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勇者が銅の剣を九十九本買ってきたんだが

作者: 虹野雨中

 君は疑問に思ったことがある。旅に出て戦いに身をやつす冒険者たちを見て、一度は首を傾げた。

 しかし、そこには暗黙の了解があると感じ、本筋にはまったく関係のない矛盾に対して君はその疑問を飲み込むのだ。そしていずれそれを疑問に思うこともなく、華やかで劇的な冒険譚を見守っていく。

 これから描かれるのは、そのようにして当然の疑問をいつまでも黙って見過ごすことができないひねくれ者によって誕生した、悲しい男の物語である。


 ゆうしゃ は ふくろ に どうのつるぎ を 99ほん いれた!

「そういうことだから、よろしく」

「いやいやいや……」

 皆さんこんにちは、フクロです。違います袋じゃないです、なんですか、人を物呼ばわりして。失礼ですよ?

 ともかく今、私の眼の前には数えきれない量の鉄塊が、正確に言うならば銅塊が無造作に投げ捨てられています。曰く九十九本あるらしいですね。これから戦争かな?

「え? いや……だって……え?」

 完全にキャパオーバーです。持ち歩ける重量はもちろん、情報として。そもそも銅の剣の重さをご存知ですか? 鋳型に銅を流し込んだだけの、生産性極振りのそれは一本あたり重さ大体十キロ。それを九十九本、九百九十キロ。数字に現実感が湧かない場合は牛一頭の重さが同じくらいだと想像してくれれば良いでしょう。そんなものを持ち歩けと言われれば言いたくもなる。

「バカですか?」

「喧嘩売ってんのか?」

「ごめんなさい……」

 思ったままのことを口に出してはいけない、特に雇用主に対しては。それも、並のモンスターなら睨むだけで逃げ出すような雇用主には雇われない方が得策だ。もっと早く気がつけばよかった。

「でも、良くこんな量の銅の剣揃えれましたね」

「そこの武器屋で普通に買えたぜ?」

「えー! ここらへんはど田舎過ぎて魔王軍からも忘れ去られてるんじゃないかってぐらい平和で牧歌的な村ですやん! 近くに鉱脈があるわけでもなく、村の野菜を自給自足してるような貧しい村のはずでしょ! あっ、でもさっきのメシ屋で食った野菜シチューはうまかったですよね」

「うるせぇな、武器屋でおっさんに頼んだらすぐだったぞ? わざわざここまで持ってきてくれたし」

「その武器屋のおっさんモンスターなのでは?」

「お前な、村の中であんまり大声でそういうこと言うなよ。ほら、あそこのベンチのおじいちゃんすげぇお前睨んでるぞ。わきまえろ?」

「ひぇ、すいません……」

「大体お前、持つのが仕事だろ。それしか能がないんだから黙って運べよ」

 そう、私の仕事は荷物持ち。戦いにおいて身軽さというのは重要な要素といえるでしょう。しかし、ただでさえ野宿も多い旅に加えて、周りには凶暴なモンスター達が跋扈しているこの世界。備えは多ければ多いほど良い。さて、この二つのジレンマを解消するのはだれか? もちろん私だ、私が居なければこの旅は成立しないとまで言える。実質私が勇者といっても過言ではないのである!」

「なーに端でぶつぶつ言ってんだ。いいからこれ運べ」

「いやいや、無理ですから。そもそもこれ運んできた武器屋のおっさんほんとに人の形してました? 多分オーガみたいな見た目してたと思おうですけど」

 おそらく握力だけで石炭をダイヤモンドにしてしまうような御仁だろう。いくら物を運ぶスペシャリストの私でも、地震をパンチで鎮めるような人と一緒にしないでほしい。

「大体なんでこんな量の銅の剣が必要なんですか? どこか銅不足で困ってる村でも見つけました?」

「ん、なんでだと思う?」

 あっ、これは嫌がらせの顔だわ。

 ただの嫌がらせにしても手が込んでますね。いくらかかってる嫌がらせだよ、大掛かりすぎるよ年末のドッキリ企画か。この人、ちょっと金銭的に余裕できたからって買い物のスケールが適当すぎるんだよ。中学生に札束持たせたみたいな買い方しやがって。だから使いもしない回復アイテム買い込んで、結局怪我したら高レベルの回復魔法で治すから使わないんだよなあ。私のカバンの中見ます? いつ買ったかわからないカッサカサの薬草でパンパンですよ? 頼むからこっちも使ってください、カバンが草臭くて堪らないんです。

「はぁー、もういいわ。全部下取りに出すわ、お前が使えないから」

 はぁ? お前ぶっ飛ばすぞ?

「すいません、申し訳ないです」

 一度犯した失敗は繰り返さない。

 雇用主には、逆らわない。

「おっさん、さっきの銅の剣やっぱり返品するわ」

「困るなぁお客さん、でもまあ未使用ってことで半額で下取りなら引き取るけど」

「オッケオッケ、頼むわ」

 即決なんだ……。

 ほんとに嫌がらせのためだけの買い物だったんだな。そしてほんとに武器屋のおっさんが銅の剣担いで店の奥にしまうんだな。一昨日出くわしたでかいネズミより、おっさんの方がよっぽどモンスターだよ。もうおっさんが魔王討伐したら? ちょうどそのための武器も手に入れたしさ……


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