第7話 ウンコ、世の理を知る。
コマンド式RPGにおいて。
素早さの大差は、命中率100%を意味する。
しかし、アクションRPGは違う。
LV1であっても、技量と運次第ではさ。
魔王の攻撃だってかわせるのだ!
姫騎士のラスボス級の攻撃の嵐から、はっはっは!
俺は逃げ切ることに成功した。
今、王都の正門の前で、荒れた呼吸を整えている。
そばでは、悔し顔のルルナが抜刀術の構えをしている。
バカ騎士め!
やれるもんならやってみろ。
正門の前には、門番さんがいるんだぞ。
完全犯罪は不可能なんだぞ。
それとも門番さんも、口封じに殺す気か?
俺は言った。
「姫騎士道その10。姫騎士は罪なき者は殺さない」
ルルナは涙目で、細剣から手を放した。
俺は高笑いしながら、門番のもとへ向かった。
「門を開けてくれ」と俺は言った。
「職証を見せて下さい」と門番は言った。
職証?
あ、職業証明書のことか。
それを見せたら、俺がウンコだってバレちゃうな。
俺は職証を食べた。
これで、俺をウンコと証明する術はなくなった。
俺はシリアスな感じで、
「職証はなくした。すまない。だが俺は……」
と言うと、門番に焼き印を見せた。
「ほら、神の使いで、れっきとした勇者なんだ」
そこへ、ルルナがやって来て、笑った。
「ぷぷぷ、無駄ですよ。ぷぷぷ」
門番が敬礼した。
「ルルナ姫。お帰りなさいませ」
ルルナは、門番に職証を見せた。
俺も脇からルルナの職証を見てみた。
名前 ルルナ・キルトナーガ
LV 50 職業 姫騎士
性別 女 年齢 16。
そう書いてあった。
力とか魔力とかは省略する。
まあ、一言で言えばさ。
ラスボスをソロプレイで倒せるくらい、すげえステータスだ。
「私の偉大さを思い知りましたか?」と姫騎士。
「別に。オレ様は聖光勇者だからな」とウンコ。
「この期に及んで、はったりですか。門番さん。あれを」
そうルルナに命令されるとさ。
門番は門番小屋から、白紙の巻物を持ってきた。
俺がそれを受け取ると、白紙の巻物に文字が浮かび上がった。
名前 ウン公
LV 1 職業 ウンコ
性別 男 年齢 16。
「……」
後は悲しいので省略する。
まあ、一言で言えばさ。
アリアハン近郊ですら、生き残れないステータスだ。
こうして、俺をウンコと証明する文書が復活した。
ルルナが言った。
「さあ、門番に職証を見せて下さい」
考える時間を稼ぐため、俺は話をそらすことにした。
「なあ、ルルナ。この門に描かれた蛇。ウロボロスだろ?」
「そのとおりです! ウロボロスとは――」
好きなロックバンドについて語るように、ルルナは語り始めた。
ルルナいわく。
ウロボロスはこの国、『ナーガ王国』の国蛇らしい。
まあ、一言で言えばマスコット。
地方を代表する『ゆるキャラ』みたいなものさ。
そんでさ。
ウロボロスってのは、『身を食らう蛇』のことだ。
この蛇は、自分のしっぽを自分で食っていて、その形は円となる。
円は永遠を意味する。
だからさ。
『この国に永遠の繁栄を』
そう願いをこめて、ウロボロスを国蛇としているんだって。
でも、ウンコの俺に言わせるとさ。
……まあいいや。
「わかりましたか」と説明を終えたルルナ。
「わかんねえ。どうすればいいんだろ?」と頭を抱える俺。
「どうすればって……、何をですか?」
「ウンコをごまかす方法」
あっ、しまった。
俺は、ルルナに職証をひったくられた。
ルルナは、その職証を門番に渡した。
門番は言った。
「職業ウンコですか……、少々お待ち下さい」
門番は門を開いて、王都の中に入っていった。
ルルナも中に入っていった。
あのクソアマめ。
別れ際にこう言いやがった。
「さようなら。ウンコさん。もう会うことはないでしょう。ぷぷぷ」
やはり、ウンコの俺は、王都に入れないのだろうか?
不安を抱えたまま、俺は独り待った。
やがて陽が暮れて、門番が戻ってきた。
「明日の朝までには、手続きを済ませますので、それまでお待ち下さい」
やった。入れるみたいだ。
俺はガッツポーズした。
やっぱ、都会は違うね。
まず、門番からして違う。
こいつ、俺がウンコなのに、少しも嫌な顔をしない。
完璧な笑顔で応対してくれる。
まるで、一流ホテルのフロントマンみたいだ。
プロフェッショナルと言ってもいいだろう。
俺はこの門番さんに、いろんなことを教えてもらった。
例えば、えっと……。
職証は、『リレキショ』の木から作った紙でできている。
白紙の職証に文字が浮かび上がるのは、えっと……。
世界の記憶にアクセスしているからである。
そしてさ。
これ、特に注目。
『職業を変える方法は存在する』
鍛冶屋になりたければ、えっと……。
剣をたくさん作りまくってさ。
俺は鍛冶屋だって、世界に認めさせればいい。
その他にも、たくさんのことを教えてもらった。
王都のこととか。世界の理とか。
いろいろさ。
俺たちは夜を通して語り合った。
今、朝日が昇り、俺のために門が開かれた。
俺は門をくぐった。
そしたらさ。
中で、待ち構えていた都民たちから、
「「「ウンコ。GO HOME!」」」と叫ばれ、石を投げられたんだ。
帰る家なんて、地球にもないのに。
「なんでみんな、俺がウンコだって知ってんの?」
そう俺が聞いたらさ。
門番の奴は、完璧なスマイルで、こう答えやがった。
「一晩かけて部下に伝えさせました。『ウンコがやって来るぞ』って」
「なんでそんなことするの?」
「街の人の安全を守る事が、私の使命なのです」
ナイスプロフェッショナル。
だけど、俺の安全は?