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第9話 ウンコ、宿屋に行く。

 宿屋は宿屋街にあるらしい。

 門番筋からの情報である。

 

 

 昨日寝ていない俺は、宿屋街に行き、宿屋『クリーン』に入った。

 クリーンってのは、清潔って意味だ。 

 うん。小ハエが常時たかっている、俺にピッタシ。

 

 フロントには、清潔感あふれる服を着たオッサンがいた。

 たぶん、この宿の主人だろう。


「いらっしゃいませ」と主人は言った。

 おっしゃ、俺がウンコだって、気づいていないみたいだ。

 

 俺は言った。

「一泊頼む」

 主人は言った。

「職証を確認させて下さい」

 

 俺は当然、「なくした」と言った。


「ですが……」と主人。

 こいつの話ではさ。

 どこの宿屋に泊まるにも、職証の提示は必須なのだそうだ。

 

 職業『盗賊』とかを泊めたら、大変だからね。

 うん、ごもっとも。と思える俺は、危険度ゼロの善人。

 生まれてこの方、お天道様に恥じるような真似は、1回もしていないのだ。

 

 ……でも俺、ウンコなんだよね。

 

 俺はゴネた。

「金ならある」

「清潔勇者である俺を信じてくれ」

「お客様は神様なんだぞ」ってね。

 

 でも、社会の慣習は絶対だった。

 

 俺は絶望した。

 そんな俺に、主人は優しく言ってくれた。

「私どもは、どんな職業の方であっても、決して差別したりは致しません」

 

 おお、なんて人格者だ。 

 俺は感動し、職証を渡した。

 

 主人は難しい顔で言った。

「職業はウンコですか……」

 

 ウンコは必死に訴えた。

「でも心はキレイなんです! 泊めてくれますか!?」

「はい」

 主人はうなずいた。


「イエイ! おっしゃあ!」

 俺はガッツポーズした。


「料金は前払いとなりますが、よろしいですか?」

「もちろんです」

「9999Gとなります」

 俺は耳を疑った。

 

 さっき、チェックインした客は『10G』だったんだぞ。

「9999Gですが、よろしいですか?」

 主人はそう念を押してきた。

 

 ふざけやがって! 

 

 俺はキレた。

「ウンコだからって、ボッタくっていいと思うなよ!」

 ウンコを持ちながら脅した。

「ぶっ殺されてえかぁ! 店をウンコまみれにしてやんぞ!」

 

 そしたら、主人はさ。

 料金の内訳を紙に書いてくれました。

 説明するね。


 部屋代 8G

 食事代 2G

 ベッドの買い換え費  150G

 食器の買い換え費    40G

 部屋のクリーニング費 800G

 風評被害の補償金  9000G

 慈悲による割引  マイナス1G

 計         9999G。

 

 うん、ごもっとも。

 俺は納得して、宿屋を出た。

 もちろん、「失礼しました」ってちゃんと言ったよ。

「寛大な御慈悲、痛み入ります」ともね。

 

 ああ、情けねえ。




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