第13話 競売
マーケットから自室に戻ったクロは、早速宝石の効果を試すことにした。
「おっしゃ、果たして5ゴールドの価値はあるかどうか…」
マナをゆっくりと宝石に注いでいく。
ないとは思うが、一気に注いで宝石が爆ぜるなんてことがあったら困るからな。
「ん…?」
一向に宝石にマナが満たされる感覚がない。
宝石は赤い光を湛え続けている。
結局MP切れギリギリまで魔力を注いでしまった。
「はぁ…なんだこの宝石。底なしの収納力かよ」
次はマナの取り出しを行う。
宝石内部からマナを引き出していく。
「おっさんの言ってた通り、なんだか取り出しにくいな」
それでもこっちは注ぎ込む時ほど時間はかからなかった。
「だいたい1割だな」
貯蔵上限は不明だが、10回やって全力のMP1回分まで貯められるってことか。
還元率10%なら悪くはない……のか?
コンビニのポイントカードよりははるかにマシか。
MPが増えた俺でこれなんだから、一般の人がマナを込めても恩恵なんてまるでないよな。
まぁでも非常用のマナタンクを得られたんだ、何かに使えるだろう。
次にバッグを開けて、買い込んだポーション瓶を眺める。
自傷でもしなきゃ回復量の確認はできないよな…。
んじゃこれは放置ということで。
いやぁ、今日は奮発したな。
あ、そういえば魔導書の相場とか聞いてなかった。
もっとおっさんを活用すべきだったぜ。
週末までまだ時間あるし、またおっさんの店なり他の店でも情報を集めておこう。
あとお金が足りるか分かんないから商会にも行っておかないとな。
まじで毎日が充実してるぜ。
女の子とは無縁の生活だが、これはこれでリア充だ。
爆発する必要のないリア充だけどな。
では、おやすみ。
この時俺は気付いていなかった。
寝ている間にも宝石が俺のマナを勝手に吸収していることに。
「魔導書の相場だぁ? 知らねーよそんなもん。
高えことは間違いないがな」
次の日、俺は授業を終えたあとすぐにマーケットにやってきていた。
「じゃあ、出品される商品の一覧とかない?」
「ああ、それならあるぜ。 …ほらよ。
今のところ魔導書は出品されてないけどな。
ただ競売直前まで出品は受け付けてるから、まだ更新される余地はあるけどな」
おっさんは裏から競売の出品一覧を持ってきてくれた。
「マーケットの人はみんな持ってるの?」
「いや、俺は出品してるから持ってるだけだ。
普通じゃ手に入らないから、ありがたくもらっとけ」
「ちなみにどれがおっちゃんの商品なの?」
「ほれ、一番下に宝剣が書いてるだろ?それだよ。
武器の値段も高騰してるからいい機会だし出品したんだ。
魔力を増幅してくれる、なかなかの代物だぜ」
おっさんのドヤ顔など見たくはなかった。
「なんでこんな店のこんなおっちゃんに宝剣が…」
「こんなとはなんだ!
俺だって昔はハンターでそこそこ稼いでたんだぜ!
怪我しちまってからは引退したが、現役の頃に遺跡で発掘した良い武器だぜあれは」
弱そうな見た目によらず、案外この男やるようだ。
「まるでそうは見えないけどな」
「うるせぇ!
まさかお前ぇ、チラシもらって小馬鹿にしてトンズラなワケねぇだろうな?」
めっちゃ睨むやん。
元ハンターって聞いてからは、このおっさんちょっと大きく見えてきたな。
「良いものがあれば買う。あればの話ね」
「くそったれ、じゃあこれならどうだ!
相手の強さがわかるメガネだ」
今度はス○ウターかよ。
「効果は? 数値でも出るの?」
「相手が自分より強ければ赤、弱ければ緑に染まる。
同じくらいならほとんど色は付かん。
いっちょ使ってみな。ほれ」
ディテクトステータスの魔法でいいじゃん。
俺はその魔法覚えてないけど。
メガネを装着してみた。
「うわっ!」
急に赤色が飛び込んできたため思わずメガネを外してしまった。
目の前のおっさんは驚くほど赤く見えた。
本気で強かったのかよ、このおっさん…。
「どうだ、すげーだろ」
またおっさんのドヤ顔を拝む羽目になった。
もう一度装着して周りも見渡してみる。
普通に歩いている通行人ですらちょくちょく赤く見えた。
俺ってそんなに弱いのかよ…。
「これがほんとに機能してるとして、強さの基準ってなんなの?」
「それは知らん!
