第16話 ウンコ、ブラック企業で働く。
俺の仕事は極めて単純。
カレーが焦げないように、かき混ぜ続けることだ。
ああ、働くって気持ちいいな。
店主は、クソ野郎だけど。
あいつ、腐った食材でカレーを作っているんだぜ。
スパイス入れりゃ、バレやしないんだって。
火を通せば、安全なんだって。
ふざけやがって。
俺のまかないはどうなる?
俺に、腐ったジャガイモの皮を食わせるつもりかよ。
まあ、美味しくいただいたけどね。
身が少し残ったジャガイモの皮。
油で揚げたら、マジうまかった。
俺は夜通し、カレーをかき混ぜ続けた。
陽が昇っても、カレーをかき混ぜ続けた。
店の時計で午前10時。
開店の時間となった。
意外なことに、大盛況である。
「絶対に客の前には出るなよ」
店主にそう言われていたけど、気になったからさ。
厨房のドアを少しだけ開けて、フロアをのぞいてみたんだ。
客のバカどもは、ぷぷぷ。
「うめえ」「辛え」と言いながら、
『腐った食材のカレー』をモグモグ食っている。
客Aが言った。
「ここの野菜、朝採りの新鮮なものを使ってるんだぜ」
客Bが言った。
「ここの肉、最高級の熟成肉を使ってるんだぜ」
客Cが言った。
「今日入った新人、無類のキレイ好きなんだってよ」
客Dが言った。
「店主、赤字覚悟でこのカレー出してるんだってよ」
AからDを含めた客全員が言った。
「「「こんなカレーが1杯1Gで食べれるなんて、俺たちは幸せだなあ!」」」
ひゃはは。マジうける。
腐った食材を使っているから、原価は1000杯で1Gなのに。
製造工程に、ウンコ(腐熟)がしっかり関わっているのに。
あのクソ店主凄えな。
クソみたいな食材で、クソみたいに美味いカレーを作りやがる。
まさに、スパイスの魔術師。
閉店時間の5分前に、カレーは完売した。
浴槽大の鍋が空っぽだ。
店主がのれんを下ろしたので、俺は言った。
「もう、20時間以上働いているので、休んでいいですか?」
店主は契約書を突きつけて言った。
「24時間労働で契約している。だからまだ働け。ずっと働け。永遠に働け」
雇用契約書は改ざんされていた。
でも、ガマン。
職業『ウンコ』じゃなくなるまでガマン。
職業『カレー屋』になったら、俺はさ。
金庫からスパイスのレシピを盗み出した後。
速やかに店を辞めて、カレー屋を開くんだ。
もちろん、腐った食材など使わない、真っ当なカレー屋だ。
俺は、ズキンに恥じない立派なお兄ちゃんになるんだ。
閉店時間を5分ほど過ぎたころ。
抜き打ちで、格付け会社の調査員がやって来た。
レストランに三つ星とかをつける人だ。
「カレーを頼む」
調査員は気取った口調で、そう言った。
「ははあ、かしこまりました」
店主は土下座しながら、そう言うと、厨房にやって来た。
俺は、のぞき見をやめて、掃除をしているフリに戻った。
店主はギロリと俺をにらむと、言った。
「絶対に出てくるなよ」
「はい」と俺は即答した。
『この店でウンコが働いているという事実』
これは、ケネディ暗殺の首謀者並に、トップシークレットなのだ。
でも、1つ疑問。
「カレー、もうないですよ」
するとさ。
店主は、俺に銅貨1枚(1G)を渡して言った。
「これでどうにかしろ」
「どうにかって、言われても……」
いや、あんたなら可能だと思うけど。
「大丈夫だ」
店主はそう言うと、どうにかする方法を教えてくれた。
説明するね。
まず、鍋に残ったカレーをこそぎ落とす。
それから、適当な野菜をぶちこむ。
5分煮れば、ベジタブルカレーのできあがり。
これで、万事OKなんだって。
「俺の秘伝のスパイスを信じろ」なんだって。
とりあえず、俺は野菜を買いに八百屋に走った。
ニンジン1本9999Gだった。
ウンコ特別価格って奴だね。
そんでさ。
事情を話しても、9999G。
土下座しても、9999G。
靴なめても、9999G。
ちくしょう!
ウンコを差別しやがって!
はあ。
ため息をつきながら、俺は厨房に戻った。
困った。
『どうにかできなければ、クビだ』
そう言われているのに。
ニンジンの皮もジャガイモの皮もタマネギの皮もさ。
『まかない』として、全て美味しく食べてしまった。
厨房の食材庫を見る。
やっぱり、もやしの毛1本すら落ちちゃいない。
万策尽きた。
どうしよう?
それから、15分後。
調査員は俺の作ったカレーを食べた。
「何という独創的な香りだ! それにこの熟成の進んだ旨味!」
大絶賛だった。
三つ星確定らしい。
クソ店主は、鼻高々に語り始めた。
「これは、私オリジナルのスパイス調合で作られております」
「これは、私が一つ一つ吟味した食材で作られております」
「これは、私が寝る間も惜しんで、コトコト煮込んだものです」
「この店は、掃除、経理も含め、私1人で切り盛りしています」
「この究極のカレーは、全て私1人の手柄なのです」
まあこんな感じに、散々自慢した後。
店主は最後に胸を張って、宣言した。
「何か問題があれば、私が全ての責任を取らせていただきます」
それから、5分後。
調査員は、バタッと倒れた。
食中毒らしい。
まあ、当然か。
ウンコ入りカレーだもんね。
ウンコの原料は『食料』だからさ。
大丈夫かもって思ったんだけど、やっぱりダメだったか。
店主は全ての責任をとって、ブタ箱行き。
店は当然、営業停止。
俺?
もちろん、裏口からバッくれたさ。




