第23話 ウンコ、牢獄にてゴキブリとたわむれる。
俺、銀行強盗の罪で逮捕されちゃった。
後悔はしていない。
義に殉じただけのことだ。
というか、むしろラッキー。
城の地下にある、この牢獄。
3食出るんだ。
パンが1日3個も食べられる。
朝と夜には、スープも付くんだぜ。
このスープ、薬草とコーンが入っていて極上なんだ。
「クソみたいにマズいスープなのに、よく食えるな」
そう言った看守め。
松平定信にチクって、ぜいたく罪で死刑にしてやる。
俺は臭いからさ。
他の囚人の健康を考慮して、独房に入れられているんだけどさ。
寂しくないよ。
なあ、ゴキ夫。
ゴキ夫はゴキブリだが、俺の親友だ。
ゴキ夫は俺を臭いと言わない。
汚いとも言わない。
ただ無言で、俺に寄り添ってくれる。
俺たちは、言葉を介さずとも、テレパシーで気持ちを伝え合うことができる。
まるで、理想の妻みたいだ。
ゴキ夫が女なら、俺はたぶん結婚していたね。
ゴキ夫が俺にじゃれてきた。
むふふ、やめろよ。
頬に張りつくなよ。
こそばゆいじゃないか。
あ、そうか。
ご飯が欲しいんだな。
俺はウンコを出して、ゴキ夫にやった。
ゴキ夫は、もぐもぐウンコを食べた。
その後、俺とゴキ夫は追いかけっこをした。
ゴキ夫は俺のことが大好きで、常に俺に張りつこうとする。
だから、俺は常に逃げる役だ。
ああ、楽しいな。
孤独じゃないって、すばらしい。
「この汚らわしいウンコめ! 静かしろ!」
看守にそう怒鳴られたので、俺は静かにした。
看守は嫌な奴で、機嫌を損ねると、ご飯抜きにされるんだ。
なあ、ゴキ夫。
人間って、汚らわしいよな。
自分勝手な美的感覚でさ。
ゴキブリを汚いって、決めつけるんだもんな。
ゴキブリは確かに、外見と動きがキモいよ。
でも、別に汚くはないんだよ。
犬の方が、狂犬病とかのウイルスを持っていて、汚いんだよ。
なのに人間どもはさ。
チワワの顔にだまされちゃって。
キスまでしちゃうんだぜ。
ゴキブリの方が害がないのにね。チュ。
ああ、人間社会って奴は、本当に醜いよな。
まあ、仕方がないか。
『カワイイは正義』
そんな暴論が、まかりとおるくらいだもんね。
ゴキ夫。
正直に話すとさ。
俺も昔は、その汚らわしい人間の1人だったんだ。
ゴキブリたちにもたくさん酷いことをした。
本当に卑劣なことをしたんだ。
化学兵器禁止条約で禁じられた、神経毒ガスをスプレー噴射した。
エサを使ってホイホイ誘い出し、粘着罠にかけて餓死させた。
エサそのものに毒を入れたこともある。
そ、それどころか……。
そのエサを巣に持ち帰らせて、一族郎党を皆殺しにしたこともあるんだ。
究極の兵器も使った。
部屋そのものを神経ガスで覆う『バルサ○』だ。
この非人道的兵器。
ゴキブリにとって、核爆弾レベルの威力を持っている。
面倒くさがりな俺は、恥ずべきことに、この大量殺戮兵器を何度も使った。
なのにさ。
今の今まで、恥じることさえなかった。
このように、人間の理性は、完全に麻痺してしまった。
いつか、核兵器を、お手軽に使う時代が来ることだろう。
俺は、死んでいったゴキブリたちを思い出した。
ピクピクけいれんして、実に哀れな死に様だった。
なあ、ゴキ夫。
なんであの時、俺は、あんなに非人道的なことをできたのだろう?
ごめんな、ゴキ夫。
一生かけて償うから、許してくれるよな。
おお、許してくれるのか、友よ。
うん、ありがとう。
さて、そろそろ寝るか。
ここは雨風しのげて、最高の住環境だ。
牢獄だから、追い出される心配もないしね。
それに、もらった囚人服はとても着心地がいい。
ずっとここに住んでいたいな。
死ぬまで一緒にいような。ゴキ夫。
お休み。
翌朝、ゴキ夫は殺された。
看守がスリッパでペチャンコにしたのだ。
グロい。
なんて、非人道的な。
お前の血は何色だ?
俺は嘆き苦しんだ。
「ああああああああああああああああああああああっ!」
俺は昨日。
女の子を紹介してもらう約束を、ゴキ夫としたのに!
今日は合コンだったんだぞ。
たっぷりウンコを用意して、発酵させていたんだぞ。
「あがぁああああああっ! あがぁああああああっ!」
俺は力の限り、嘆き続けた。
これが俺にできる、唯一の弔いなのだ。
なのにさ。
冷酷無比な人間社会は、そんなことさえ許してくれなかった。
「出ろ」と看守が言った。
これから、城内の法廷にて、裁判が始まる。
俺の目的はただ一つ。
終身刑を勝ち取ることだけだ。




