第5話 ウンコ、人の優しさに触れる。
俺は99.9999%殺された。
だが、完全に死亡。
というわけではなかった。
俺は自分のステータスを確認するために、職業証明書を広げた。
HP1/8って書いてあった。
その1という数字。
ヒビだらけで、傷だらけでさ。
今にも、真ん中からポキッと折れてしまいそうだ。
ああ、俺はもう死ぬんだな。
今度、生まれ変わったら、人間になりたいな。
俺は目をつぶった。
薬草は全部食べてしまったので、それくらいしかできない。
後は、眠るように死ぬだけだ。
今は真夜中。
しかも、季節は春のようだ。
きっと、ぐっすり眠れるはず。
「お兄ちゃん」と女の子の声がした。
でも、俺を呼んでいるわけじゃない。
俺はウンコだからね。
「お兄ちゃん」
声の主は、俺の身体を揺すった。
俺は重いまぶたを開けた。
俺をウンコではなく……。
『お兄ちゃん』と呼んでくれる女の子の顔が見たかったから。
声の主は、赤い頭巾を被った少女だった。
見た感じ、10才くらいの少女は、
「食べて」と言って、俺に薬草を食べさせてくれた。
傷が癒えた。HP満タンだ。
それから、赤い頭巾の少女は、
「食べて」ともう一度言って、俺にパンを食べさせてくれた。
水も桶一杯分、飲ませてくれた。
元気が出た。
俺は上半身を起こして、言った。
「ありがとう。君の名前は?」
「ズキン」
幼い恩人はそう答えた。
「なあ、ズキン。なんで……、俺なんかを?」
「俺なんかを?」
ズキンは首を傾げた。
なぜだ?
「だって、俺はウンコだぞ。臭いだろ? 汚いと思わないのか?」
ズキンは鼻をつまみながら、チャーミングに言った。
「うん、臭いね。でも、汚いとは思わないよ」
俺は泣きそうになったが、男の子なので泣かない。
「君は本当に優しい子だね。それに働き者だ」
俺は今日、ズキンが働いている姿を3度も見た。
「同じくらいの年の子は、みんな遊んでたのにな」
俺をイジメてね。
「働かないとご飯が食べれないから」
ズキンはそう言った。
「なんで?」
俺がそう聞くと、ズキンは自分のことを穏やかに話してくれた。
ズキンの両親は魔王ケルベロスに殺されたそうだ。
今、ズキンは親戚のおばさんのところで暮らしている。
ズキンの服はボロボロだった。
身体もガリガリにやせていた。
ズキンは虐待されているのかもしれない。
ズキンがくれた一切れのパンはさ。
ズキンの夕飯の全てだったらしい。
ズキンのお腹がグーと鳴った。
俺は「ごめん」と謝った。
「謝らなくてもいいよ」
ズキンはそう言うと、俺にボロボロの布袋をくれた。
中には、古びた銀貨が3枚入っていた。
銀貨は1枚10Gだと、ズキンは教えてくれた。
それと、この銀貨が両親の形見だってこともね。
「これを持って、お兄ちゃんは王都に行くの」
ズキンはそう言った。
そしてさ。
『30Gあれば、宿屋に3回泊まれる』
『王都にはたくさん仕事がある』と教えてくれた。
生きる希望が開けた気がした。
でも、俺は「いらない」と言った。
俺はこの金で、美味しいものを食べるズキンが見たかった。
カワイイ服を着ているズキンが見たかった。
もちろん、とびっきりの笑顔のズキンだ。
それをご両親も望んでいると思うから。
なのにさ。
「いいんだよ。私には、もう必要のないものだから」
ズキンはそう言って、俺に銀貨袋を押しつけた。
「これもあげる」
ズキンはボロボロの服のポケットから、なにかをつかみ出すとさ。
それを銀貨袋に突っ込んだ。
ヒマワリの種に似たものだった。
「道中のお弁当だよ。美味しくないけど、栄養あるから、がんばって食べてね」
そう言うと、ズキンは去っていった。
去り際に一言。
「道案内は、姫騎士のお姉ちゃんにお願いしてあるからね」