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3.ジュディ

 地下に向かう暗く長い階段は、螺旋状になっている。給仕の姿をした一人の少女が、畳んだ白い布と、その上にトレイを乗せ、その上に三粒の小さなカプセルを乗せて、下にゆっくりと降りてゆく。

 降り切った所の扉を開ける。その向こうは広い空間。暗くて隅の方は見えない。天井も分からない。鮮やかな赤い光の筋でできた直方体が、空間の中に、また一つの空間を作っている。直方体の中は、カーペットが敷かれていて、その上に置かれたスタンド照明や、テーブルの上のランプで明るい。ベッドや本棚もある。そこは人の住む部屋で、白い部屋着の、肌の色も白い少女がいる。少女はベッドで眠っている。

 給仕の少女は、輝く直方体の内側に入った。持って来た布とカプセルの乗ったトレイをテーブルの上に乗せた。そして白い少女を揺り動かした。白い少女は目を開け、それから給仕の少女を確認した。

「ああジュディ、おはよう」

 給仕の少女、ジュディは黙ってうなずいた。そして、布とトレイを指さした。

「うん、先に着替える。それから食事ね。あと、そのあと遊んでよ。またトランプやろう」

 ジュディはまた黙ってうなずいた。白い少女は、それを見て微笑した。それからトレイの上の、三粒のカプセルに手を伸ばす。食事といってもそれだけだ。


 最近、ラウラとソフィアは、夜の公園に行くことが多くなった。ある夜に二人で歩いていて、たまたま小さな公園を見つけた。ベンチもあるので、そこで長い間話すこともできる。ラウラは、ソフィア元いた学校の話を興味深く聞いている。

「ネジを外す実習はやったの?」

「やったことあるよ……あれは自分が自分でないみたいに思えた。思うように体が動かないんだもの。あの後には、板金でできた箱の分解があったわ」

 ソフィアは何かを思い出すように、遠くを見ている。板金の箱を分解という想像をしただけで、ラウラは気分が悪くなってきた。

「黒い板金の箱を、工具を使って分解する。中には機械が閉じこめてあって、それを外に出すの」

 機械を外に出すとは、ますます気持ち悪い。

「機械は動いてなかった?」

「止まってたよ」

「そうだよね……動いてたらとても無理」

「でも、いずれできるようにならなきゃ。機械は大抵動いている」

 ラウラはうなずいた。機械と戦えるようにならなければ、いずれこの街ごと機械に変わってしまう。人間の世界が本当に終わる。

「まずはネジを外すことからか……ねえ、そういえば、あの実習の日、私は青い鳥に襲われた」

 それを聞いて、ソフィアはやや驚いた。

「襲われた? どうして?」

「それはこっちが聞きたいよ。ねえ、あなたはあの青い鳥について、何か知ってるんでしょう?」

 二人はしばらく視線を交わし合う。ソフィアは、どこまで話していいか迷っているかのようだ。ソフィアは視線を外した。

「確かに……知ってることがあるわ。でも、大事なことだから、簡単には教えられない」

「大事なことなら教えてよ。教えてくれなきゃ嫌だ」

 それを聞くとソフィアは微笑んだ。

「じゃあさ、賭けをしない?」

「賭け? いいけど。どんな?」

 ソフィアはうなずくと、さらに小声になった。

「ジュディって子は知ってる? 三日以内に、あの子をここに連れてきたらあなたの勝ち」

「ジュディ?」

 食堂だけで見かける、給仕の姿をした少女だ。しゃべれないらしく、名前以外の情報がない。

「どうしてまた」

「気にならない? 何をしているかとか」

「気にならなくはないけど……訊くことはできないし、先生も教えてくれないし……」

 ラウラはふと、ソフィアがジュディに対し、自分にするようなことをしたがっているのかもしれないと思った。唇を合わせたり、体を撫でたりする。ラウラは一瞬ソフィアをにらむ。その視線を察してか、ソフィアが微笑んだ。

「あ、何を考えているか分かった……ジュディには、そういうことはしないよ」

「ん? そういうことって?」

 心を読まれたかのように気まずいので、わざと訊いてみる。するとソフィアは座ったままラウラを抱き寄せ、唇を重ねた。ラウラの呼吸がすぐに荒くなる。ソフィアは唇を離した。

