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Re:connect  作者: ひとやま あてる
第8章 魔王復活編
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第155話 金色

初めに結果を示してから内容を掘り下げるって方式は、読み手としてはどうなんでしょうかね。

 口論に似た持論のぶつけ合いが続く。

 次第にヒートアップする内容に、クロはアワアワとしながらそれを聞いていることしかできない。


「コレらが諦めている……と?」

「見たままよね。太刀打ちできない状況と見るや否や、守りに徹するところとか。そうやって──絞首台に並ぶ囚人が如く下を向いたままなのは、私たちからしたら反吐が出るほどの愚行よ。チャンスを伺って耐えるのも分かるけれど、そのチャンスが巡ってこない流れだってある。膝を曲げていたって、それを伸ばす機会を与えられないのなら、それは単なる屈伸運動に過ぎないわ。そこから高く飛び上がるためには、リスクを負ってでも身を乗り出さなければならない。そうやって人は強く在ってきたと思うのだけれど?」

「……詭弁ですな。状況に応じて対応してきたのが人間の歴史。流れに逆らって身を滅ぼす者は、反面教師として愚者の烙印を押されてきたはず。その時々に対応してこそ、そこが人間の本領の見せ所かと」

「対応してきた?それは違うわ。あなたたちは対応に追われてきただけ。目の前に置かれた絶望という名の仕事を、勤労時間内になんとか処理し続けているだけよ。対応というのなら、その仕事を終えた上で自ら別の仕事を探しているはずなのよ。いずれ仕事量に押し潰されることが予めわかっていて、それでもそれが仕方のないものだと受け入れてしまっているところが、あなたたちの悪いところ。そう、私は愚考するのだけれど」

「それこそまさに愚考、と言わざるを得ませんな。先程フィアさんが言っておられた一万分の一という言葉も、“目の前に転がってきたチャンスを単に拾うことができた幸運”ということでしょう。たまたま運に恵まれたあんさんらにはコレらが努力していない人間に映るのでしょうが、全ての人間にそのチャンスがあると考えるのは甚だ傲慢かと」

「では私たちに頼らず安全なルートでも何でも探せばいいんじゃない?」

「それができないから……っ!」

「そうね、誰でも何でもできるなんてことはないわ。だけれど、自分たちがいつか何かを成せると思い込んで待つのと、何もできないから他者を頼るのだったら、私は圧倒的に後者を推すわね。やる気に溢れた無能者ほど使えない者はいないのだから」

「フィアさん、そろそろ口を閉じていただきましょうか。コレらにも我慢の限界というものがある。ここまで言われる筋合いはない。あんさんらを招いたのは間違いだったと判断せざるを得ないですな」

「その結果があなたたちの行動に繋がるというのなら、間違いだったと判断するのは早計かしら。ここで行動できるのなら、死を待つ軍勢でいるよりは素敵よ」

「いやはや、まさかフィアさんの方が嫌な人間だとはコレにも判断できませんでしたな」

「そう、ありがとう。何の思考もなく良い人だって言われるよりは、私のことを分かってくれていると思えて遥かに嬉しいわ。貧民街に長く居たことで、こうも性格が歪んでしまっていたのね。今度からは軋轢を生まないように発言には気をつけることにするわ。今回のサットンさんとの出会いは、私にとっては良い経験になったと思うの。だからもう一度言うわ、ありがとう」

「そりゃどうも」

「じゃあ私たちは邪魔者みたいだからもう行くわね。私たちには世界を救うって大事な用事があるから、こんなところでくっちゃべってる時間は惜しいのよ」

「……?」

「出る前に最後のお願いよ。詳細な地図を頂戴。サットンさんの依頼は引き受けてあげるから」


 結局水の領域には留まらず、行動を再開したクロとソフィアラ。

 喧嘩別れのような形だが、剃りが合わないものは仕方がない。

 二人は地図を頼りに帝国を目指す。

 そしてすでに変装は解かれている。


「お嬢、怒ってます……?」

「ええ。怒っているわ」

「なにゆえ?」

「貧民街の人たちはもっと必死に生きていたわ。それに比べて……あの人たちは死を待つだけの状態じゃない。そう言うのを見ていると、地上に戻れた私からしたら貧民街の人たちに申し訳なくてね。無性に腹が立って長々と持論をぶつけちゃった。さっき気づいたのだけれど、案外これが私の本性なのかもしれないわね」