だが、外に出るならこれに命を救われることはあるかも知らねーぞ。
街に閉じこもってる限りは無用の長物だが。
ちなみに効果範囲は3メートルだ!」
「3メートル以内に強敵がいるの分かっても逃げられるわけないじゃん!」
「そこはなんとか頑張れ」
「…ちなみにいくらなの?」
「50ゴールドだ」
「また昨日のパターン?」
「いや、純粋に50ゴールドだ」
「さいなら」
店に背を向けてそそくさと離れる。
「おい待てよ!
サービスして49ゴールドにしてやるからよ!」
「変わんねーよ!
俺は買いたいものがあるの!じゃあね!」
そのあとおっさんが喚いていたが無視して店を離れた。
得るものは得たからもうしばらくおっさんは見なくていいな。
あ、今度は競売の場所聞くの忘れてた。
その辺の人に聞けばわかるか。
今度はおっさんからもっとうまく情報だけ引き出せるようにしないとな。
あとは昨日見れてなかった店でも回るか。
いろんな店を物色するついでに店の人に競売の場所も教えてもらった。
地下で行われるそうで、なんだか怪しさたっぷりだ。
今日は目ぼしいものは見つからなかったため、下見で競売所に向かう。
目的の場所に到着すると受付のお姉さんがいて、誰かと話している。
「すいませーん」
お姉さんと話していたのはきれいめの紳士で、2人がこっちへ視線を向けた。
「こんにちは。
今日はどういったご用件でしょうか?」
受付嬢が返事をしてくれた。
「あ、お話を邪魔してすいません。
競売に魔導書が出品される予定があるか知りたくて」
「今のところそういうお話は来ていないですね」
「そうですか、分かりました。
お邪魔しました。また当日来ますので」
「おや? 君は出品者かね」
俺が立ち去ろうとすると、紳士が声をかけてきた。
「あ、はい」
思わず嘘をついてしまった。
俺が出品者?
あぁ、俺が握っていたチラシを見てそう判断したのか。
「急に悪いね。
私はこの競売の支配人のジオラスという者だ。
君は魔導書を探しているということだが、用途は何かね?
収集?それとも使用?」
「使用です」
できれば使って色んな魔法を覚えてみたいと思い、そう答えた。
「ほほう。
しかしあれは高度な魔術師でもなければ使えない代物だぞ?」
「MPには自信があります」
最初に教えてもらったシロ達のMPより遥かに多いんだ。
こう言っても問題ないだろう。
「なるほど、なるほど。
この競売ではそこまで高価なものはあまり出回らないのだが、別の手段でなら手に入る可能性がある。
知りたいかね?」
「はい!」
迷わずそう答えた。
「支配人、よろしいので?」
受付嬢はすごく心配そうな顔をしている。
「問題なかろう。 彼も出品者なのだ。
ある程度の信頼がなければ競売自体参加できないのだから、良いと思うぞ。
それに何かを求める若者というものは嫌いじゃない」
支配人が笑みを浮かべながら金色の瞳でこちらを見ている。
すごく心が痛い。
嘘なんてつくもんじゃないな。
だが、思ってた以上にうまく事が運んでいる。
これもLUCのステータスのおかげか?
「では君には特別に教えよう。
ここからは他言無用だ。
迂闊に漏らせば命の保証はない。よろしいかね?」
あ、結構やばいやつだ。
子供達を除けばそもそも友達すらいないし、おそらく大丈夫だろう。
ちょっと怖いけど。
「はい、決して口外しません」
「よろしい。
実はこの競売とは別に、特殊な商品を扱う裏の競売が存在する。
どういった商品かは自分の目で確かめるといい。
出品される商品は事前に発表されないのでな。
そこであれば手に入る可能性は高い。
思わぬ掘り出し物もあるかもしれんぞ。
日時と場所を記した招待状を渡そう。
参加費は500ゴールドだが、君なら払えるだろう?」
大きく俺を覗き込む支配人の瞳に吸い込まれそうだ。
500ってまじか…。
払えなくもないが、参加費でそれなら商品はどんな金額なんだろうか。
しかしせっかく得た機会だ、無駄にはしたくない。
「ええ、問題ありません」
強張ってしまっているが、しっかりと支配人を見つめて答える。
「ははは、そうだろうと思っていたよ。
貴族でもなく、若くして大金を得ているというのは大したものだ。
私の目は将来有望な人材をしっかりと捉えているな。
ではこれを持っていきなさい。
約束を違えることのないようにな」
「はい、ありがとうございます。
決してそのようなことはありません」
「それではな、少年」
そう言って支配人は去っていった。
「支配人がこんなにも上機嫌なことは珍しいんですよ。
この幸運を台無しにしないように、くれぐれもお気をつけくださいね」
受付嬢に再度釘を刺される。
「はい、肝に命じておきます。
お姉さんもありがとうございました」
よし、運が向いてきてるぞ。
これもおっさんのおかげだな。
今度からもっと優しく接してあげよう。