第2話 召喚
とある王国──
薄暗く公式には用いられないような地下の大空間。
地面には巨大な魔法陣が描かれ、数十人のローブを纏った者たちがそれを取り囲むように配置されている。
「そろそろ魔法陣起動の頃合いです」
ローブの1人が女性に声をかける。
「そう。じゃあ続けてちょうだい」
「畏まりました。では…」
ローブの男が持ち場に戻り、魔法陣へのマナの注入に加わる。
現在行われているのは、勇者召喚の儀。
それは、多くの術師の力を集結して発動できる大魔法。
術師たちによる召喚魔法発動のためのマナ放出は続いている。
ようやく魔法陣起動のためのマナが溜まったのか、徐々に魔法陣が輝き、空間を金色の光が占め始める。
「漸くですね、エリザ様。うまくいくと良いですが」
男が隣に立つ女性に話しかける。
「大丈夫よ、散々調整したんだから。
最強の勇者一行が召喚できるはずよ。
これで世界は救われるわ」
そして光が限界を迎え、全てが金色に染められる。
徐々に魔法陣は光を失っていく。
そして完全に光が失われた時、魔法陣の中心には4人の男女が存在していた。
「召喚は成功したようですな、エリザ様。
しかし4人とは……。
予定では3人のはずではなかったですか?」
「異物が混じっているようね。まあいいわ。
処理は後回しにして、まずは勇者様方に挨拶ね。
ステータスをチェックさせておきなさい。行くわよ」
そう言って歩き始めると、術師たちが2人のために道を開ける。
ふと見ると、嘔吐して倒れてる者がいる。
気味がわるいわ。
ひとまずこれは無視しながら4人に近づき、彼女は話しかける。
「はじめまして勇者様方。
私はこの国の王女、エリザ=フォン=エーデルグライトと申します。
異世界からの急な召喚、大変申し訳ありません。
現在この世界は魔王復活の兆しがあり、魔族の動きも活発化してきています。
彼らを放置していれば、いずれ人間族は滅びの運命を迎えてしまうでしょう。
そのため勇者様方には魔王討伐の任を負っていただきたく、この世界にお呼びしました。
身勝手なお願いとは重々承知しております。
ですが人間族の未来のため、どうか協力していただけないでしょうか」
エリザが恭しく4人に話しかける。
「いきなり呼んでおいて、ホントずいぶんと身勝手な話ね」
状況をいち早く理解したシロがエリザを睨みつけた。
訳の分からないまま連れてこられてこんなことを言われても、一般的な常識を兼ね備えた人間なら当然納得するはずもない。
「おいおい穏やかじゃないぜ、シロ。
ちょっとくらい話を聞いてあげてもいいんじゃないか?」
「そうだよ、多分ボクたちは急な状況変化に混乱しているんだよ。
少し冷静になってから話を聞いてみない?」
アカとアオがシロを宥める。
「アカとアオは相変わらず能天気ね。
でもアオのいうことも一理あるわね。
いいわ、ここで事を荒立てるのはやめましょう。
ひとまず落ち着ける場所に案内してもらえるかしら?」
シロはそう言うと、ふぅと息を吐く。
一旦平常心に戻そうとしているようだ。
「寛大な対応、感謝致します。
えっと……皆様のお名前を拝見していませんでした」
「私は白石メグミ、シロで良いわ。
赤い髪が赤井ダイチでアカ。
青い髪が青山コウタでアオよ。
あなたたち、髪の色が奇抜になりすぎよ。
あと倒れているのが黒川ハジメでクロね。
アオ、クロは大丈夫なの?」
「うん、意識を失ってるだけみたい。息はしてるよ。
ゲロまみれだけど喉に詰まらせている様子もないし、大丈夫そうかな。
あとシロも髪の色は真っ白になってるけどね。
エリザさん、一応お医者さんがいればクロのこと見て欲しいかな」
「承知いたしました。
では、急ぎお部屋にご案内させていただき、お食事もご用意いたします。
明日またお話しさせていただきますので、本日はごゆるりとお過ごし下さい」
「そうさせてもらうわ。
アカ、アオ、行きましょう。
クロのこともお願いね」
「あなたたち、シロ様たちをお部屋へ。
クロ様は医務室へお連れして。急ぎなさい!」
エリザから部下たちに檄が飛んだ。
クロの部屋。
医務室を経て身体もきれいにしてもらったクロは、あてがわれた部屋のベッドで眠っている。
そこにアカとアオ、そしてシロの3人が集まっていた。
「起きないね、クロ」
「ゲロなんか吐いちゃって、どうしたんだろうな。
髪の色もクロだけ黒いままだしな」
「ゲロゲロ言わないの。でも本当どうしちゃったのかしら。
髪の色も確かにそうね、私たち違和感しかないもの」
「それで、ボクたちこれからどうするの?」
「俺はテンション上がりっぱなしだけどな。
俺たち勇者みたいだし、まさに夢みてたやつだぜ」
「またアンタは……。
こんなのほとんど拉致と一緒じゃない。
元の世界に戻れる保証も得られてないし、不安しかないわ。
魔王とか言ってたけど、訳わからないまま危険なことをさせられるに決まってるわよ」
「…ぅ…ん………」
しばらく話を続けていると、クロが身をよじってシーツの擦れる音が聞こえた。
「お、クロが起きそうだな」
「そうね。
クロの目が覚めたら、もう一度真剣に話し合いましょ」
「…ぅ…ん………」
あー、体がダルい。
頭も痛いし、気分が悪い。
何やら話し声が聞こえる。
徐々に瞼を開けるクロ。
おや、知らない天井だ。
じゃねえ、ここどこだ?
「おうクロ、目が覚めたか!」
「クロ、大丈夫?」
「私たちのこと、わかる?」
いつものみんなの声が聞こえる。
あれ、なんで寝てたんだっけ。
「いや、気分は全然優れないわ」
そう言いながら声が聞こえた方に向いて体を起こすと、違和感に気づいた。
「3人とも、髪の色どうなってんだ?」
「まずはそこよね…」
「ここに来たときにはみんなこうなってたんだよね。
あ、クロの髪の色は黒いままだよ」
悪ノリして髪を染めたみたいになってるな3人とも。
「ここってどこだ? 俺は今どこにいるんだ?」
俺が言うと、アカがおもむろに立ち上がった。
「聞いて驚け!俺たちは異世界に降り立ったのだ!」
アカが吼える。
「マジ………?」
本当に異世界にやってきたみたいだぜ。
これは夢広がリング!