「待ってたの?」

 今度はラウラから唇を寄せ、ソフィアの唇に当てる。ソフィアはラウラの胸を撫で始める。

「分かんない。そうかも……」

 ラウラは胸のボタンを自分で外し、ソフィアの手をつかんで、その中に導いた。ソフィアの手が直接ラウラの膨らみをつかみ、ラウラは声を上げる。

「ねえさっきの話分かってる? あなたがジュディを連れてこれたら、青い鳥のこと教えてあげるよ」

 ラウラはうなずくだけだった。


 ジュディとは食堂でしか顔を合わせない。ラウラはどうやって誘うか考えていた。食事時はソフィアだけでなく、大抵はミアも一緒だった。最近のミアは、自分を心配そうに見ることが多く、それが返って目障りだった。ミアが自分を大事に思っていて好きなことは分かっているが、それに対して何もできない。ミアの望みはただ自分と二人だけで仲良く過ごすというだけだったから。どこへ行くとも、何をするともなく。ソフィアのように何か知っているわけでもない。ミアにはジュディを誘い出す計画は言っていない、ソフィアの提案と分かれば、絶対否定しにかかるだろう。

 ミアが席を外して自分とソフィアだけになった時、ジュディを誘ってみようとラウラは考えた。ただ、朝と昼は、その機会がなかった、晩になり、ミアは学校の支度が残っていると言って先に戻った。ラウラはそれを見届け、席から立ちあがると、ジュディの席に近づいていった。ジュディは部屋の隅の方、だいたい同じ場所にいて、周囲には誰もいない。ラウラはジュディの隣の席に座っって、話しかけた。

「ねえジュディ、分かる? 今夜、外の公園に遊びに来ない?」

 ジュディはラウラのことを見てはいたが、何度か瞬きするだけで他に反応は無かった。

「ジュディ、私の言うこと分かる? 聞こえる?」

 するとジュディは首を横に振った。これは今言ったことが分かったのかと一瞬思ったのだが、そうならうなずくはずだ。そしてジュディは耳を指さし、それから両手の指で小さい×を作った。要するに聞こえないということだ。

「そうか……じゃあ……」

 ラウラが何も言わないうちに、ジュディは立ち上がり、ラウラに軽く手を振ると、食堂を出て行ってしまった。寄宿舎とは違う建物への扉から出るので、追いかけることはできないし、追いかけても無駄だと思った。ラウラはしかたなく、自分の席に戻った。ソフィアが笑いかけてくる。

「今日は失敗のようね」

「あと二日あるわ」

 ラウラは負ける気はなかった。


 ジュディに誘い出す手紙を書いた。夜に外の公園で待っているという手紙。公園の地図も描いておいた。手紙は朝食の時、ジュディに渡すことができた。ミアが遅刻したのだ。

 その夜、公園でラウラとソフィアは待っていたが、ジュディが来く様子はない。

「あの手紙、先生に渡っていたら面倒ね」

 そう言ってソフィアは笑う。ラウラは笑えない。

「ちょっと脅かさないでよ……でもあの様子だと、手紙なんか読まないで捨てちゃうかもしれない」

 結局夜遅くまで待ってもジュディは来なかった。寄宿舎に戻る時、建物を確認してみる。寄宿舎があり、その隣に工場があり、食堂もある事務棟の建物があり、その隣の建物にジュディがいると思われる。建物に近づいてみる。壁で囲まれているだけ。この建物は出入口もない。

「これじゃ出ようにも出られないよ」

「普通に事務棟から出ればいいだけじゃない」

 ソフィアは簡単に言うが、簡単なら出てくるはずだと思った。壁はレンガづくりで、つかまってよじ登ることができそうではある。一番低い窓までは、背の高さより少し上だ。ラウラは壁につかまって、よじ登ってみた。思ったより凹凸が少なく、高い所まではとても行けない。一番低い窓までは、どうにか登れて、中を見てみた。暗い部屋で何も見えなかった。ラウラは降りて、隣の窓も見てみる。隣も同じ。三つある窓がどれも同じ。中は暗闇だった。ラウラはため息をつく。二階の方を見上げるが、そこも窓は暗い。建物自体使っていないのではないかと思う。

