第3話 ウンコ、初めての村。
人類の限界を超えて、俺は走った。
メロスよりも頑張った。
自分のためだけどね。
24時間は走ったんじゃないかな。
朝日に輝く地平線に、村が見えた。
俺は村に逃げ込むと、無様に叫んだ。
「助けてくれぇ!」
こんな俺に、世界を救えるはずがない。
村人たちが家から出てきた。
彼らはカバと、クワとか鎌で勇敢に戦った。
なかなかの強さだ。
ぶっちゃけ、俺の3倍は強い。
村人たちはカバを倒した。
カバは断末魔の大絶叫をあげた。
地平線の向こうから、カバの大群がやってきた。
きっと、復讐しに来たのだ。
俺はパニックになった。
村人たちは平然としていた。
俺はクラウチングスタートの姿勢を取った。
村人たちは武器を構えた。
俺は逃げ出した。
村人たちは突撃した。
走る俺は、女騎士とすれ違う。
極上の女だった。
金髪碧眼。細身だが巨乳。
ストライクゾーンど真ん中だ。
そして、何と言っても、衣服がいい。
ミニスカドレスみたいな青のワンピース。
純白のニーソックス。純白の長手袋。
羽を模した髪飾り。ガラスの靴。
甲冑と呼べるのは、白銀色の肩当てだけ。
うん、防具のとしての機能性はゼロ。
まさに、エロゲー的デザインの女騎士だ。
すれ違う一瞬に、俺の脳はこれだけの情報を処理した。
元エリート高校生をなめるなよ。
俺はこの画像を、今晩のオカズにすることに決めた。
そうと決まれば、一刻も早く、ここを立ち去るのみ。
でもさ。
女騎士に超絶反応で、首根っこをつかまれた。
「敵前逃亡はカッコ悪いですよ」
女騎士はそう言って、ものすごい力で俺を引きずっていく。
女騎士は、村人とカバが荒れ狂う戦場に、俺を投げ込みやがった。
クソ怪力女め。
俺はベストを尽くすことに決めた。
生き残るための最善の場所は……。
うん、あの怪力女の近くだ。
怪力女は、細剣を抜くと、呪文を唱えた。
「レーヴァテイン・バハムート」
細剣の刃に、灼熱の炎が展開した。
どうやら、魔法剣のようだ。
怪力女は華麗な動きで、カバを次々と一刀両断していった。
飛んだり、駆けたり、しゃがんだりさ。
なんか、もうスーパーマ○オみたいに、機敏な動きだった。
その高速機動に、『素早さ5』の俺は、必死についていった。
生きることを、何度も諦めそうになった。
だが、時折見える、あの!
怪力女のパンチラが俺に生きる希望をくれた。
結果、俺は生き抜いた。
カバどもは全滅したのだ。
村人たちは1人も死んでいない。
怪力女も当然死んでいない。
俺は村人たちに近づくと、握手を求めた。
「ありがとう」
精一杯の笑顔で言ったんだよ。
なのにさ。
村人たちは鼻を押さえて、逃げ出すと、遠く離れた距離から叫んだ。
「「「おめえ、めちゃくちゃ臭えぞ!」」」
俺は自分の匂いを嗅いでみた。
別に全然臭くない。
だが、俺の職業はウンコだ。
ウンコ故、俺の周りでハエがブンブン言っているのだ。
多分、俺は臭いのだろうけど……。
人間は基本的に、自分のウンコを臭いとは思わない。
俺は、ハエをしっしと追い払った。
そんな俺を、怪力女は指さして、言った。
「さては、貴方、腐ったゾンビですね」
『腐ったゾンビ』というモンスターとして、俺はさ。
村人たちからタコ殴られた。
死ぬ寸前までな。
助かったのは、不本意にも、右腕の焼き印のおかげだ。
「やめなさい。この人は神の使いです」
怪力女がそう言わなければ、確実に殺されていた。
これは歴とした殺人未遂である。
なのに、村人どもは悪気の欠片もなく、言った。
「「「なんだ、神の使いか。間違えちまった。てへ」」」
一言ぐらい謝れよ。
旅だってから、間もないのにさ。
新品だった布の服は、ボロボロになっていた。
今じゃ、乞食の服にランクダウンしている。
「貴方の職業は?」と怪力女が言った。
「勇者だ」と俺は答えた。
「なら、神から授かった職業証明書を見せて下さい」
「なくした」
「ないならば、貴方をモンスターとして処分します」
「ごめんなさい。嘘つきました」
俺は職業証明書を渡した。
怪力女が目をこすりながら、言った。
「貴方の職業は……、ウンコ?」
「でも、心はきれいなんです!」
俺の必死の訴えも虚しく、怪力女は逃げていった。
村人たちも逃げていった。
瀕死で動けない俺を残してな。