「それは、どうなんでしょう……」

「そんなことはさておき、よ。指針を得たわ」


 帝国の地図を得たことで、二人はある程度動きやすくなった。

 二人が滞在していた領域は、帝国の南東にあたる領域。

 地図上では貴族の領地という括りが概ね廃止されて、属性毎の領域という区分が多くを占め始めている。

 しかしこれも流動的なもので、精度が高いものかといえば恐らくそうでは無いだろう。

 そんな状態であってもソフィアラの目は現在の正しい姿を映してくれるので、二人は止まることなく目的地を目指すことができる。


「学園が教団に奪われて名前までも変わっているなんて、世も末ですよね。それでいて帝国は教団を内包したまま存在してるんだから、もう何が何だか……」

「魔王学園ね。それはもうまるっきり駄目な感じよね」

「国を抑えて存在できてる時点で、相当な力を誇示しているんだと思いますよ。それでいて結界魔導具の作成に一番積極的というんだから、やっぱり意味不明です」

「そうね。目的が知りたいわ」

「だからこそ学園への潜入は欠かせませんね。地下にはダヴスもいることですし、彼との接触も必須です」

「えっと、地下で番人をしている人だっけ。人かどうかも怪しいんだったかしら」

「そうです。ダヴスが教団によって処分などの憂き目に遭っていなければ、彼から情報を得られます。幸運にもそこへ至る経路は知っていますから。でもここ五年の間で色々変わっているでしょうから、接触が図れない可能性もありますね」

「兎にも角にも、帝国へ行くのは変わらないわ。その過程で仲間を探して、私たちは力を蓄えないといけないからね」

「そこで情報が集まらなければ国を辿ってトラキアかベリアへ。できれば仲間を募って王国へ向かいたいですけど……勇者の動向も調べないといけないですね」

「勇者対魔人の対立も気になるわ。悠長な考えかもしれないけれど、形勢が魔人側に完全に傾く前に手を打たないとね」


 二人は複数の領域などを巡り、帝国への往路を急ぐ。

 二人にとっては五年ぶりの凱旋であり、そこは初めて訪れるように変貌しているかもしれない。

 そこに喜びはない。

 あるのは果てしない不安、ただそれだけだ。


 数週間後クロとソフィアラが見たそれは、悪い期待を大いに超えるものだった。



            ▽



「よう、久しぶりだな」


 とある建物の一室。

 そこでソファに腰掛けながらクロとソフィアラを迎え入れたのは、デイビス=ボンド。

 ソフィアラは何度か彼との接触を持っていたが、クロに関しては宿舎を与えられて以来初の邂逅となる。

 時間としてはあれから一年強。

 クロが『Conquest(環境影響無効)』のスキルを得てから半年ほどと言ったところか。

 あの時点でクロの基本ディジットは10000に程近いものとなっていたが、だからといってそこから順調に事が推移したわけでもなかった。

 最終的にソフィアラも同様のスキルを得て現在に至るが、二人の基本ディジットはそれほど上昇していない。


「その様子だと、色々と経験したらしいな」


 クロは見事にボコボコだ。

 ソフィアラもクロほどではないが攻撃を受けた形跡があり、女性だろうと容赦が無いということが伺える。


「頑張った結果がこれって酷くないですか」

「上層区の連中は新参を嫌う。何にせよスタート地点からやり直しじゃなくて良かったじゃねぇかよ。大概のやつが全てを奪われて下層から再挑戦ってパターンが多い中、初回で切り抜けられるのは幸運以外のなにものでもねぇからな」

「死なないからいいって話でもないんですよね……。そもそも、あれって何なんですか?」


 クロの言う()()とは、通行税を求める集団連中のこと。

 クロとソフィアラが上層区に着くなり、誰に指示されるでもなく厄介な連中が関所と化した。

 やれディジットを提供しないと酷い目に遭うだの、やれ組織に属さなければ貧民街で一生日の目を見られないようにしてやるだの。


「洗礼ってやつだ。全てに謙って何とか生きてきた奴らは、一度上層区で痛い目を見る。連中の全てに対応していたらそれだけでディジットがすっからかんだし、たとえ組織に属したところで搾取されて下層での生活を余儀なくされるだけだ。どちらかといえば前者の方が再起の可能性がある分、利口な選択ってやつだ。それがあるにも関わらず、多少の傷だけで関門を抜けられたお前らは前途有望だな」

「ひどい話ですね。だから中層から下層でも似たようなことして利益を得ようとする連中がいたわけですか。洗礼の腹いせって考えたら理解できなくもないですけど、うざいったらないですね。上層区の勧誘という名の脅迫に比べたら大分マシでしたけど、それでも厄介この上なかったですよ。一回痛い目を見せたら何もしてきませんでしたけど、その経験が生きましたね」