「どうなってるの?」

 ソフィアも建物をじっと見ていた。

「地下かもしれない……」

 つぶやくようにそう言った。


 翌日、ジュディを呼び出す手段も思いつかず、朝も何もできなかった。賭けはもう負けだとラウラは思った。

 学校ではシモーヌ先生に呼び出された。もしやジュディに渡した手紙が発覚したのかと焦ったが、その話ではなかった。

「来週、また街を調査するので、つきあってほしいんだけど」

「はい、いいです」

 手紙のことではないのでとりあえずほっとした。

「でも……また私ですか?」

 全員が順番に回ってくるだけかと思っていた。

「ええ、あなたは成績がいいので、なるべく先に経験を積んでおこうと思うの。もっと言えば、今はもう全員を平等に教育している余裕がない」

「成績がいい子は、私以外にもいますが……アンジェラとか」

「アンジェラは『対象者』よ……簡単に外には出せないわ」

「そうでした……」

 対象者……十人に一人ぐらいの割合で存在する。月に一度、下半身から血を流す少女達。病気ではない。その性質はとても重要で、人間の世界を取り戻すために、守らなければならない子達だという。その理由や意味は当人達だけが教わるというが、いつ教えるのか、既に教えたのか、当人達はそれに対し口を固く閉ざしているので分からない。先生も教えてはくれない。

「じゃあ、よろしくね」

「分かりました……あの、先生」

「何?」

「ジュディって、何をしている子なんですか?」

 シモーヌ先生は、少し顔をしかめ、ラウラをにらむ。訊いてはいけないことを訊いてしまったかもしれない。でも先生は、穏やかな声で言った。

「私も知らない。あっちの組織でやっていることよ」

「あっちの組織って?」

「機械と戦う術を、常に考えている組織。学校で組織とコンタクトを取れる人は、校長のゴーシャ先生だけ。教材は全部あっちが考えているの」

 夜は建物の明かりが消えていたが、単に活動していなかっただけだろうか。

「ジュディはそのお手伝いでしょうね」

 それにしては給仕の格好というのがおかしいし、他の人が来ている様子もない。ラウラが考えていると、シモーヌ先生が続けた。

「そういえば、ジュディで思い出したことがあるわ。前にデザートにケーキが出たことがあるでしょ。みんなフォークを使っている中、ふと見ると、手づかみで食らいついている子がいたの。注意しようと思ったら、学校の生徒じゃない。ジュディだったわ」

 シモーヌ先生はそう言って、少し笑った。

「へえ……食べ方を教わらなかったんでしょうか?」

「食べ方なんて、周りの人の真似をすればいいと思うわ。だから、多分甘いものに目がないのね」

 それを聞いて、ラウラはふとひらめく。


 シモーヌ先生と別れ、自分の部屋を探してみた。引き出しの奥にしまってあった。昼の街で手に入れたチョコレートセットだ。日曜日は工場が休みなので、外にも出られる。まぶしい昼の街。賑やかで明るい昼の街。でも、街にいる人は本物の人間とは限らない。だから決して油断してはならないと言われている。物は普通に売っていて、買うこともできる。

 チョコレートセットの一粒を取り出し、簡単な手紙とともに小さな封筒に入れる。今夜公園に来れば、チョコレートをもっとあげる、という内容。公園への簡単な地図も描いた。今夜……って、既に今夜だ。眠る時間まであと三時間ぐらいしかない。今すぐジュディに渡さないといけないが、食堂の向こうの建物に入ったことなどない。でも、考えている暇はない。ラウラは部屋を出て、寄宿舎から食堂に入る。厨房ではまだ洗い物をしているようだが、フロア内は明かりも消えている。その中をそっと進み、向こう側に通じる扉を開けた。その向こうは廊下になっていたが、ここも静まりかえっていて薄暗いだけだった。非常灯だけが点灯している。こっちにはこっちの組織があるとシモーヌ先生は言っていたが、誰もいないし、気配もない。しばらく歩いていると、玄関らしい場所に出た。縦横にポストが並んでいる。ジュディの名前を探す。割と簡単に見つかったので、封筒を中に入れた。これで、今から手紙を見つけて公園に来るだろうか……いや、今の時間にこんなところに入れても取るのは明日だろう。だから明日の夜来るかもしれない。三日以内という賭けには負ける。ただ、ジュディがどんな子かは気になるので、公園に来てくれれば、賭けはもうどうでもいい。

