第6話 出発
説明回
異世界アルス。
地球とは異なりこの世界にはマナが溢れているため、人々は魔法を行使することができる。
まず人間族の大陸には4つの国が存在する。
最大の国力と軍事力を誇るのは、東のランドヴァルド帝国。
帝国の支配下にある、南のベリア公国。
北のトラキア連邦。
そしてクロ達を召喚した、西のエーデルグライト王国。
遥か昔から各国が勇者を召喚し、それらを集結することで魔王に対抗する戦力としてきた。
ランドヴァルド帝国──
「王国も勇者の召喚に成功した模様です。
3名という話です。
これですべての国の勇者が出揃いましたな」
「エーデルグライトの弱小国家め。
3名とは軟弱なことだ。
他の勇者なんぞ足手まといにしかならん。
1人で十分だ。なあ、ギン」
「ああ、俺1人で全部なんとかしてやるよ」
ベリア公国──
「お前は教育が済み次第、帝国勇者に付き従ってサポートに徹しろ。
分かっているな、ムラサキ」
「………」
トラキア連邦──
「うちら含めて7人だってね。
どんな人たちなんだろー。楽しみだなー。
ねぇ、ミドリ? ふんふふーん♪」
「モモは楽観的過ぎますよ。
一応命が掛かっているんですから、もう少し真剣にですね…」
「なんだ、俺たち以外にも勇者がいるのかよ。
先に言ってくれよ…」
「3人だけだと思ってたから、少し安心したわ」
「説明不足で申し訳ございません。 続けますね」
勇者としての役割は魔王の討伐だけではない。
世界にはびこる魔物やそれらを使役する魔族を狩ること、ダンジョンの破壊、中央大陸の戦域への参加などすべきことは山積みだ。
ダンジョンは魔族が作り出す迷宮であり、ラノベであるような冒険者がアイテムドロップ目当てに挑むものではない。
それは、周囲のマナを吸って成長して永遠に魔物を吐き出し続ける施設であり、放置していると魔物も強力になって手に負えなくなってしまうため、ダンジョンコアを破壊して早急に対応する必要がある。
これら全てを勇者が対応できる訳ではないために、ハンターと呼ばれる者たちが魔族を狩り、魔物を狩って、時には勇者とともに平和を維持する。
勇者にこういった魔物の討伐任務などをこなさせつつ育成していくのが各国の狙いだ。
しかし気をつけなければならないのは外ばかりではない。
魔族は人間族を滅ぼそうとあの手この手で策を巡らしており、魔法で人間を操って国の内部からの破壊を狙ってくることもあるという。
過去に勇者が操られて甚大な被害を受けたこともあるため、魔術的な防衛策も欠かすことはできない。
そこで次は魔法のお話。
元々魔法発動は、まず魔法陣を描いてそこにマナを込める必要があった。
これはセットマジックと呼ばれ、一度描けば何度でも使用が可能で、毎回同規模の魔法を発動出来るという利点があった。
また物質に刻印することでそれが魔道具となり、マナを込めさえすれば発動するため魔術的な理解の少ない者でも扱うことができ、一般大衆への普及にも一躍買った。
しかし描いた規模以上の魔法は発動出来ないという欠点があり、規模を変えたければ再度別の魔法陣を描き直す必要があった。
また魔法陣を描く関係上、対人戦闘などでの即時発動も困難で不便性が目立った。
そこを変えたのが、現代のコールマジック。
これは予め記憶領域に魔法陣を保存し、魔法陣を呼び出して使用する方法。
発動方法は、まず『ロード』で魔法陣の雛形を呼び出して展開し、そこにマナを込める。
そして発動キーを唱えることで魔法が発動するのだそうだ。
コールマジックの利点は、込めたマナ量で魔法の規模を変更出来ることと、魔法陣を描くタイムロスがないことだ。
これによって状況に応じた規模の魔法発動が可能になっている。
欠点は『ロード』と唱えた段階で足元に魔法陣が展開されるため、発動する魔法の傾向が読まれてしまうことと、いつでもイメージできるように魔法陣を記憶しなければならないこと。
イメージすると言っても、系統ごとの雛形を記憶しさえすれば、そこに込めるマナで魔法陣を形成でき、発動する魔法をある程度規定できるため、完全に魔法を読まれるというわけでもないそうだ。
固定化され、変更の効かない魔法もあるようだが。
クロがステータス魔法を発動出来なかったのは、シロ達のように召喚魔法によって頭に魔法陣をインストールされていなかったからだ。
この説明で俺はようやく納得がいった。
そして魔法の起動キーであるが、これはイメージする魔法に合っている言葉なら、ある程度自由度が高いらしい。
火を出したいなら、『ファイア』だったり『火よ起これ』みたいな感じで。
最後に一般的なこと。
1年は何日だとか1日は何時間だとか、そういったところは地球と変わらなかった。
お金は1カッパーが1円、100カッパーで1シルバー、100シルバーで1ゴールド、100ゴールドで1プラチナという具合だった。
地理とか気候とかそんな事も教えてもらった。
あとは生活に必要な最低限の挨拶や単語を教えてもらって解散となった。
シロ達は早速明日から魔法や戦闘の訓練が始まるらしいし、俺も明日出ていくとするか。
部屋に戻ったあとは4人で思い出話に花が咲いた。
一生会えなくなるわけじゃないんだから、アオも泣くなよな。
そして次の日──
この世界の一般的な衣服をいくつか貰い、それを身につけて王宮の城門にやってきた。
「これを」
そう言って、エリザ王女が学校へ入学するための書状を渡してくれた。
学校は王都の端の辺鄙な所にあるらしいが、地図ももらったし大丈夫だろう。
あと一緒に100ゴールドが詰まった小袋も。
100ゴールドっていうと、一家が1年間生活できるくらいの大金だな。
まぁ手切れ金ってことだろう。
俺は王女様に感謝を伝え、みんなに見送られて王宮を出た。
外に出て見た街並みは、ザ・中世って感じでテンションが上がる。
ここから俺の新生活が始まるんだ。
語学留学って感じだな。
ゲロから始まる異世界留学ってか。
みんなには悪いが俺は異世界を謳歌させてもらうぜ。
俺は王宮に背を向けて歩き出した。
「行っちゃったな」
「そうね。私たちもやるべき事をやりましょう。
クロを守るのも私たちの役目よ」
「ところでさ、魔法でクロが言葉を分かるようにできなかったのかな」
「「あっ…」」
「エリザ様、お呼びでしょうか」
「彼の監視をしておきなさい」
強くなる見込みは少ないけど一応ギフト持ちだし、使えそうなら使い捨てでもいいから戦場に放り込んじゃいましょう。