「お前らは正しい手順でしっかりとここまで至れたわけだ。上出来だ、褒めてやるよ」

「そりゃどうも……」


 こう痛い目を見た状態でそう言われても腹が立つばかりだが、クロは一応それを受け取っておく。


「とりあえずここまで来れたってことは、全部の勧誘を蹴ってきたってことでいいんだな?」

「まぁ……。デイビスさんへの恩義もあるんで、それを返す前に他に行くのもどうかなってお嬢と話してました」

「なんだ、お前だけの判断じゃねぇのかよ」

「俺一人の判断で成功した試しがないですからね。それはこの貧民街で痛いほど痛感しました」

「なるほどな。つくづく俺っちの目は間違ってなかったと誇らしいぜ。……それで、どこの組織とぶつかってる?」


 現在貧民街を席巻しようとしている組織は無数にある。

 以前はマリスとフェイヴァという二代巨塔が幅を利かせていたが、リベラ以降それほど時間が経過しているわけでもない。

 圧倒的強者を擁しない組織が多い以上、それらは所詮ドングリの背比べだ。

 だからこそ洗礼という名の勧誘活動は重要で、一人でも多くの人員を抱えてこそ組織の強化が図れるというもの。

 前回のリベラで多くの強者が淘汰されたとはいえ、参加せず牙を研いでいた者は未だに多く存在している。

 そういう連中はヴァンデットやイノセンシオの脅威を精確に把握できていたと言えるし、堅実な生き方ができることから優秀な人材と言える。

 そんな彼らが組織を作っているかは不明だが、前回の勝者デイビスはそれを重々承知して立ち回っている。


「“グレース”と“メティクラ”、あとは“サヴェジュ”ですかね。サヴェジュが一番面倒っていうかしつこかったです」

「わかりやすく現在貧民街で頭角を表している三代組織の連中だな」

「デイビスさんも組織に属しているって言ってましたね。そのどれかなんですか?」

「いいや、俺っちはそのどれでもない」

「じゃあ個人……ってわけでもないですよね?」

「その言種は、俺っちのところは身を置くべき組織ではないってところか?」

「い、いえ、単に珍しいと思っただけです。デイビスさんは結構自由に動かれているようなので、大きい組織にいる者だとばっかり」

「まぁその辺は、な。追い追い説明してやる。ここに居る時点でわかってることだが……プレートを見せてみろ」


 クロとソフィアラはそれぞれ右手を前に突き出し、言われた通りに詠唱。


「「ピック」」


 二人の掌に浮かび上がる、金色のプレート。

 基本ディジットが10000を超えた証、それが金色である。


「ご苦労。これでお前らは俺っちと同じ場所に立ったわけだ。……さて、ここでお前らに再度問おうか。お前らはこの先どのような未来を望む?」

「それはもちろん」

「脱出よね」

「そりゃそうか。ま、そう言うと思ったけどよ。どういったルートでそこへ至るつもりだ?」

「デイビスさんにまたお世話になろうかと」

「それは俺っちへの借りを返すってことか?」

「いえ、借りを返すと言うよりは、恩を返したいって感じですかね」

「ほぅ……」

「デイビスさんの組織云々の話も、一度話を聞いてから考えようかと思ってます」

「妥当な返答だわな」

「一部施しがあったとはいえ俺たちは対等な関係になれたわけですから、色々と教えてもらいますよ」


 指示されるがままだったとはいえ、こうして同じ立場まで至れたのだ。

 それに対する敬意として対等な立場を表するのは間違った行動ではないだろう。

 デイビスがここで一度足を組み直した。

 クロも襲われたダメージからそろそろ座らせてくれてもいいんじゃないかと言いたいが、それを喉の奥で押し留めて姿勢を正す。

 そしてクロの言葉に対するデイビスの言葉は、

 

「対等、ねぇ」


 少し嘲りを含んでいるようにも感じられた。


「なんです?」

「ピック」


 デイビスが徐にプレートを出現させる。


「……え!?」


 クロが驚くのも無理はない。

 その色は黒。

 貧民街で最上級のプレートである、正真正銘の漆黒を放っている。

 クロもそれを見るのは初めてであり、ただただ驚くばかりである


「馬鹿にしたつもりはないけどよ、対等を望むなら次のステージはここだな」


 デイビスは黒いプレートを指して言う。

 クロたちがゴールと決めていた金色は単なるスタートラインであり、この一年は序章に過ぎなかったということだ。


「それは何というか……良いですね」

「は?」

「いや、他の組織だと、お前らは所属して尽くすのが当たり前みたいな勧誘だったんで。今の言い方だと俺たちに期待してくれている感じで、何と言うかすごい有り難く思っただけです」