 ラウラはソフィアに会うため、いつもの公園に行った。ソフィアは先に来て待っていた。ラウラを見ると微笑みかけた。

「何か仕掛けてきた?」

「ポストにお菓子と一緒に手紙を入れた。お菓子が大好きらしいんで。でも多分無理だよ……今からポストを見るとは思えない。賭けには負けた」

「残念ね」

「期限を明日までにしない?」

「それはダメ。決めたことは守らないと」

 二人でベンチに座って、今日の授業の話などをする。途中で二人は手をつなぎ、体を寄せ合った。ただ、今日のソフィアはそれ以上、何もしてこない。ラウラから唇を寄せて、一度だけ重ね合わせただけだった。

「もしかして……ジュディを待ってるの? 私があきらめているのに?」

「そうね……まだ賭けの行方は分からないよ」

 ソフィアと持ってきたチョコレートを一粒ずつ分け合った。確かにおいしい。昼の世界で手に入れたものは、光で照らされた世界の味がすると思った。寄宿舎の売店でもお菓子は売っているが、まるでおいしくない。このチョコレートは、ミアにもあげなければと思う。あの子がいるとどこか安心する自分に気づく。

 夜も遅くなり、二人は立ち上がった。もう帰って眠る時間。歩き出そうとした時、前の方に誰かが立っていた。二人に気づくと、まっすぐ歩いてくる。ジュディだった。いつもと変わりない給仕の格好。ジュディは二人の前に立ち止まって、一度自分の口を指し、お辞儀をした。チョコレートのお礼を言っているらしい。ラウラは戸惑う。来るとは思わなかった。

「き……来てくれて、ありがとう」

 何を言っていいのか分からない。

「あのう、甘いものが好きだって聞いて……」

 ジュディは、ラウラの抱えているバッグに気づき、指さした。ラウラはバッグからチョコレートセットを出す。

「あのう、このチョコレートは……」

 そう言う前に手が伸びてきて、手づかみで箱からいくつもつかみ出された。ジュディは何粒も手でつかんだまま、一粒を包んでいる薄い包装紙を取ろうとするがうまくいかず、地面に次々と落とした。ジュディはしゃがみ込んで、落ちている粒の包装紙を向いては、中身を口に入れていった。呆気にとられるほど早い。最初につかみだしたものを全部食べてしまうと、今度はまたラウラの箱に手を伸ばそうとする。ラウラは箱を下げた。

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 怒鳴られて、ジュディは手を止める。声が聞こえていると言うより、ラウラの表情を見て手を止めたらしい。ラウラは続ける。

「ねえ、あなたどんなお仕事してるの?」

 そう訊いても、聞こえないのだから分からないと気づく。ラウラが困っていると。ソフィアがいつの間にか小さい紙と、鉛筆を持っていた。紙に書いて、ジュディに見せる。ジュディはうなずいて、ソフィアの鉛筆で紙に何か書いた。ソフィアに返ってきた紙を二人で見る。

『Kを守っています』

 二人は顔を見合わせた。

「K? ……Kって何?」

 それを紙に書いて訊いてみた。

『女の子』

 返事はそれだけだった。さらにどんな女の子か訊こうとしたが、ジュディもよく知らないらしい。ただ、地下にいるということは分かった。

「なるほど……地下か。だから建物の外からは何も見えないんだ」

「どういう女の子なんだろう……要人の娘とかかな……?」

 二人で考えている間に、ジュディはカバンを奪ってチョコレートをあらかた食べてしまった。それからジュディはカバンをラウラに押しつけ、足早に去っていこうとする。ラウラは慌てて止めるが、怒鳴っても聞こえない。そのままジュディは立ち去ってしまった。

