらったお礼に返せるものは何もない。せめて日が落ちるまでの間、家の手伝いをさせてもらおうと思った。家事なら得意だ。それから近くに町がないか聞いてそこに向かおうと。町に行けば何か仕事があるかもしれない。


「お手伝い出来る事はありませんか? 助けてもらったのに今はそれくらいしか出来なくて」


「畑仕事は出来るか?」


 腕を組んで話を聞いていたジェフさんがおもむろに聞いてきた。畑仕事は祖母と2人でずっとやってきたので、ひと通りの手順はわかる。


「はい」


「そうか、ライラも年だからな。リゼが手伝ってくれるなら助かる。明日からよろしく頼む」


 そう言うと頭をワシャっとひと撫でして仕事に戻って行った。


 明日から?


「もし身寄りがいなかったらそうしようって決めてたんだよ。行くところもないんだろ? ここにお住みよ、ちょっと狭いけど我慢しておくれね」


 何でもないように言うライラさんに、慌てて夕方には出るつもりだと伝えた。


「私たちには娘が居てね、今は結婚して王都にいるんだけどリゼと年は同じくらいかねぇ。ほっとけないだろ?」


 祖母が亡くなる前に私が心配だと言った姿とライラさんが重なって見えた。ここに来てずっと我慢してた涙が止まることなく流れでた。おばあちゃんが亡くなり悲しむ間もなく村を飛び出し、1人であてもなく旅をして来た。宿に泊まれるほどの十分なお金もなく、食べものも1日1食あればいい方だった。


「年頃の娘がこんなにやせ細って、辛かったねぇ」


 ギュッと抱きしめられて優しく背中を撫でられながら私はまた眠りに落ちた。



 ライラさんの手は神様の手に違いない。


 夕方起きて呟いていた私にジェフさんが「か、かあちゃんの手が神様の手だ……と……?」とヒィヒィと笑っていたのでライラさんから特大のゲンコツをもらっていた。


「わたしゃ、あんたの母ちゃんじゃないよ!」


 ライラさんは怒らせちゃダメだと胸に刻んだ。


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