「はン、そんなことか。俺っちがお前らに期待してるのは確かだけどよ、それにしては純粋な部分が残り過ぎていやがるな。それは嬢ちゃんにも言えることだが」

「それは駄目なこと?」

「いいや、その逆だ。全然ダメなんかじゃねぇ。そういう奴らを、俺っちは探してたんだ」

「どういう意味ですか?」

「なに、この鬱屈とした貧民街を変えるのはお前らみたいな奴らなのかもな、って思ってるだけだ。それは理想論だってことは理解してるんだけどよ、どうしてもそう願わざるを得ないんだ。ま、今のはただの感傷だ。無視してくれていい」

「そう、ですか。よく分かんないですけど、デイビスさんが良い人そうで安心しました」

「クロカワ、お前は馬鹿か?言葉面だけで人を信用するんじゃねぇよ」

「何ですか急に!こっちが褒めたってのに!」

「あーあー、うるせぇうるせぇ。……それで、これからどうする?」


 真面目モードに戻ったデイビスに、クロも意識を新たにする。

 これが、この発言が未来を決するかもしれないのだ。

 だから言葉は慎重に選ばなければならない。


「お嬢、俺はその気ですけど。どうします?」

「愚問ね。私はハナからそのつもりよ。クロがさっき言った通り、恩を返すまで」

「だ、そうです。ですので、デイビスさんの組織にお世話になります」

「俺っちが言うのもなんだが……良いのか?」

「貧民街じゃ迷ってるうちに足元掬われる、でしたっけ?あの言葉をそっくりお返しします」

「は?誰の言葉だ?失礼だな、どこぞの誰かと勘違いしてんじゃねぇぞ!」

「え、違いましたっけ!?」

「お前はあれだ。平然と失礼を働ける粗相野郎だ。おい粗相野郎。これからコキ使ってやるから覚悟しとけ」

「雇用条件の変更を要求します!」

「うるせぇよ粗相野郎。お前の最初の仕事は、その下りきった期待値を元に戻すところからだ。しっかり働け」

「そんなぁ……」

「ある程度愚かさを残してこそのクロね。頑張りなさい」

「はぁ、前途多難だ……。組織選びを間違ったかもしれん」


 斯くして、クロとソフィアラは、デイビスの組織──“プラシド”に所属する運びとなった。

 そこは、貧民街では全く名を聞かない弱小組織。

 現在の貧民街にて弱小かどうかを決める要素は数的なものしかなく、その尺度で言えば組織の体すら成していなかったかもしれない。

 クロとソフィアラが所属したこの時点で、プラシドの構成人員数はたったの六名。

 そこに不安を覚えた二人だが、現在発展途上の組織同士の抗争においてはあまり関係のないものだった。


「お前ら、戻ったぞ」


 デイビスに連れられ、クロとソフィアラは上層区にある一室を訪れた。

 そこは上層区において未だリベラの破壊痕が残る場所であり、上質な生活を望む者にとってはわざわざ目に入れたくはないような廃墟である。

 その中に特定のルートでしか入れない部屋を設置して利用しているのがプラシドという組織であり、一室で事足りるのはそもそもの人員が不足しているという事実による。


「おかおかー」

「デイビス君、お、お帰りお帰り」


 デイビスたちを迎えたのは、小麦色の肌の少女とハゲた中年男性。


「新入りを連れてきた。ほら、挨拶しろ」

「お、久々だねー。やったやったー」

「き、期待のしん、新人なのかな」


 想像していたのとは真逆の者たちの出現に、クロとソフィアラは少し驚いた。

 少女は笑い、中年はペコペコしている。

 貧民街において笑顔で生活できる人間なんてまず見たことなかったし、中年男性のように腰の低そうな人間が上層区にいるとも思っていなかったからだ。


「あちはネフィリ=バルマ=ガーメント。みんなより少し偉いんだぞ、頭を垂れろー」

「ぼ、僕は、パッセ=ミュライル。よ、よろしくど、どうぞ」


 すでにキャラが濃い。

 ネフィリは元気さから見て当然のこと、パッセはだらだらと吹き出す汗をハンカチで拭き取りながら常に緊張した様子だ。


「第一印象はよろしくないが、悪い奴らじゃねぇ。仲良くしな」

「は、はい。俺はハジメ=クロカワって言います!」

「私はソフィアラ=デラ=ヒースコート。よろしくお願いします」


 初めは丁寧に。