「あーあ……」

 ラウラは残念がるが、ソフィアは冷静だった。

「大丈夫だよ。ポストに手紙を入れれば呼び出せるって、分かったから」

「そうだ……私、賭けに勝ったよ! 教えてよ。青い鳥とあなたの関係」

 ラウラはまっすぐにソフィアを見つめる。ソフィアは言おうかどうか、考えているように見える。

「そうね……まず、あなたは鳥に襲われたの?」

「うん……明らかに襲ってきた、怖かったよ」

「その鳥をどうしたの?」

 ラウラは言うべきかどうか迷った。でも、ここでソフィアに隠さない方がいいと思った。青い鳥の関係があるなら、ソフィアはもう知っている。

「戦ったわ。石をぶつけてやった。鳥が壊れて、中は機械だった」

 あれは今考えてもぞっとする。

「どんな機械だったか、覚えてる?」

「どんなって……まさか機械の鳥だとは思わなくて、ものすごく細かい部品だった」

 ソフィアはうなずいた。

「機械には、『白い機械』と『黒い機械』があるの。この街を侵略しているのは黒い機械。でも、あの鳥は白い機械よ。そして、白い機械は私達の味方」

「味方? ……じゃあ、なぜ私が襲われたの?」

「分からないけど……夜に外に出ていて、黒い機械の仲間だと思われたのかも」

 そう言われても、何か納得できない。機械に白と黒があるとか、味方がいるとかも初めて聞く。

「どうしてそんな機械のこと知っているの? うちの学校じゃ何も聞かないよ」

「逆に……知っているからうちの学校が狙われた。ここの学校はまだ知らないことが多いのよ」

「じゃあ、あの青い鳥はどこから来たの?」

「私が持ってきた」

「ええっ? だって機械だよ」

「味方だって言ってるじゃない」

「私、壊しちゃったけど……」

「何体かあるから、それはいいの」

 そういえば先日、ソフィアと夜の街に出ていて、同じように出歩いていて、機械に襲われたミアを鳥が助けた。鳥が機械を狂わせたとミアは言っている。

「こないだミアを助けた鳥も、あなたの?」

 ソフィアはうなずいた。ミアを襲ったのは黒い機械だろう。どこかで納得できないながら、街を侵略していく機械と戦う戦力が増えた気がした。

「戦えるんだ……機械と」

「待って、まだ学校に言ってはだめ」

「どうして? あの鳥が味方ならすごいよ。機械に勝てる」

「学校にいる人が、全部信用できるとは限らない。前の学校も、それでやられた。内部にいたのよ。黒い機械と通じ合っている者が」

「うちの学校にもいるって言うの?」

「分からないけど、いないと確信が持てるまで、誰にも言ってはだめ……だから、本当はあなたにも言わないでいたかった」

「私は信じられない?」

「ううん、信じてる。だから決して言わないでね。ミアにも言ってはだめよ」

「分かった。信じて」

 ソフィアはそう言って、ラウラを抱き寄せ、唇を重ねた。こうされる度に、ソフィアに心が傾いていく。でも一瞬ではなく、もっと長い時間寄り添っていたくて、ラウラは体をすり寄せる。ソフィアはラウラの髪を撫でている。

「今日はもう遅い。今度ね」

 ラウラはうなずくしかなかった。


 ジュディは自分の夕食を終え、Kに夕食を持って行く時間。Kの食事はいつでもカプセルだ。Kはおいしいとか、そもそも味なんていうもの自体を知らないのではないかとジュディは思う。

 階段を下りていく。気のせいか、何か羽ばたくような音がした。ジュディは聞こえないわけではなかった。ただ、K以外にはそういう振りをしていろという指示だった。ここに鳥がいるとは思えない。ジュディは降りていった。暗い空間の中に、部屋を形作る赤い光線の直方体。その中にKが住んでいる。Kは珍しく起きていて、立ってジュディの方を見ていた。Kはジュディを見て微笑んだ。

「今日から自由だよ。一緒に行こう」

 ジュディは何を言われたか、よく分からなかった。Kに自由はないはずだった。赤い光線で囲まれた部屋から出ることはできないはずだ。ジュディはそう言おうとしたが、言葉が出ない。自分の体で、声を出す機能は失われてはいないはずだったが、心の何かが障害になって、声を出せないのだ。ジュディは首を横に振った。そして、赤い光線を指さす。

「それね……もう大丈夫なんだ」

 そう言うなり、赤い光線が消滅した。同時に羽ばたく音がして、Kの肩に青い鳥がとまった。


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