 向こうがアレとはいえ、こちらも妙な動きをしなければならないという決まりはない。

 確かに貧民街はまともじゃない人間こそ成功するという話があるが、無理してそう在れというわけではない。

 さて、向こうの反応はどうだろうかと二人が思っていると。


「がーん!」


 ネフィリが派手にすっ転んでいる。

 意味がわからない。


「えっと、どうしました?」

「あちより偉いやついた……。しょっく」

「はぁ……」

「え、偉いのに貧民街堕ちなんて、す、すごくまずいことした、したんだね……」

「あーいや、そうでは──」

「ま、気が合いそうだからあとは好きにやってろ。俺っちはボスに報告してくっから、戻るまではここに居とけ」

「了解です」

「はぁ……。あちの黄金期がオワッター。草生えるー」


 早速もって変な連中の仲間入りかと辟易とするクロ。

 しかしソフィアラはすぐに打ち解けてみせた。


「ねークロ君、クロ君。地上で何やらかしたー?何やっちゃってこんなとこまで?」


 クロはムスッとしながらネフィリの言葉を聞き流す。


「ねーねー、クロ君ってばぁ。無視されたらお姉さん悲しいぞー?」

「あーもう、うるさい!距離の詰め方が異常すぎる。もうちょっとじっくりやってくれないと俺も困るって」

「えー、何が困るの?具体的に何が困るか教えてくんない?」

「質問は毎回一個からどうぞ!」

「なんで一個ずつなの?一気に聞いた方が会話弾むくなーい?」


 とにかくネフィリは煩い。

 これはアルなどを思い出すが、その感傷もすぐにネフィリの騒音によって掻き消される。


「詳しい話はお嬢に聞いて。ていうか、お姉さんって何ですか。見たまんま未成年じゃん」


 ネフィリの身長は150cmほど。

 オレンジの髪は左右に三つ編みで括られているし、顔も幼い少女のものだ。


「ひっどー。これだから平民は敬意がなくて困るわー。あちは二五歳だから、クロ君よりは断っ然大人だよー」

「え、嘘!?そんなにもロリなのに」

「ロリって言うなー」


 ネフィリがポカポカと殴ってくるが、攻撃力も小学生程度だ。

 二十五歳という点に関しては、疑問しかない。


「ク、クロカワ君、それは本当、だよ。ネ、ネフィリさんは歴とした、じょ、女性なんだ」

「見えねぇ……」

「じゃあ触りなよ!おっぱいはちゃんとあるからー」


 ネフィリが胸を張る。

 確かに少しあるにはある。

 ソフィアラと変わらない程度には。

 が、見た目の年齢に相応なものとしか感じられない。


「痴女じゃん。到底成人した女性の発言とは思えないっす」

「こ、こいつ……!年上に向かって失礼なー」

「ま、まぁまぁ、お、落ち着いて……」

「ソフィアラちゃんも何か言ってやんなー」

「クロ、年上には敬意を持って」

「ほら言ってるでしょ、敬意敬意。敬意も払えないなんて、クロ君は子供だねー」

「こ、こいつ……!」


 そうこうやっているうちに、比較的スムーズにクロも打ち解けることができた。

 と同時に、これから貧民街脱出に関して不安も増加してしまっている。


「あ、そうそう。デイビス兄は前回のリベラの勝者だから色々聞きなー」

「え……!こ、この女は唐突に重要情報をッ!」


 クロとソフィアラの新しい、騒々しい生活の幕開けだった。


 その頃、最上層区では──。


「ボス、報告だ。本日新たに二名の新人が組織に加入したぜ。俺っちはあの中では一番期待できるんじゃねぇかと思ってる」

「そう、ですか。分かりました。では引き続き勧誘活動をお願いします」

「ああ。……ところで、あいつらにはまだ会わなくていいのか?」

「プレートが黒になれば会ってもいいでしょうね」

「そうかい。んじゃ今日は報告だけだから俺は戻るわ。あいつらの面倒を見なきゃなんねぇしな」

「そうしてください。良き貧民街のための活動を頼みましたよ」


 今回も大した会話はなかった。

 デイビスは未だボスがどのような目標で組織運営を考えているかは知らされていないが、ボスの下に付いた以上、やるべきことをやるまで。

 その気概で、デイビスは今日も貧民街を走り回る。

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